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テレビアニメ「ハートカクテル」バブル時代を生きるオシャレな男女の恋愛模様

「ハートカクテル」が好きだった友人について。

1980年代の終わり頃、「ハートカクテル」というテレビアニメがあった(日本テレビ系)。

わたせせいぞう原作、「モーニング」に連載されているコミックをアニメ化した番組で、放映開始は1986年(昭和61年)。

僕らが大学一年生になった秋のことだった。

テレビアニメといっても、毎週金曜日、大人向けの深夜放送(放映時間は、当初「25:05~25:10」だったが、途中で「24:50~24:55」に変更されている)。

「たばこ1本のストーリー ハートカクテル」という放映タイトルだったのは、日本たばこ(JT)がスポンサーだったからだ。

「ハートカクテル」の登場人物は、ヤンエグ(ヤングエグゼクティブの略称)と、その恋人みたいなパターンが多くて、大学生の僕らには、なかなか現実味のない話が多い。

それでも、大学の仲間の中には、この「ハートカクテル」が大好きだという男の子がいた。

彼は、ウイスキーの水割り片手に煙草をくゆらせながら、このテレビアニメを観ることを、週末の密かな楽しみとしていた。

北海道の地方都市出身者だった彼のアパートの部屋は、狭いながらも「ハートカクテル」の世界観への憧れを表すように、こざっぱりとオシャレに整えられていた。

80年代後半というと、家電製品にもデザイン性の高い商品が普及し始めた時代だ。

彼の部屋に行くと、そんなポップなインテリアを楽しむことができた。

アナクロな連中が多い僕らのグループの中では、誰よりも1980年代的な大学生が、つまり、彼だったわけである。

そんな彼だから、テレビアニメの「ハートカクテル」を楽しみにしているというのは、ある意味で必然であり、むしろ、「ハートカクテル」の雰囲気は、彼にぴったりと溶け込んでいるくらいだった。

ちなみに、僕がテレビアニメ版「ハートカクテル」をちゃんと観たのは、1990年代になってからのことで、もちろん、テレビ放送はとっくの昔に終わっていた(1988年3月に放送終了、全77話)。

振り返ってみると、「ハートカクテル」は1年半だけの短い放送だった(印象としては、バブルが弾けるまで放送されていた感じがするけれど)。

アニメと言っても、5分間で1話完結の隙間番組。

静止画が中心で、セリフもナレーションベース。

原作漫画を忠実に再現したが故だったけれど、永遠に続くことができるような番組ではなかったのかもしれない。

僕はレンタル落ちVHSビデオを入手して、流行遅れのトレンド・アニメを楽しんでいたけれど、「ハートカクテル」には確かに、華やかな時代の華やかな雰囲気があった。

クリスマス、遠距離恋愛、ライトビールと熱いピッツァ、流行のスーツを着たビジネスマンと、流行のボディコンに身を包んだ美しい女性たち。

漫画というよりも、それは詩の世界に近い物語だった。

まるで、雰囲気だけの世界で生きているようなキャラクターたちの生活は、それこそが、まさしくバブル景気の時代というもの。

松岡直也の軽快なフュージョンが、そんな雰囲気だけの世界を、一層華やかに彩ってくれる。

夢のような世界の物語だけど、そんな夢を見ることができるのも、また、バブルという時代であったのかもしれない。

都会的で洗練された登場人物たちのオシャレな暮らし。

彼が「ハートカクテル」に求めていたものは、きっとそんな世界観だったんだろうな。

大学を卒業後、彼は「ハートカクテル」のスポンサーだった日本たばこ(JT)に就職。

「ハートカクテル」の世界をリアルに歩み始めたかに見えたが、2年後、研修で訪れていた異国・中国で交通事故に遭って死んだ。

「ハートカクテル」の世界は、まだ始まったばかりだったのに。

彼の中で「ハートカクテル」は、きっと今もまだ終わっていないんだろうな。

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kels
バブル世代のビジネスマン。読書と音楽鑑賞が趣味のインドア派です。お酒が飲めないコーヒー党。洋服はアーペーセーとマーガレット・ハウエルを愛用しています。