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沼田元気「ぼくの伯父さんの東京案内」に学ぶ人生の楽しみ方

人生の達人、沼田元気さんの著書には、人生を楽しむためのヒントが無限大に隠されている。今回は、そんなヌマ伯父さんの代表作「ぼくの伯父さんの東京案内」から、人生の楽しみ方を学んでみたい。

沼田元気さん

沼田元気(ぬまたげんき)さんは、ポエムグラファー(写真家詩人)やイコイスト、日本孤独の会々員、ひとり歩きの会々長、東京喫茶店研究所々長など、とても多くの肩書きを持っている。写真やカフェをテーマとした著作が多いことで知られ、近年はこけしの研究者としても活躍中。

ぼくの伯父さんの東京案内

「ぼくの伯父さんの東京案内」は、2000年に求龍堂から出版された沼田元気さんの著作で、「第1回モノンクル賞受賞作品」。

もう若くはないが、老人になるには少し間がある。まだ一寸欲望も残っており、幸いそれをコントロールする力もある。人生で一番長く、そして楽しい中年という時間の伯父さん的生き方入門書。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

イイコトを捜す

本書は「ぼくの伯父さん」の暮らしを通して、東京と、そこに生きる伯父さんの人生を案内するガイドブックのような構成で綴られている。

伯父さんの全ての行動の原点は、イイコト(好きなコト)を捜すことであるそうだ。では伯父さんにとってイイコトとはいかなることか。伯父さん流に言えばイイコトとは自分にとって、常、新しいコト、イイコトを捜すとは、日々新たなる日常をこえるということなのだそうだ。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

「自分の好きなことは何か?」を考える

伯父さんは、いつでも自分の好きなことを考えながら暮らしている。つまり「自分の好きなことは何か?」ということを考えながら生きているのだ。好きなことを思い浮かべて、心に思い描いているだけで、なんとなく楽しくなるから。

雨上がりのにおい、和風柄のアロハシャツ、ソノシート、寂しそうなノラ犬、トワイライトタイム、カナリア、北欧のクリスマス、木陰のプールサイド、温室、プラネタリウム、夜行列車、お月様にまつわる童話や伝説、エンゼルフィッシュ、丘の上(心象風景としての、初恋の丘、別れの丘)、チャールズ&レイ・イームズのイスや映画、雨の日のエアポート(どこか異国の小さな空港)、ハーフサイズのカメラ、古いB級映画のサントラ、モール人形、ケメックスのコーヒーポット、老舗洋菓子店の包装紙、観光絵葉書、外国の使用済切手、一番湯、ノリタケのカフェオレマグ、だらだらと長い坂道、名曲喫茶、並木道、やわらかな光の中の読書などなど、伯父さんの好きなものは次々と思い浮かんできます。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

こんなふうに自分の好きなものをリストアップしていく作業は、きっと楽しいだろうなと思う。朝から夜まで自分の好きなことだけを考える休日。大人にもそんな一日があっていい。

伯父さんの欲望なんて実に他愛のないことばかりである。例えば一万円札一枚握りしめて神保町に向かう。「今日はネ、買いたいだけ古本を買ってイイよ」と伯父さんの中の大人が何とも優しい気持ちで云う。すると「やったア」と伯父さんの中の子供が大喜びをする。

それは、買い物という行為よりも、買った物それ自体の嬉しさよりも、何よりも心の旅にも似た、物と自分との出会いの愉しみというものなのだ。魂を遊ばせることで、実生活の嫌なコトを忘れさせてくれるなら、現実なんていったい実にささいなことではないか。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

地元を路線バスで旅する

ある日、伯父さんはバスに乗って散歩に出かける。伯父さん曰く、東京を旅するのにバスほど楽しいものはないらしい。空いている時間帯であれば、運転手付きの大型車で、ほぼ貸切状態なんだから。路線が長ければ長いほど、始発から乗って終点まで行くお客はいない。

始発から終点まで、どこまで行ってもたった200円の旅があり、あるいは、都バス共通の一日乗り放題乗車券もある。伯父さんはバスを使って、できるだけお金を使わずに、旅の一日を楽しんでいます。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

今日も伯父さんは用もないのにバスに乗る。百閒先生云うところの「阿呆バス」である。そして車中の人となって街をブラつくのだ。東京の風景は、見料も入場料も取らない。なんと安上がりなお愉しみであることか。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

お金をかけずに一日を楽しむ方法は、きっとたくさんあるのだ。

お金にならない純粋な趣味を持つ

伯父さんは好きなことのほとんどを仕事にしてしまうので、趣味それ自体が生きる目的となっている。人生イコール趣味。

ただし、趣味がどんな仕事よりも高貴なのは、それが決してお金にはならず、自己の楽しみにのみ目的があるからだということを、伯父さんは知っています。だから、伯父さんにもまだ仕事としていない純粋な趣味が、いくつか残っているのです。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

自己満足のためだけの楽しみ。本当の趣味というのは、そういうものなのかもしれない。

自分の好きな場所を居場所にする

社会のどこにも属していない伯父さんに、社会的な居場所はなくても好きな場所はある。公園の日溜まりのベンチ、名曲喫茶の奥まったソファ、買うものがなくっても長居できる古本屋などなど。そこは伯父さんにとって自由が存在する場所であり、唯一信じられる場所なのだ。

人は社会的地位を与えられた途端に不自由となり、それを失ってしまうと大きな喪失感を抱えてしまう。だから、伯父さんは、本来自分の好きな場所こそイコール自分の居場所だと考えているのです。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

自分の好きな場所、あなたはいくつ言えるだろうか?

だいたいセレクトショップなんていう云い方は、実はおしゃれでも何でもない。自分でどこからか捜す喜びを割愛して、誰かが選んだ中から選べと言われているのである。貧乏に変わりはない。ただ、その貧乏が昔と違ってちっとも悲しくないということ。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

生活を人生の楽しみにする

伯父さんは買い物が大好きである。もし欲しい物がないとしたら、これほどつまらない人生はないと、伯父さんは言う。伯父さんにとって、買い物はひとつの人生ゲームなのだから。欲しいものがないとゲーム(人生)が成り立たないから、伯父さんはいつでも欲しい物を捜すところからスタートしている。

伯父さんは買い物をするために、小さな商店街を歩きまわります。「商店街セラピイ」と言うように、伯父さんは元気がないときに商店街を歩き回って、元気を取り戻すのだそうです。

そして、伯父さんは生活の必需品を、こうした小さな商店街で買い求めます。そうすることで、大好きな買い物を生活の一部ではなく、自己の楽しみに替えてしまっているのです。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

暮らしの中にある小さな楽しみ。それは、こうした小さな工夫で見つかるのかもしれない。

つまり人には、どうやら、自分に課せられた仕事を、お楽しみに変えられる人種と、せっかくのお楽しみをノルマに変えてしまう人種がいる。あらゆる行為のひとつひとつが、そう成り下がらないためにも、伯父さんは苦労を惜しまない。すべて自分のためにしていることだから。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

地元で新しい場所を発見する

伯父さんは東京を旅することが好きらしい。伯父さんにとって、旅とは見知らぬ場所へ行くことではなく、新しい場所を発見することであるからだ。

かつて江戸ッ子が近所から出ないということを粋だというのは、まんざらやせがまんではなく、本当にそこらじゅうにお楽しみが転がっていたからではないのだろうか。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

伯父さんはいつでも逆境に強い。それは、自分の人生を愛しているということでもある。そうせざるを得ないときこそ、実にその中で楽しむ術を見つけ出せるものなのである。

「ぼくの伯父さんの東京案内」沼田元気(求龍堂)

制約があるからこそ人生は楽しい。制約の中で人生を楽しむことを、僕たちはもっと考えるべきなのかもしれない。

まとめ

「ぼくの伯父さんの東京案内」は、筆者にとって人生のガイドブックのような本だと感じている。人生に行き詰ったときにどうすべきかということのヒントが、この本にはたくさん隠されているのだから。ただし、そこにあるのはあくまでもヒントであり答えではない。答えはいつでも自分で見つけ出さなければならない。伯父さんはきっとそう考えているはずだ。

思うに、人生というのは、自分たちが考えている以上に自由なものなんだと思う。いかにして人生を楽しむべきか。僕たちは、そのことをもっと真剣に考えるべきなのだ。ぼくの伯父さんのように、自由な発想によって。

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1967年生まれのバブル世代。80年代カルチャーしか勝たん。推しは仙道敦子。匂いガラスが欲しい。