音楽

「生きにくさ」を抱える若者たちを描いた若き日の辻仁成とECHOES

「生きにくさ」を抱える若者たち

人事業務を担当していると、いろいろな人間と出会う。殊に「生きにくさ」を抱える若者たちが増えたなと感じる。多くの若者たちが、何らかの事情を抱えながら生きることに苦労している。

自分の職場で確認してみたところ、実に1割以上の人間が、個別の問題を抱えていることに気付いた。うつ、不安神経症、アスペルガー症候群、注意欠陥障害、ギフテッド。彼らの多くは、本当の自分と正対することができないでいるように見える。

辻仁成とECHOES

彼らと話をしながら、僕は遠い昔に聴いた古い音楽のことを思い出していた。辻仁成が在籍していたロックバンドECHOES。あれは1980年代のことで、辻仁成曰く、ECHOESは「ブレイク寸前で解散したバンド」だった。

その頃ECHOESは、80年代らしいメッセージ性の強い歌を歌っていた。主人公は、いつでも「生きにくさ」を抱える若者たちだった。集団や社会に上手に適応することができなくて苦しむ若者たちに、辻仁成はスポットライトを当てていたのだ。

落ちこぼれていく子どもたち

僕のこと、友達が噂する、この街で一番の変わり者ってさ
誰よりも浮いているかもしれないけれど
同じ色に染まりたくはないだけなのさ
ECHOES「Strange People」(1988年)

80年代、ECHOESは落ちこぼれの子どもたちに注目した、数少ないロックバンドのひとつだった。

落ちこぼれの子どもたちを歌ったロックバンドは多いと言われるかもしれない。尾崎豊、ザ・ブルーハーツを筆頭とする多くのパンクバンドたち。確かに彼らの作品では、学歴社会から落ちこぼれた若者たちが多数描かれている。

しかし、彼らの歌の中で、落ちこぼれの若者たちは、落ちこぼれの若者たちとしての集団を形成していた。多くの場合、彼らはいじめられっ子ではなかったし、引きこもりでもなかった。学校や社会に反逆する存在として、彼らは彼らの存在意義を見いだしていた。

ECHOESの作品には、そんな反逆集団にさえ加わることのできない若者たちが、多く登場する。いじめられっ子、ひきこもり、集団からの孤立、無気力、ひとりぼっち。コミュニケーションに障害を抱えながら、集団に加わることさえできずに苦しむ若者たち。

現代から考えると、時代はもっとシンプルだったのかもしれない。なにしろ、30年以上も昔の話だ。当時はダイバーシティの議論さえ生まれていなかっただろう。

そんな時代、社会に適応できない若者たちは、ただ「変わり者」と呼ばれた。社会は彼らを理解しようとはしなかったし、学校は彼らに寄り添おうとはしなかった。みんなと違う「生きにくさ」を抱える者だけが、集団の中から取り残されていたのだ。

社会の危険サイン

あの頃、こうした「変わり者」は一概に「不器用な若者たち」として整理されることが多かったような気がする。個々が抱える問題が注視される時代ではなかった。社会に適応する者か否か、世の中にはどちらかしかなかったのだ。

30年後の今、ECHOESの音楽を聞き返してみると、実に様々な発見があることに驚かされる。いじめ、登校拒否(不登校)、発達障害、落ちこぼれ、家庭崩壊、コミュニケーション障害。子どもたちを取り巻く問題は、実に多様な形を持って表出し始めていた。

それは、現代社会が抱えるトラブルの危険サインだった。辻仁成は、子どもたちの変化を敏感にキャッチして、メロディに乗せて歌ったにすぎない。メロディに乗せて歌うことで、ECHOESは社会に適応できない子どもたちに寄り添い続けていたのだ。

「生きにくさ」を抱える者たちの時代

今、時代は変わった。社会は様々な問題を抱えながらて生きる人々で形成されている。そこには「変わり者」も「落ちこぼれ」もない。

今こそ僕たちは、辻仁成のメッセージをしっかりと受け止めるべきではないだろうか。30年前に発せられた「生きにくさ」を抱える者たちからの危険サイン。人事業務を抱えるビジネスマンは、そのことにもっと関心を払うべきである。

令和の時代は、「生きにくさ」を抱えながら生きる者たちの時代なのかもしれないのだから。

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1967年生まれのバブル世代。80年代カルチャーしか勝たん。推しは仙道敦子。匂いガラスが欲しい。