カローラⅡに乗った女の子と付き合ったことがある。
あれは1992年で、僕は25歳だった。
小沢健二が歌ったCMソング「カローラⅡに乗って」が話題になるのは、それからしばらく後、1994年のことである。
光るナンバープレートだった彼女のカローラⅡ
彼女のカローラⅡは、難しい紫色をしていた。
世の中は、まだバブル経済を引きずっているような時代で、自動車にもいろいろなカラー・バリエーションがあったのだろう。
ちなみに、僕が乗っていたのはホンダのアコードで、色は<ガンメタ>と表記されていた。
なかなか複雑な時代である。
仕事が終わると、彼女はカローラⅡに乗って、僕の部屋までやってきた。
一緒に夜を過して家に帰るのは、もう明け方に近かったのではないだろうか。
彼女の自宅までは、自動車で30分以上はかかるはずだった。
ある日、「ゆうべ、捕まっちゃった」と、彼女は言った。
裏道を走っているうちに、一時停止無視をしたところを、待っていたパトカーに捕まったしまったのだ。
いつも通っている道だから、パトカーが待ち伏せしていることは知っているはずなのだが、もう明け方に近いということで、頭が疲れていたのかもしれない。
あるいは、さすがに夜が明ける前に帰宅しなければならないと、焦っていたのだろうか。
もっとも、彼女の運転には、時々とても無謀だと思われる瞬間があった。
助手席に僕が乗っているときに、道沿いのお巡りさんに止められそうになったことがある。
僕がシートベルトを締めていなかったせいだろう。
ところが、彼女は車を停めるどころか、アクセルを思いきり踏んで、お巡りさんの制止を振り切ろうとした。
女の子が逃げようとしたので、お巡りさんもカッとなったのだと思う。
通り過ぎようとするカローラⅡのパープルのボディを、お巡りさんは警棒で思いきり叩いた。
走り去る自動車を警棒で叩いたところで自動車は止まるはずもないから、お巡りさんとしては、悔しい気持ちを警棒に込めて、せめてもの怒りを表現したかったのだろう。
それにしても、無茶なことをするなあと、僕は思った。
もちろん、彼女も、お巡りさんも、だ。
あの頃のカローラⅡは、1990年にデビューした3代目の時代で、全体に丸みを帯びたデザインがかわいらしくて、若い女性にも人気だったようだ。
室内インテリアもゴージャスで、友人が乗っていた2代目カローラⅡとは、随分違うなあと思った。
おまけに、彼女のカローラⅡは<光るナンバープレート>を付けていたから、パープル色のカラーと相まって、格段にオシャレな車であることは間違いなかった。
小沢健二の「カローラⅡにのって」を聴きながら
そんなことがあったから、1994年に小沢健二が「カローラⅡにのって」を歌ったときは、真っ先に彼女のことを思い出した。
オザケンの「カローラⅡにのって」はCMのみの予定だったが、あまりに反響があったので、シングルCDとして発売されることになったらしい。
このときのカローラⅡは、彼女が乗っていた3代目から、新しい4代目へとモデル・チェンジされたもので、彼女の車とは、やっぱり全然印象の違う自動車になっていた。
カローラⅡにのって
買いものにでかけたら
サイフないのに気づいて
そのままドライブ
彼を迎えにでかけて
もう1時間 待ちぼうけ
カローラIIはその時
私の図書館
信号待ちで並んだ
同じカローラIIは
幼なじみの彼が
彼女とドライブ
こんど 友達を誘って
遠い町まで行こう
口笛を吹きながら
カローラIIでドライブ
(♪くちぶえ~)
日ようび
カローラⅡにのって
パーティに でかけよう
お酒のめない あなたは
わたしのドライバー
あした きみのカローラⅡで
ぼくの家まで おいで
カローラⅡにのって
どこまでも行きたいな
ずっとずっと
どこまでも
道はつづくよ
カローラⅡにのって
ラララララララ ラララ
ラララララララ ラララ
小沢健二「カローラⅡにのって」
今にして思うと、ずいぶんとのんびりとした歌だったんだなあ。