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1980年代の村上春樹~クールで繊細だった都会派青春小説の時代

ノベール文学賞候補だったり、村上RADIOのDJだったり、早稲田大学に村上春樹ライブラリーができたりと、今でこそ大物作家と村上春樹さんですが、最初から大物作家だったわけではありません(最初から人気作家ではあったけれど)。

1979年に文壇デビューしてから40年以上の時が経ちますが、村上文学の基礎が築かれたのは、デビューから10年間の1980年代ということになります。

映画「ドライブ・マイ・カー」の原作者として注目を集める今、村上文学の源流をたどるため、1980年代の村上春樹さんについてご紹介しましょう。

決して古いだけではない、村上文学の世界が、そこにはありますよ。

そもそも村上春樹って誰?

おそらく、現代日本において<村上春樹>を知らないという人はいないと思います。

現代の存命作家で、これほど知名度のある小説家って、そんなにはいないのではないでしょうか。

まあ、あえて説明するまでもないのですが、一応、村上春樹さんのプロフィールを簡単に確認しておきたいと思います。

村上春樹のプロフィール

作家・村上春樹さんは1949年(昭和24年)1月12日生まれ。

当時、日本は戦後処理にあたった吉田茂内閣の時代で、ダグラス・マッカーサー率いるGHQが日本国を実効支配していました。

同世代の著名人としては、既に故人のフォークシンガー・高田渡(1月生まれ)や、海援隊の武田鉄矢(金八先生)、作詞家の松本隆などがいます。

ちなみに、谷崎潤一郎の代表作『細雪』がベストセラーになったのは、昭和24年のことでした。

京都府京都市で生まれて、兵庫県(西宮市・芦屋市)で暮らした村上さんは、県立神戸高校を卒業後、1968年(昭和43年)、早稲田大学第一文学部に入学(一浪だった)。

早稲田大学在学中に、現在の陽子夫人と結婚、ジャズ喫茶「ピーター・キャット」を開店します(これも大学生のとき。なにしろ大学を卒業したのは1975年だった)。

ピーターキャットで寛ぐ村上春樹(1980年『ブルータス』)ピーターキャットで寛ぐ村上春樹(1980年『ブルータス』)

大学卒業後、ジャズ喫茶を経営する傍らで小説を書き始め、1979年4月、『群像』に応募した「風の歌を聴け」で第22回群像新人文学賞を受賞。

「風の歌を聴け」は『群像』1979年6月号に掲載され、これが、村上春樹の作家デビューとなりました。

デビュー後は、ベストセラーとなる小説をいくつも発表、現在に至るわけですが、今回は、村上さんが、まだ新人作家だった<1980年代>に焦点を当てて、村上文学の流れをたどってみたいと思います。

長編小説

はじめに、1980年代の村上文学の中で、長編小説を紹介したいと思います。

なんだかんだ言っても、村上春樹といえば長編小説といったイメージがありますからね。

読み応えもありますよ。

「鼠三部作」+『ダンス・ダンス・ダンス』

1980年代の村上作品の中で、まずお勧めしたいのが「鼠三部作」です。

「鼠三部作」というのは、村上春樹の最も初期の長編小説3作品のことで、具体的には『風の歌を聴け』(1979)、『1973年のピンボール』(1980)、『羊をめぐる冒険』(1982のことです。

<鼠>というのは、物語の語り手である<僕>の親友で、「鼠三部作」はいずれも<><>との痛々しい友情をテーマとしています。

1980年の『POPEYE』で紹介されたデビュー作「風の歌を聴け」1980年の『POPEYE』で紹介されたデビュー作「風の歌を聴け」

特別に連作小説というわけではありませんが、<鼠>の破滅を中心に描かれる青春の物語は、初期村上文学の最も象徴的な部分だと思います。

クールで切ない青春小説。

これは、まさしく1980年代の村上文学における大きなテーマでもありました。

『ダンス・ダンス・ダンス』(1988)は、鼠三部作を発展させる形で描かれた物語で、<いるかホテル>や<羊男>といったディテールは、『羊をめぐる冒険』から引き継がれたものです。

この中で一番のお勧めはデビュー作『風の歌を聴け』なのですが、『風』は1970年代の作品なので、正確に1980年代の作品の中から選ぶとなると、やはり最もボリュームのある『ダンス・ダンス・ダンス』になるでしょうか。

作品のまとまりとしては『羊をめぐる冒険』もお勧めですが、『ダンスダンス』は小説として、かなりこなれているので、読後の満足感はきっと違うと思いますよ。

バブル景気のムードも感じられるし、80年代カルチャーを示すキーワードもたっぷりです。

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『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

読み応えがあるという意味では『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)は凄いです。

二つの物語が交互に進行していって、やがてひとつの結末を迎えるという壮大な物語で、『世界の終り』こそ村上春樹の代表作だと考えるファンも少なくありません。

「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」というのは、交錯するそれぞれの物語のタイトルのこと。

完成度の高い作品なので、純文学派の人にもお勧めです。

大長編ファンタジー。

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。

『ノルウェイの森』

100パーセントの恋愛小説です」というキャッチコピーで有名な大ベストセラー小説『ノルウェイの森』(1987)は、今も昔も村上春樹の代表作です。

1980年代に発表された村上作品の中では、他のどの長編小説とも違う異例の作品。

まるで作者自身の体験を下敷きにしたような、ある意味で私小説的な青春小説で、痛々しいまでに純粋で、だからこそ複雑な青春の姿が、そこにはあります。

成就することのない大学生の男女の恋愛がテーマで、後に映画化もされました。

村上春樹ファンなら避けては通れない重要作品です。

暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルク空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの『ノルウェイの森』が流れ出した。僕は一九六九年、もうすぐ二十歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱し、動揺していた。限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。

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短篇小説

村上春樹の短篇小説には、後に長編小説へと発展することになるような、重要な作品があります。

初期の村上春樹を気軽に楽しむという点でも、短篇小説はお勧めですよ。

もうひとつの<村上春樹らしさ>を感じてみてください。

『中国行きのスロウ・ボート』

『中国行きのスロウ・ボート』(1983)は、村上春樹の最初の短篇小説集です。

初めての短篇小説「中国行きのスローボート」、2作目の短編小説「貧乏な叔母さんの話」、男性情報誌<ブルータス>に発表された「ニューヨーク炭鉱の悲劇」、音楽情報誌<宝島>に発表された「午後の最後の芝生」など、初期の人気作品が収録されています。

当時の村上春樹って、<傷つきやすい青春小説の書き手>みたいなイメージがあって、それがクールで都会的な文章で綴られているから、本当に<都会派小説>っていう感じがしたものです。

「午後の最後の芝生」が掲載された『宝島』 「午後の最後の芝生」が掲載された『宝島』

一番のお勧めは「午後の最後の芝生」。

そうだった。村上春樹の初めての短編集『中国行きのスロウ・ボート』が安西水丸の洒落たカヴァーで出版されたのは、1983年の初夏のことだった。僕たちは我れ先にと取り合い、結局、二冊買って、どっちがよけいにボロボロにするか競ったものだ。あれから三年弱、1986年が明けて早々、その文庫本が出た。この小さな書物が、新たなどんな思い出を作ってくれるのだろうか。嵐や小波はいくつかあったけれど、僕たちの大いなる夏は続いている。

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『カンガルー日和』

伊勢丹クローバーサークルの会報『トレフル』(東通トレフル編集室)に連載された作品を集めた作品集が『カンガルー日和』(1983)です。

デパートの会報誌という地味な冊子に発表された作品群ですが、意外と、こういうところに掲載された作品が面白かったりするんですよね。

実際、「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」は映画化もされているくらい、人気の高い作品です。

佐々木マキのイラストがクールでカッコいい『カンガルー日和』 佐々木マキのイラストがクールでカッコいい『カンガルー日和』

「彼女の町と、彼女の緬羊」は、『羊をめぐる冒険』へと繋がりそうな、札幌を舞台としたヒツジの物語。

どちらかといえば、雰囲気だけで読ませる作品が多いけれど、当時は、そんな村上春樹の小説の雰囲気が大好きだったんですよね。

時間が作り出し、いつか時間が流し去っていく淡い哀しみと虚しさ。都会の片隅のささやかなメルヘンを、知的センチメンタリズムと繊細なまなざしで拾い上げるハルキ・ワールド。ここに収められた18のショート・ストーリーは、佐々木マキの素敵な絵と溶けあい、奇妙なやさしさで読む人を包みこむ。

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『螢・納屋を焼く・その他の短編』

『螢・納屋を焼く・その他の短編』(1984)は、初期の短篇小説集の中で、最も文学性の高い作品集です。

「螢」は、後に『ノルウェイの森』へと発展した作品で、短篇小説のときから人気がありました。

「めくらやなぎと眠る女」は、1990年代以降の村上春樹へと繋がっていく予感を感じさせます。

「三つのドイツ幻想」が掲載された『ブルータス』 「三つのドイツ幻想」が掲載された『ブルータス』

純文学が好きな人にお勧め。

秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。

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『回転木馬のデッド・ヒート』

『回転木馬のデッド・ヒート』(1985)は、講談社の文芸PR誌『IN★POCKET』に連載された小説を収録した作品集です。

アメリカ文学の好きな村上春樹らしい小説ばかりで、初期の青春小説から少し大人になった村上文学の世界を楽しむことができます。

「プールサイド」が掲載された『イン・ポケット』創刊号 「プールサイド」が掲載された『イン・ポケット』創刊号

「それはメリー・ゴーラウンドによく似ている。それは定まった 場所を定まった速度で巡回しているだけのことなのだ。どこにも行かないし、降りることも乗りかえることもできない。誰をも抜かないし、誰にも抜かれない」人生という回転木馬の上で、人は仮想の敵に向けて熾烈なデッド・ヒートをくりひろげる。事実と小説とのあわいを絶妙にすくいとった、村上春樹の8つのスケッチ。

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『パン屋再襲撃』

ある意味で、かなり村上春樹らしい短篇小説集が『パン屋再襲撃』です。

表題作「パン屋再襲撃」は、夜更けに空腹を覚えた若い夫婦が、パン屋ならぬハンバーガーショップの<マクドナルド>を襲撃するという奇妙な物語。

かなり難解ですが、とても人気の高い作品でもあります。

近未来的なイラストがクールだった『パン屋再襲撃』 近未来的なイラストがクールだった『パン屋再襲撃』

「ねじまき鳥と火曜日の女たち」は、後に『ねじまき鳥クロニクル』へと発展する重要作品。

堪えがたいほどの空腹を覚えたある晩、彼女は断言した。「もう一度パン屋を襲うのよ」。それ以外に、学生時代にパン屋を襲撃して以来僕にかけられた呪いをとく方法はない。かくして妻と僕は中古カローラで、午前2時半の東京の街へ繰り出した…。表題作ほか「象の消滅」、“ねじまき鳥”の原型となった作品など、初期の傑作6篇。

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エッセイ

1980年代、村上春樹のエッセイが好きだっていう人が多かったように思います。

小説は好きじゃないけど、エッセイは好き、みたいな人とか(笑)

でも、そういう人は意外と多かったらしいですよ(と、村上さんも言ってました)。

「村上朝日堂」シリーズ

村上春樹のエッセイ集といえば、なんといっても、安西水丸さんとの共作「村上朝日堂シリーズ」でしょう。

「村上朝日堂」シリーズは、村上さんのエッセイと水丸さんのイラストがセットになった作品で、『村上朝日堂』(1984)が最初の作品集です。

『村上朝日堂』は「日刊アルバイトニュース」に連載された作品を集めたもので、村上さんにとって最初のエッセイ集でもありました。

安西水丸さんのイラストがぶっ飛んでいる『村上朝日堂の逆襲』 安西水丸さんのイラストがぶっ飛んでいる『村上朝日堂の逆襲』

村上さんと水丸さんとの共作は、その後も『村上朝日堂の逆襲』(1986)、『村上朝日堂はいほー!』(1989)と続いていきます。

ビールと豆腐と引越しとヤクルト・スワローズが好きで、蟻ととかげと毛虫とフリオ・イグレシアスが嫌いで、あるときはムーミン・パパに、またあるときはロンメル将軍に思いを馳せる。そんな「村上春樹ワールド」を、ご存じ安西水丸画伯のイラストが彩ります。巻末には文・安西、画・村上と立場を替えた「逆転コラム」付き。これ一冊であなたも春樹&水丸ファミリーの仲間入り!?

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『ランゲルハンス島の午後』

『ランゲルハンス島の午後』(1986)も、村上春樹と安西水丸との共作によるエッセイ&イラスト集で、女性ファッション雑誌『CLASSY』に連載された作品を収録しています。

ちなみに、『クラッシィ』連載時のタイトルは「村上朝日堂画報」でした。

「クラッシィ」連載当時のタイトルは「村上朝日堂画報」だった「クラッシィ」連載当時のタイトルは「村上朝日堂画報」だった

女性向けのファッション雑誌の連載なので、都会的でお洒落な話題を意識していることが特徴。

「ブラームスとフランス料理」とか「ウォークマンのためのレクイエム 」とか「女子高校生の遅刻について」とかタイトルだけでも興味深いものが多いです。

1980年代の雰囲気がたっぷりの、おすすめエッセイ集です!

有名な「どんな髭剃りにも哲学がある(とモームが言った)」は、「哲学としてのオン・ザ・ロック」に登場。

まるで心がゆるんで溶けてしまいそうなくらい気持のよい、1961年の春の日の午後、川岸の芝生に寝ころんで空を眺めていた。川の底の柔らかな砂地を撫でるように流れていく水音をききながら、僕はそっと手をのばして、あの神秘的なランゲルハンス島の岸辺にふれた―。夢あふれるカラフルなイラストと、その隣に気持よさそうに寄り添うハートウォーミングなエッセイでつづる25編。

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『THE SCRAP 懐かしの一九八〇年代』

『THE SCRAP 懐かしの一九八〇年代』(1987)は、スポーツ情報誌『ナンバー』に連載されたエッセイを書籍化したものです。

いわゆる雑文ではなくて、アメリカの雑誌を読んで、気になった記事を膨らませていくという企画でした。

読書者層を意識してか、文化的な話題よりも、「フィッツジェラルドのペニスは本当に小さかったか?」のように、下世話な話題に偏りがちな傾向があったような気がします。

サリンジャーの『ライ麦畑でつまかえて』出版30周年を記念して「エスクァイヤ」に掲載された「熟年を迎えたキャッチャー」という小さな特集記事を取り上げた「一九五一年のキャッチャー」はお勧め。

〈近過去トリップ〉へのいざない。おいしい話いっぱい。世のなかって、けっこう面白いものだ。

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翻訳

アメリカ文学の翻訳家としての活動も有名な村上さんですが、その取組は初期の頃から活発でした。

翻訳は、ある意味で村上春樹らしい作品のひとつだと思います。

村上文学の源流の発見につながるかもしれませんね。

『マイ・ロスト・シティー』

村上春樹初めての翻訳小説集が、スコット・フィッツジェラルドの短篇小説集『マイ・ロスト・シティー』(1981)です。

フィッツジェラルドの短編小説5編とエッセイ1編のほか、村上春樹のエッセイ1編を収録。

エッセイ「フィッツジェラルド体験」は、村上春樹の文学体験を体感する上で、非常に興味深い作品だと思います。

フィッツジェラルド関係では『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』(1988)もお勧めですよ。

『ぼくが電話をかけている場所』

1980年代の村上さんが精力的に取り組んでいたのが、短編作家として名高いアメリカの小説家、レイモンド・カーヴァーの作品の翻訳です。

『ぼくが電話をかけている場所』(1983)をはじめ、『夜になると鮭は‥‥』(1985)、『ささやかだけれど、役にたつこと』(1989)と、カーヴァーの翻訳作品集を刊行。

当時、レイモンド・カーヴァーは、日本では未知の作家であり、カーヴァーを日本に初めて紹介したのが村上春樹でもありました。

一種の使命感のようなものが、村上さんにはあったのかもしれませんね。

『おじいさんの思い出』

村上春樹の好きな小説家といって、すぐに思いつくのが、スコット・フィッツジェラルド(「華麗なるギャツビー」)とレイモンド・チャンドラー(「長いお別れ」)とトルーマン・カポーティ(「ティファニーで朝食を」)の3人です。

『おじいさんの思い出』(1988)は、トルーマン・カポーティの短篇小説を翻訳して、一冊の書籍にした作品。

短篇小説ではありますが、山本容子さんの銅版画を収録するなど美しい装幀で人気で、村上ファンのみならず非常に評価が高いみたいです。

『あるクリスマス』(1989)も同シリーズの作品なので、御一緒にどうぞ。

おじいさんの思い出 トルーマン カポーティ; 春樹、 村上9784163102009【中古】

その他

1980年代の村上春樹は、小説やエッセイ以外の仕事にも積極的に取り組んでいました。

今となっては、入手が難しいものが多いのですが、初期の村上春樹を知る上での参考として、ご紹介しておきたいと思います。

『ウォーク・ドント・ラン』

今や伝説となってしまった村上龍との対談集『ウォーク・ドント・ラン』(1981)です。

当時は<ダブル村上>と言われて、何かと比較される立場にある二人の作家の対談ということでしたが、意外と仲が良かったらしいんですよね。

『ウォーク・ドント・ラン』の村上龍と村上春樹『ウォーク・ドント・ラン』の村上龍と村上春樹

もっとも、1980年代冒頭というと、<春樹>よりも<龍>の方が、明らかに格上な感じがありました。

なにしろ、<春樹>はまだ『羊をめぐる冒険』を書く前でしたから。

入手困難なのが残念。

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『映画をめぐる冒険』

文芸評論家・川本三郎との共著による映画エッセイ集『映画をめぐる冒険』(1985)です。

おそらく、川本さんは、初期の村上作品が持つ<傷つきやすい青春の物語>の雰囲気が好きだったんだろうなあと思います。

一緒に本を作るほど仲良しだったのに、1990年代以降は、村上春樹の作品を高く評価することは少なくなってしまいました。

1980年代の村上作品には、確かにそんな魅力があったんですよね。

入手困難。

『羊男のクリスマス』

敬愛するイラストレーターの佐々木マキと一緒に作った絵本が『羊男のクリスマス』(1985)です。

村上さんは佐々木マキの作品が大好きで、デビュー作『風の歌を聴け』以降、『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『カンガルー日和』と、自身の書籍のイラストを、佐々木マキさんにお願いしています。

佐々木マキのイラストが、村上春樹という作家のイメージを作ったという部分は、間違いなくあったと思います。

『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』で重要な役割を果たしている羊男が主人公の物語です。

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『波の絵、波の話』

『波の絵、波の話』(1984)は、写真家・稲越功一との共著による作品集で、稲越功一の写真に、村上さんが短い文章を添えています。

ショート・ショートのような物語のほか、エッセイ、外国の歌の翻訳詞などを楽しむことができます。

気合いの入った小説もいいけれど、こういう片手間みたいな仕事にこそ、村上春樹らしさが現れているような気がします。

1980年代って、こういう短い物語が好まれる時代でもありました(森瑤子とか)。

【中古】波の絵、波の話 /文藝春秋/稲越功一(単行本)

『日出る国の工場』

『日出る国の工場』(1987)は、村上春樹のエッセイと安西水丸のイラストで構成されたエッセイ集です。

タイトルに「工場」とあるように、実際に工場を取材して、その所感を綴った内容となっています。

ファッション・ブランド<コム・デ・ギャルソン>についての「思想としての洋服をつくる人々」は、80年代っぽくておすすめ。

テクニクスCD工場を訪ねた「ハイテク・ウォーズ」も80年代という感じですね。

かなり個性的な工場訪問記です。

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1980年代の村上春樹の魅力とは?

さて、それでは、1980年代の村上春樹の魅力とは、いったい何だったんでしょうか。

ひと言でいうと、1980年代において、村上春樹の作品はとてもクールだったということです。

村上春樹の作品名を言えることや、村上春樹の本を持っていること、さらには、村上春樹の小説のフレーズを引用することさえも、1980年代的世界においては「クールだ」と言われました。

1980年代的世界における村上春樹の本質は、「周囲に流されない自分自身を持っている」ということ。

「あなたって、ちょっと変わっているわね」と女の子に言われることこそが、当時の男の子にとって最高にクールな勲章だったのです(現実にこういう生き方をすることはすごく難しいしツラい)。

小説の主人公は、大体において独身であり、東京という現代的な大都会で暮らし、大きな組織(会社)に属することなく、スタン・ゲッツのクールジャズを口笛で吹きながら、自分の時間を自由に使い、気ままに女の子とセックスをします。

ストーリーがファンタジーというよりも、物語の設定そのものが大きなファンタジーでした。

当時の若者は、そんな村上春樹的ファンタジーに酔いしれて、夢のような村上春樹的世界に遊ぶことで自分自身を癒していたのです。やれやれ。

やがて、時代は変わり、村上春樹の小説は「都会的」とか「クール」とかいう言葉を離れて、より文学的な意味において高い評価を得るようになりました。

今、村上春樹の小説を「都会派小説」とか「クールでカッコいい小説」とかいう言葉で表現したら、きっと嫌がられると思います。

だけど、1980年代的世界における村上春樹なんて、そんなものだったんですよね、ほんと。

そして、そんなクールな村上春樹的ライフスタイルこそが、あの頃の村上春樹の大いなる魅力だったのです。

まとめ

ということで、以上、今回は、1980年代の村上春樹さんの作品をご紹介しました。

ここで僕が言いたいことは「僕は1980年代の村上春樹が好きだ」ということです(『風の歌を聴け』的に言うと)。

あの頃、村上さんはまだ30代で、作家としてデビューしてから10年以内という<若手作家>の時期でもありました。

未曽有の好景気を迎える中、世の中はざわついていて、新しいカルチャーが次々と登場してくる激動の時代。

1980年代の村上春樹作品を読むと、あの時代の空気感がリアルに感じられるんですよね。

当時を知っている人は懐かしい気持ちで、当時を知らない人は新鮮な気持ちで、1980年代の村上春樹作品を楽しんでみてはいかがでしょうか。

ABOUT ME
kels
バブル世代のビジネスマン。読書と音楽鑑賞が趣味のインドア派です。お酒が飲めないコーヒー党。洋服はアーペーセーとマーガレット・ハウエルを愛用しています。