音楽

1980年代のブレッド&バター~湘南サウンドとリゾート・ポップの時代

1969年にデビューして以来、今年(2022年)で53周年を迎える兄弟デュオ、ブレッド&バター。

長い活動期間の中で、様々なスタイルにチャンレジしてきたブレバタですが、ブレバタらしいと言われる、いわゆる「湘南サウンド」を完成させたのは、1980年代のことでした。

夏の海とセットになったブレバタを楽しみたいなら、80年代のアルバムをお勧めします。

今回は、アルバムを中心に、80年代のブレバタをご紹介しましょう。

ブレッド&バターって何?

今さら感もありますが、「ブレッド&バターって何? 美味しいの?と思っている人のために、簡単にブレバタのプロフィールを紹介しましょう。

まず、ブレッド&バターは、兄・岩沢幸矢(1943年生まれ)と、弟・岩沢二弓(1949年生まれ)で構成する兄弟デュオグループです。

愛称は「ブレバタ」。

シティポップを代表する兄弟デュオグループ、ブレッド&バターシティポップを代表する兄弟デュオグループ、ブレッド&バター

1969年、シングル「傷だらけの軽井沢」(作曲が筒美京平)で、フィリップスレコードからデビュー、フォークブームを背景に、フォーク歌謡みたいなこの曲は、そこそこのヒットを記録しました。

2枚目のシングル「マリエ」もヒットして、プロとして無難な滑り出しを見せたブレバタは、1973年、移籍したレコード会社・日本コロムビアから、ファースト・アルバム『IMAGES』を発表します。

その頃のイメージは、洋楽志向のフォークソングだったようですが、洋楽への理解が浅い当時としては、ブレバタの音楽には難解なところもあったようです。

1973年に『Barbecue』、1975年に『MAHAE(真南風)』と、ブレバタは毎回テーマを変えながらアルバムを発表していきますが、兄弟の不仲が原因で、1976年、活動休止に入ります。

音楽活動を休止している間、ブレバタは、地元の湘南で<CAFE Bread & Butter>をオープンさせたりと、割と好きにやっていたようです。

当時、<CAFE Bread & Butter>には、松任谷由実(ユーミン)などのミュージシャンが集まったりして、ブレバタと音楽とのつながりが切れたわけではありませんでした。

1979年、ブレッド&バターは、アルファレコードから、湘南の香りたっぷりのアルバム『Late Late Summer』を発表して、音楽活動を再開。

アルバム収録曲で後にシングルカットされる「あの頃のまま」(ユーミン作詞作曲、呉田軽穂の名義)は、今もブレバタの代表曲となっています。

この後、ブレバタは、アルファレコードから『MONDAY MORNING』(1980)、『Pacific』(1981)と、通称「湘南三部作」と呼ばれる名盤を続けざまに発表して、湘南サウンドを確立させます。

現状に満足することのないブレバタは、その後もレコード会社の移籍を繰り返し、常にチャレンジし続ける姿勢で、新しい音楽を生み出してきましたが、ブレバタの音楽を支えているものは、なんといっても、地元・湘南に対する深い愛情。

その湘南への愛情をたっぷりと感じることができるのが、1980年代のブレッド&バターということなんです。

ブレバタは、レコード会社を替わるたびに音楽スタイルを変化させてきたグループなので、今回は、レコード会社別に区分しながら、ブレバタのアルバムをご紹介したいと思います。

湘南サウンドを確立した「アルファレコード」時代

活動休止から復活したブレバタの打ち出した路線が「湘南サウンド」でした。

歌詞の中にも積極的に湘南をイメージさせるキーワードを取り込んで、この時期のブレバタはリゾート・ソングとしてハイレベルな作品群を残しています。

活動再開第一作『Late Late Summer』(1979)は、細野晴臣がアレンジを担当。

演奏も、小原礼(ベース)、林立夫(ドラム)、佐藤博(キーボード)などのほか、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏)がリズムセクションを担当。

プロデューサーはユーミンで有名な有賀恒夫で、『Late Late Summer』は、サウンド面からも非常にレベルの高い名盤となりました。

YMOも参加している『Late Late Summer』(1979)YMOも参加している『Late Late Summer』(1979)

楽曲では、ユーミン提供「あの頃のまま」のほか、作家・伊集院静(伊達歩の名義)が作詞を担当した「渚へ行こう」、筒美京平作曲の「青い地平線」など、現在も評価の高い作品ばかり。

日本のシディポップの定番、ジャパニーズAORの名盤として、長く記憶されるアルバムです。

続いて『MONDAY MORNING』(1980)からが、正確な<1980年代のブレッド&バター>となります。

湘南三部作の2枚目となる作品で、細野晴臣がYMOの活動で忙しくなったため、アレンジャーとして、パラシュートの松原正樹を起用、演奏もパラシュートのメンバーが担当しています。

ちなみに、寺尾聡の名盤『Reflections』(1981)も、パラシュートのメンバーが演奏を担当、ミリオン・セールス・アルバムとなっています。

職人集団パラシュートが参加している『MONDAY MORNING』(1980)職人集団パラシュートが参加している『MONDAY MORNING』(1980)

アルバム1曲目から3曲目まで並ぶ「Hold On」「Monday Morning」「クルージング・オン」のビーチ・ナンバーは、真夏の定番ソング。

デビュー2作目の「マリエ」の再録音や、シティ・ファンクの名作「ジャパニーズ・ウーマン」など、サウンド面からもポイントの多いアルバムです。

湘南三部作の最後を飾るのは『Pacific』(1982)。

アレンジは、前作に続いて松原正樹と井上鑑、バック演奏はパラシュートのメンバーが参加しています。

アルバム1曲目の「HOTEL PACIFIC」はユーミンの作詞作曲、ライブでも人気の代表曲「SHONAN GIRL」、メロウな朝にゆったりと聴きたい「第二土曜日」など、充実したラインナップ。

ギャルソンで有名な井上嗣也がジャケットデザインを担当した『Pacific』(1982)ギャルソンで有名な井上嗣也がジャケットデザインを担当した『Pacific』(1982)

ジャケット・デザインも、パルコやコム・デ・ギャルソンの広告デザインを手がけた井上嗣也が担当するなど、隅々まで洗練された構成となっています。

湘南三部作は、現在も入手可能なので、本当は全部聴いてほしいところですが、一度に全部は聴けないという方は、ベスト・アルバム『BREAD & BUTTER PARTY』(1981)がお勧め。

メンバー公認ベスト・アルバム『BREAD & BUTTER PARTY』(1981)メンバー公認ベスト・アルバム『BREAD & BUTTER PARTY』(1981)

既に廃盤となっていますが、メンバー公認としては初めてとなるベスト盤で、代表曲「ピンク・シャドゥ」の新録音など、日本コロムビア時代の名曲も収録されています。

ブレバタの湘南サウンドだけを楽しみたいという方には『Sunday afternoon』を。

メンバー非公認ベストですが、湘南の作品に絞った選曲が、アルファ時代のブレバタを象徴していて、僕は好きです(中古で入手が容易)。

湘南サウンドをラインナップしたベスト・アルバム『Sunday afternoon』湘南サウンドをラインナップしたベスト・アルバム『Sunday afternoon』

隠れた名曲の宝庫「TDK RECORDS」時代

TDK RECORDS に移籍して最初に出したアルバムが『Night Angel』(1982)です。

TDK RECORDS は、1982年に設立されたばかりの新しいレコード会社で、予算が豊富にあったためか、ブレバタの『Night Angel』もハリウッド録音。

アメリカ人ミュージシャンをバックバンドに据え、6年ぶりのセルフプロデュースで、エッジィなサウンド+コーラスを乗せる路線は、当時のブレバタの二人が本当にやりたいことだったということでしょう。

ジャケット・デザインは、ボブ・スキャッグスやサミー・ヘイガーのジャケ写で有名なモッシャ・ブラッカが写真を担当。

とことんアメリカのスタッフに囲まれて製作したアルバム故、すべての作品名が英語タイトルとなっています。

楽曲としては、後々ベスト・アルバムにも収録されることになる「DANCING IN THE NIGHT」がいいです。

『Night Angel』(1982)と『Fine Line』(1983)の2枚組CD『Night Angel』(1982)と『Fine Line』(1983)の2枚組CD

次の年、ブレバタは、TDK RECORDS 2枚目となる(そして最後となる)アルバム『FINE LINE』(1983)を発表。

銀座のスモーキースタジオで録音された、このアルバムは、リハーサルで編曲を固めていくヘッドアレンジの手法が導入されており、息の合ったメンバーとの楽しいレコーディングだったようです。

表題作「FINE LINE」は、後にサムシング・エルスもカヴァーしているシティ・バラードの名曲。

「美しいハリケーン」など、美しい旋律がブレバタのコーラスで再現されている曲が多いようです。

TDK時代のアルバムは、1995年に再発されていますが、残念ながら現在は入手困難。

LPレコードでのみ製作されていたTDK時代唯一のベスト・アルバム『SURF CITY』(1984)も、同じく1995年にCD化されているのですが、やはり入手は難しいようです。

TDK時代唯一のベスト・アルバム『SURF CITY』(1984)TDK時代唯一のベスト・アルバム『SURF CITY』(1984)

ちなみに、ベスト盤『SURF CITY』には、オリジナル・アルバムには収録されなかったシングル曲「冬のハイビスカス」(ユーミンが作詞)が収録されています。

ブレバタが好きという人でも、意外と知らない曲が多いという、不思議なTDK RECORDS 時代でした。

ヒット曲を目指した「FUN HOUSE その1」時代

TDKからFUN HOUSEへ移籍したブレッド&バターは、アルバム『Second Serenade』(1984)を発表します。

「FUN HOUSE」は、オフコースや甲斐バンド、チューリップ、稲垣潤一らを擁する東芝EMIの「ファンハウスレーベル」が独立して誕生した、新しいレコード会社。

力のあるレコード会社と組んだブレッド&バターは、それまであまり縁のなかった<ヒット曲>を目指して作品作りを始めます。

キャッチーなシティポップ満載の『Second Serenade』(1984)キャッチーなシティポップ満載の『Second Serenade』(1984)

アルバム『Second Serenade』には、「ばらけたイニシャル」(安部恭弘が作曲)や「引き潮カフェ」など、キャッチーな作品が満載。

次に発表される『remember my love』(1986)は、スティービー・ワンダーの楽曲「Remember My Love」と「特別な気持ちで (I Just Called To Say I Love You)」を中心に構成されたミニ・アルバムです。

ミニアルバム『remember my love』(1986)はLPレコードのみの販売ミニアルバム『remember my love』(1986)はLPレコードのみの販売

スティービー・ワンダーの名曲「特別な気持ちで (I Just Called To Say I Love You)」は、ユーミンが日本語の歌詞を付けています。

残念ながら、これまでCD化されておらず、中古盤のLPレコードを入手するしか方法がありません(CD化を熱く希望します!)。

この時期、ブレバタは人気漫画が映画化された『タッチ2』の主題歌「さよならの贈り物」をシングルで発表、知名度を一気に上げます。

FUN HOUSEのヒット曲路線のピークが、この『タッチ2』の主題歌で、スティービー・ワンダーとあだち充という二つのビッグネームが、ブレッド&バターを支えていた時代でもありました。

『タッチ2』の主題歌を収録したベスト盤『MIRACLE TOUCH』(1986)『タッチ2』の主題歌を収録したベスト盤『MIRACLE TOUCH』(1986)

ベスト・アルバム『MIRACLE TOUCH』(1986)は、キャッチーなシティポップというブレバタの魅力を一枚に収録しているので、興味のある方にはお勧め。

そして、その後に発表されたオリジナル・アルバムが、松任谷正隆がアレンジを担当する『或る夜の出来事』(1987)です。

松任谷正隆がアレンジを担当した『或る夜の出来事』(1987)松任谷正隆がアレンジを担当した『或る夜の出来事』(1987)

これまでの湘南サウンドから脱皮した、新たなブレッド&バターの魅力が感じられますが、あまりのイメチェンに戸惑うファンも少なくなかったとか(笑)

楽曲としては、今も人気の「センチメンタル・フレンド」が収録されています。

ニューヨークで完成した「FUN HOUSE その2」時代

アルバム『MISSING LINK』(1989)は、ブレバタ結成20周年を記念して製作されたアルバムで、二人が敬愛するフィフス・アヴェニュー・バンドのピーター・ゴールウェイがプロデュースを担当しました。

レコーディングはニューヨークで、ジェームス・テイラーやジョン・セバスチャンなどの豪華ミュージシャンもゲスト参加。

湘南サウンドをニューヨークの乾いた風に乗せて再現したアルバムが、この『MISSING LINK』だったと言うことができそうです。

ピーター・ゴールウェイのプロデュースによる『MISSING LINK』(1989)ピーター・ゴールウェイのプロデュースによる『MISSING LINK』(1989)

シングルカットもされた「ワイオミング・ガール」は、旧知の仲である井上陽水の作詞作曲。

ピーター・ゴールウェイ作詞作曲の「ファッション・ラヴァー」の日本語詞も、井上陽水が担当していますが、この曲は、日本のAORを代表する絶対的名曲です。

ピーター・ゴールウェイと意気投合したブレッド&バターは、全曲新録音となるベスト・アルバム『マリエ』(1989)を、再びピーター・ゴールウェイと製作します。

ブレバタの名曲が、ピーター・ゴールウェイのアレンジで現代に甦ったという感じで、このアルバムは、数あるブレバタのベスト盤の中でも群を抜いて素晴らしい出来栄え。

全曲新録音となるベスト・アルバム『マリエ』(1989)全曲新録音となるベスト・アルバム『マリエ』(1989)

ベスト・アルバムは当時の音源で聴きたいと考えるファンは多かったようですが、ブレバタの魅力を再発見できるという点では、絶対にお勧めの一枚です。

そして、「ピーター・ゴールウェイ三部作」の最後を彩るのが、アルバム『水の記憶』(1991)です。

正確には1990年代ですが、1980年代ブレバタの集大成としてふさわしいアルバムだったと思います。

湘南サウンドのシングル曲「君がいた夏 (セイラリエス)」や、ヤマザキパンのCMソング「イフ」(アメリカのバンド・ブレッドの作品)などを収録。

「ピーター・ゴールウェイ三部作」の集大成『水の記憶』(1991)「ピーター・ゴールウェイ三部作」の集大成『水の記憶』(1991)

なお、この時期のシングル曲は、オリジナル・アルバムに収録されていないものも多いのですが、「僕の知らない夏」「London-Paris-New York-湘南」「奇跡のヴィーナス」などは、ベスト・アルバムで聴くことができます。

ブレバタは、オリジナル・アルバムと同じくらいにベスト・アルバムの多いアーチストですが、わずか数曲(下手をすると一曲)のためにベスト盤を購入するというのが、ブレバタ・ファンの宿命のようです(笑)

お勧めは、アルバム未収録の「奇蹟のヴィーナス」「ETERNAL FRIEND-その微笑みで-」「僕の知らない夏」「London-Paris-New York-湘南」を収録したベスト・アルバム『スーパーベスト2000』(1995)。

レア曲満載のベスト・アルバム『スーパーベスト2000』(1995)レア曲満載のベスト・アルバム『スーパーベスト2000』(1995)

「ばらけたイニシャル」「夢がとぶ」「さよならの贈り物」のキャッチー路線から、「Remember My Love」「特別な気持ちで(I Just Called To Say I Love You)」のスティービー・ワンダー作品、ピーター・ゴールウェイ・プロデュースの「ワイオミング・ガール」「君がいた夏[セイラリエス]」まで、1980年代後半のブレバタを一通り味わうことができて、お得感は十分にあると思います。

時代によって柔軟にスタイルを変えてきたブレッド&バターですが、通奏低音として共通しているのは、やっぱり「湘南サウンド」です。

サザンオールスターズやチューブも悪くないけれど、「夏と言えばブレッド&バター」という湘南サウンドの魅力を、皆さんも楽しんでみてくださいね。

まとめ

ということで、以上、今回は、1980年代のブレッド&バターの作品について、アルバムを中心にご紹介しました。

スタイルを変えながら、一貫して湘南サウンドにこだわり続けてきたブレバタの魅力を、最もしっかりと感じることができる、それが、80年代のブレッド&バターの作品群だと思います。

2022年の夏を、1980年代のブレバタで楽しんでみてはいかがですか。

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kels
バブル世代のビジネスマン。読書と音楽鑑賞が趣味のインドア派です。お酒が飲めないコーヒー党。洋服はアーペーセーとマーガレット・ハウエルを愛用しています。