最近は毎日のようにブレッド&バターの『マリエ』というベスト・アルバムを聴いている。
ブレッド&バターというと「湘南サウンド」みたいなイメージが強い。
これは、1979年から1980年にかけてアルファレコードから出した三枚のアルバム、いわゆる「湘南三部作」の印象があまりにも強いからだ。
それまで、1970年代のブレバタというのは、和製サイモン&ガーファンクルのキャッチフレーズでデビューしたりとか、岸部シローと組んでクロスビー・スティルス&ナッシュみたいなことをやったりとか、どちらかというと、フォーク寄りのアメリカン・ロックのイメージが強かったのだけれど、アルファレコードは、ブレバタを完全な「湘南サウンド路線」で売り出した。
大ヒットというわけでもなかったけれど、ブレバタの爽やかな湘南イメージは、これで定着したようなところがあって、以来、ブレバタといえば、なんとなく湘南サウンドの代表格みたいな感じになっているらしい。
けれど、実際のブレバタというのは、レコード会社を変わるたびにスタイルも変化させていて、特に1980年代後半は「スティービー・ワンダー路線」からアニメ映画の「タッチ2路線」、さらには、松任谷正隆プロデュースによる「南国ラテンミュージック路線」と、そのスタイル変更が非常に著しかった。
そんなブレバタが、1989年から1991年にかけて出した3枚のアルバムが、フィフス・アベニュー・バンドのピーター・ゴールウェイのプロデュースにより、ニューヨークで録音された「ニューヨーク路線」の三部作である。
1990年前後のオシャレ洋楽の要素をたっぷりと詰め込んだ日本語AOR
1990年前後のオシャレ洋楽の要素をたっぷりと詰め込んだ、まさしく日本語AORは、これこそブレッド&バターの真髄ではないだろうかと、最近になって思っている。
特に、三部作の二枚目に当たる『マリエ』(1989)は、ブレッド&バターの代表曲を、マレイ・ウェィンストックのアレンジで再録音した「リメイク・ベスト・アルバム」で、ブレバタの名曲をオシャレなニューヨーク・スタイルで楽しむことができる、とってもお得なアルバムだ。
選曲はブレバタ本人によるもので、バッキングやコーラスはフィフス・アベニュー・バンドのメンバーを中心に、ジェームズ・テイラーやジョン・ベンソン・セバスチャンなんかも参加。
とにかく「洗練されている」という意味では、ブレバタ史上で最高のアルバムだと言い切ってしまいたいくらいの名作アルバムである。
収録曲を見てみると、アルバム・タイトルにもなっている初期の名作「マリエ」、山下達郎カバーで有名な「ピンク・シャドゥ」、松任谷由実作詞作曲の「あの頃のまま」と、いわゆる普遍的な定番曲は、まず押さえられている(ここが大事)。
次に、その脇を固める楽曲として湘南路線の「サマー・ブルー」「渚に行こう」「クルージング・オン」「マンディ・モーニング」をたっぷりと楽しむことができるし、TDKレコード時代のレア曲「ファイン・ライン」「バラード」「美しいハリケーン」まで入っている。
アニメ映画『タッチ2』の公開に合わせて発売された(自称)ベスト・アルバム『MIRACLE TOUCH』(1986)と、まるで選曲が被っていないところがいい(笑)
個人的なお気に入りは、「沖縄路線」を標榜したアルバム『マハエ』に収録されている「セイリング・オン・ボード」のリメイク。
自分にとってのブレッド&バターのイメージは、こんなふうに都会的で乾いた風の吹いているサーフ・ミュージックだったのかもしれない。