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高橋輝次編「古本漁りの魅惑」意外と硬派な古書エッセイのアンソロジー

高橋輝次編「古本漁りの魅惑」あらすじと感想と考察

高橋輝次編「古本漁りの魅惑」読了。

本書「古本漁りの魅惑」は、古書について書かれた古今のエッセイをまとめた、いわゆるアンソロジーである。

意外と硬派な随筆集

読む前には、もう少し軽いエッセイ集のようなものをイメージしていたが、意外と硬派な随筆集になっているので、良い意味で裏切られた。

収録されているエッセイは、古いもの(大正時代)から比較的近年のもの(平成時代)まで幅広い。

編者の思いは「はじめに」で記されている。

本書は、著名な作家、文学者や学者の中でもとりわけ古書好きの方々が、自己の人生途上で、洋の東西にわたって出会った古本屋や店主たちのおもかげ、古書をめぐる珍談、奇談、不思議な因縁、古書へのうんちくなどを、生き生きと楽しげに、ゆったりとした筆致で綴っており、さすがに名筆家の手になるだけに、どれもこれも興趣が尽きない。(高橋輝次「古本漁りの魅惑」はじめに)

編者は、古本をテーマにしたアンソロジーとしては、作品社「日本の名随筆シリーズ」の中に『古書』があることに触れて、本書では未収録の文章を一冊にまとめたとしている。

意外と硬派な随筆集だと思ったのは、目次の中に、僕の好きな福原麟太郎や奥野信太郎、上林暁、八木義徳、結城信一などの名前が並んでいたから(もっとも、こうした著者の随筆は、ほとんどが既読のものではあった)。

古書について書かれた、まともなエッセイを読みたいという方には、おすすめの一冊である。

志賀直哉の「白樺」を手に入れた尾崎一雄

本書には、良い随筆がたくさん入っているが、特に印象深いのは尾崎一雄「初版本の思い出」である。

古本好きというのは、何かとコレクターになりがちで、初版本や署名本を集めたがる人が多い。

作家の尾崎一雄もその口で、自分の好きな作家のものは全部初刊本で見たい、刊本を揃えると、その作品が載っている雑誌を見たい、再販が出るとそれもほしい、というような習性があったらしい。

もっとも、これは、作品の修正過程を確かめるための、文学的研究心に由来していたと、本人は語っている。

その尾崎一雄が、戸塚の大観堂書店で、雑誌「白樺」一揃い百五十冊くらいを見つけた。

神田や本郷では五十円で出ていたものだが、値段を訊くと「三十五円位ならいいです」と言う。

「三十五円なら欲しいな、どれ」と一冊とってみた。第一号である。表紙は見慣れているから平気で手にとったが、「おや」と思ったのは、その見慣れた表紙に押された印である。丸の中に直哉とある。私は胸がドキドキして来た。少しせき込んだ調子で「これ、どこから出たの?」ときくと、「我孫子へ行きましてね、志賀さんからですよ」(尾崎一雄「初版本の思い出」)

志賀直哉の作品を聖典としていた著者は、もちろん即断で購入するが、それは、まさしく「鬼の首をとった」といった心持ちだった。

古本を好きな人間にとって、このような掘り出しは、まさに夢のような出来事であって、尾崎一雄も「とうとう私は、エドモン・ダンテのように、一大宝庫を捜しあてた」と、そのときの興奮を綴っている。

掘出物の魅力については、上林暁「古本漁り」の中でも触れられている。

しかし、改まった気持で遠征(?)に出かけて、重たい風呂敷包みを小脇に抱えて帰って来るよりも、夕方など阿佐ヶ谷か荻窪あたりへフラッと散歩に行って、思いがけぬ本を一冊か二冊手に入れ、浮き浮きした気持で帰って来る時の方が、楽しさは勝るようだ。(上林暁「古本漁り」)

こうして手に入れた古本の中には、芥川龍之介『羅生門』(大正6年・阿蘭陀書房)や、竹久夢二『山へよする』『夢のふるさと』(いずれも大正8年・新潮社)などがあったという。

古本を愛するという気持ちは、職業作家も一介の学生も、そんなに変わるものではないらしい。

書名:古本漁りの魅惑
編者:高橋輝次
発行:2000/3/21
出版社:東京書籍

ABOUT ME
みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。