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「季刊COBALT」創刊号に掲載された赤川次郎「一番長いデート」

集英社の「青春と読書」2021年8月号で、赤川次郎さんの著作が紹介されていました。

赤川次郎さんの約2年ぶりの新作『夜ごとの才女 怪異名所巡り11』について書かれた、朝宮運河さんの書評です。

1980年代、ものすごい赤川次郎ブームのようなものがあって、当時の赤川次郎さんは、毎年多くの著作を出版していました。

よく、あんなにアイディアがあるものだと、全国民が感心していたくらいに。

その頃、赤川次郎さんと言えば、角川文庫が定番でしたが、管理人は集英社文庫の赤川次郎さんを愛読していました。

今回は、そんな集英社文庫から『一番長いデート』をご紹介します。

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概要

『一番長いデート』は、赤川次郎さんの中編小説です。

集英社文庫のコバルトシリーズでは、表題作『一番長いデート』のほかに、『孤独な週末』『殺してからではおそすぎる』と併せて、全部で三つの作品が収録されています。

表題作の『一番長いデート』は、集英社の文芸誌「COBALT」創刊号(昭和57年/1982年・夏号)に掲載されました。

当時、管理人は15歳の中学3年生、クラスメートに隠れて「COBALT」を愛読する「コバルト男子」で、この『一番長いデート』も、コバルト掲載で読んだ記憶があります。

タイトルの前に「ユーモアミステリー」と記されているように、ついニヤニヤしてしまう、楽しいミステリー小説です。

それにしても、このボリュームの赤川次郎作品が掲載されるんだから、「COBALT」創刊に対する集英社の熱意が伝わってきますね。

この頃、赤川次郎先生は34歳。小説家として、脂が乗りまくりの時期でした。

次の『孤独な週末』は、同じく集英社の「小説ジュニア」昭和54年(1979年)11月号に掲載された中編小説です。

本書収録品の中では、唯一「ユーモア」のつかないサスペンス作品。

当時、管理人は12歳の小学6年生で、この頃は、さすがに「小説ジュニア」は読んでいなかったような気がします。

ちなみに、管理人が「小説ジュニア男子」になるのは、中学校に入ってから。そのまま「コバルト男子」へと移行しました。

最後の短篇『殺してからではおそすぎる』は、「小説ジュニア」昭和57年(1982年)2月号掲載。

本書の中では、一番短い作品です。

文庫本としては「おまけ」みたいな存在でしょうか。

あらすじ

集英社文庫『一番長いデート』には、三つの作品が収録されています。

一番長いデート

主人公の坂口俊一は、私立大学の一年生。

背が低くて童顔なので、女子学生からは「坊っちゃん」「お坊っちゃま」などと、からかわれています。

勉強が苦手で、スポーツも苦手、歌っては音痴を証明し、年に三度は財布か定期入れを落とすというのが特技では、なかなか恋人もできません。

誰と遊んでも喧嘩しない、人柄の良さが取り柄と言えば取り柄ですが、周囲からは高く評価されるよりも、馬鹿にされて利用されることばかりが多いという、いかにも損な性格。

だから、頭脳明晰、スポーツ万能、女子大生憧れのイケメン同級生・竹本洋一郎から、「今夜、オレ、うっかりしてデートふたつ約束しちゃったんだよ」と相談を受けたときも、あっさりとデートの代役を引き受けて、「ありがとう」とお礼まで言う始末です。

デートのお相手の池沢友美は、キャンパスでも目立って美人のひとりで、スタイルも抜群に良いという、最高の女子大生ですが、女の子とデートの経験がない俊一は、竹本から言われたとおり、ロックコンサートに行った帰りは、公園を散歩して、最後には友美を家まで送っていこうとします。

ところが、突然現れた謎の二人組が友美を誘拐、「彼女を無事に返してほしければ、言われたとおりに人を殺して来い」と言って、俊一に拳銃を渡します。

竹本に相談しても「自分で始末しろ」と相手にしてくれず、警察へ通報すれば友美を殺してしまうと脅されて、俊一はにっちもさっちもいかなくなってしまいます。

果たして、このドジでマヌケな男の子の運命やいかに。

なにしろ、友美を無事に家へ送り届けるまでは、俊一のデートも終わらないのですから。

孤独な週末

主人公の小杉紀子は24歳で、三日前に結婚したばかり。

夫の小杉紳吾は40歳の元上司で、紀子は、つい先日まで、このスーパービジネスマンの秘書を務めていましたが、仕事を介して互いの理解が深まり合い、とうとうゴールインということになったのです。

幸せいっぱいの紀子ですが、不安要素がないわけでもありません。

というのも、紳吾には亡くなった前妻との間に11歳になる息子・正実がいて、紀子は24歳にして、いきなり11歳の男の子の母親になってしまったからです。

結婚間もなく、紳吾と紀子と正実の一家三人は、軽井沢にある別荘へと泊りがけの旅行へ出かけますが、スーパービジネスマンの紳吾は、すぐに会社から呼び戻されて、三日ほど別荘をすることになります。

正実と二人きりになって、紀子は困惑しますが、とにかく母親の役割を果たさなければいけないと、気持ちを落ち着かせたところで、その事件は起きました。

「あんたを殺したかったのさ」

次から次へと起こる不可解な事件。

若い女性に父親を奪われた正実の喪失感。

果たして紀子は、紳吾が仕事から戻ってくるまで、無事に生き延びることができるのでしょうか、、、

殺してからではおそすぎる

主人公の村井弘美は、都立N高校の二年生。

美人というわけではないが、まずはちょっとかわいい女の子ですが、「ブキミ(不器用な弘美)」のニックネームがつくくらいに不器用で、いつもみんなにからかわれています。

だから、その日、フルーツパーラーでクリームミツマメを食べながら「私、いま、催眠術をかける稽古してるの」なんて言ってしまったときも、クラスメートの関口久美子たちは大笑いをして、まったく相手にもしようとしません。

喫茶店で落ち込んでいる弘美を見て、ボーイフレンドの佐川勇一(私立高校三年生のイケメン男子)は「元気出せよ」と慰めてくれるだけではなく、やってみないと分からないからと笑いながら「ぼくにかけてみろよ」と言います。

当然に成功するとも思わず、弘美は「私のことをばかにした関口久美子を初め、クラスメートたちをひとり残らず殺して来なさい」と命じますが、勇一は、そのままフラフラと店を出て行ってしまいます。

そして、その夜、関口久美子が殺されました。

果たして、犯人は勇一なのか?

弘美は、真相を確かめるべく事件現場へ向かいますが、弘美自身も殺されかけてしまって、、、

読書感想と解説

「ユーモアミステリー」というタイトルのとおり、時折ジョークも交えながら、赤川次郎の小説はテンポ良く展開していきます。

「COBALT」創刊号の目玉作品のひとつ

表題作『一番長いデート』は、最近ではあまり話題になることもないようですが、「COBALT」創刊号の目玉作品のひとつということで、さすがに充実した作品。

ドジでマヌケな大学生という主人公の設定と、デートの途中に誘拐されてしまうというプロットが、青春ミステリーとして読者の関心を高めているのはもちろん、途中で死体が入れ替わるという本格ミステリーばりのトリックが入るあたりは、推理小説マニアも納得のストーリー展開ではないでしょうか。

ただ、この作品の醍醐味は、あくまでも若い世代に向けて書かれたカジュアルなミステリー小説というところにあるので、謎解きだけではなく、俊一と友美という大学生カップルの行方にも注目したいところです。

「ねえ、今夜はどこかに泊まって、デートの記録を更新しない?」という友美の色っぽい言葉は、いつまでも印象に残りました(笑)

継母を迎えた少年の歪んだ心理

『孤独な週末』は、継母を迎えた少年の歪んだ心理を描いている小説で、ホーム・サスペンスの設定としては重いです。

山の中の別荘に、自分を憎悪する少年と二人きりで閉じ込められた紀子の心境を考えると、かなりゾッとしますが、小説の設定としては成功しているということなんでしょうね。

ベートーヴェンの「英雄」や、メリー・ポピンズの「ひとさじのお砂糖」など、音楽が効果的に用いられていて、映画好きの赤川次郎さんらしい演出。

主人公の紀子はコーヒー好きで、「高校生のころから自分でいれて飲むようになったし、喫茶店を渡り歩いて、おいしい店があると聞くと、わざわざ電車に乗ってまで出向いたものだ」などの設定は、若い若い女性がライフスタイルを重視するようになった時代背景を映し出しているような気がします。

青春ミステリーの王道

『殺してからではおそすぎる』は、一転してユーモアミステリーの短篇小説。

短いページ数の中で殺人と謎解きが含まれていて、爽やかな高校生カップルが主人公というのも、青春ミステリーの王道ですね。

本格的なミステリーマニアには物足りないかもしれませんが、僕は、むしろ、このくらいの作品の方が、詰め込みすぎていないので、青春ミステリーとして楽しめるのではないかと感じました。

細かいことですが、要所要所で登場する弘美の母親が、いい役割を果たしています。

「コバルト・ノベル大賞」募集のお知らせ

作品とは全然関係ありませんが、巻末には「コバルト・ノベル大賞」募集の広告が掲載されています。

選考委員は、赤川次郎、阿刀田高、阿木燿子、眉村卓。

こういう広告を読んで、自分でも小説を書こうと思っていたんですよね、、、(遠い目)。

どうでもいいけど、「季刊コバルト」のキャッチコピーって「もうひとつの愛に会えるロマンス・ジャック・マガジン」だったんですね。

よく店頭で買ってたな、高校生の自分、、、(その勇気を讃えてあげたい気分です)。

まとめ

ということは、以上、今回は1980年代の軽快な青春ミステリー、赤川次郎さん「一番長いデート」について全力で語ってみました。

集英社「季刊コバルト」創刊号に掲載されたユーモアミステリー小説。

あの頃の「コバルト」に会いたくなったときに、どうぞ。

書名:一番長いデート
著者:赤川次郎
発行年月日:1982/11/15
出版社:集英社文庫コバルトシリーズ

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KONTA
1967年生まれのバブル世代。80年代カルチャーしか勝たん。推しは仙道敦子。匂いガラスが欲しい。