ブックオフで1980年代の文庫本を買うと、当時の栞が挟まっていることがある。
挟まっていないと損をしたような気分になるほどだ。
当時の栞は、広告としての役割も大きかった。
その時代に売り出したかった商品が、そこにある。
何となく捨てずに取っておいたら、いつの間にか、結構な数になってしまった。
集めるともなく集まったコレクションである。
いろいろな文庫のものがあるが、目立つのはやはり角川文庫のものだ。
あの頃、書店に行って角川文庫の棚を覗くと、赤い背表紙の片岡義男と青い背表紙の赤川次郎の本が、たくさん並んでいた。
どちらも「THE 80年代」と言いたくなるほど、懐かしい作家である。
そういえば、二人とも角川映画の原作小説を手がけている。
片岡義男は「スローなブギにしてくれ」「メイン・テーマ」「彼のオートバイ、彼女の島」などで、赤川次郎は「セーラー服と機関銃」「探偵物語」「愛情物語」など。
主演女優として活躍したのが、薬師丸ひろ子と原田知世だった。
そう思って見るせいか、広告栞の中にも、薬師丸ひろ子と原田知世が映っているものが多いような気がする。
原田知世は、東芝のダブルラジカセ「SUGAR」のCMでも人気だった。
東芝SUGARは、原田知世主演映画「天国にいちばん近い島」(1984)とタイアップした商品だっただろうか。
そんなこともあってか、手持ちの広告栞の中でも圧倒的に数が多い。
ラジカセは黒よりも赤いやつが人気という時代だった。
ラジカセと文庫本を持ってアウトドアへ出かけるというのも、当時のトレンディだったのかもしれない。
コンパクト化といえば聞こえは悪くないが、軽薄短小と揶揄された80年代らしいアイテムだったようにも思える。
もっとも、文庫本が書店の主力商品となる流れは、80年代以降も変わらなかったらしい。
毎月のように大量の文庫本が生産されているから、少し古いものはあっという間に過去のものとして忘れ去られてしまう。
ほとんどの文庫本は、出たときに買っておかないと、版元品切れ・絶版という悲しい結末が待ちうけているのだ(出版業界というところも非情なものである)。
ブックオフの書棚からも、1980年代の文庫本がずいぶんと少なくなってしまった。
ちょっと新しい店舗だと、古い文庫本を探すのにも苦労する。
2000年代前半には、まだ大量の片岡義男が、どこのブックオフにも並んでいた。
『ぼくはプレスリーが大好き』なんて、通算して10冊以上も買ったに違いない。
100円で買ってきてヤフオクに出品すれば、たちまち3000円以上の価格を付けて落札されたからだ。
今でいう「セドリ」行為だけど、近年はブックオフで『ぼくはプレスリーが大好き』を見つけることなんてない。
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80年代の古い文庫本なんて誰も買わないし、近年の文庫本を揃えておくことこそを、ブックオフの利用者は求めているからだ。
古い文庫本と一緒に、古い広告栞も消えていく。
そんなふうに考えると、ちょっと寂しい。
なんだかんだ言って、80年代の角川文庫には、我が青春があった。
赤川次郎や眉村卓の作品は、角川文庫あってこその人気だったと、僕は思う。
小さな広告栞一枚にも、読書が趣味だった中高生時代の自分の思い出が刻まれているような気がする。
ところで、小麦色に日焼けした赤いビキニの女性(沢田和美)の写真は、ヤマザキの粒入りオレンジジュースの広告。
ここで、フレッシュ句読点。
撮影は立木義浩で、ジュースの広告にも力が入っていた時代だった。