六田登という漫画家のことを、僕はよく知らない。
そもそも、漫画に詳しくないからだろう。
早速、Wikiで調べてみる。
ろくだ・のぼる、昭和27年生まれ。
昭和54年、週刊少年サンデーに「ダッシュ勝平」連載開始。
あ、「ダッシュ勝平」の作者だったのか。
ほとんど読んだことがないけれど、「ダッシュ勝平」という作品があったことくらいは知っている。
バスケットボールのギャグ漫画で、テレビアニメになるくらい人気があったから。
だけど、僕が読んだ六田登の漫画は「ダッシュ勝平」ではなかった。
僕が読んだ漫画は、ビッグコミックスピリッツに連載されていた「僚平新事情」という漫画だった。
今も2冊のコミックスが残されている。
第1巻は、昭和60年5月1日発行。
僕は高校3年生になったばかりで、ECHOESのデビューアルバム『WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB』は、同じ年の4月に発売されたばかりだった。
スピリッツを定期購読していたから、僕は「僚平新事情」という、その妙なタイトルの漫画を読むことになったのだ。
主人公の美大生<内海僚平>が絵の講師のアルバイトを始める。
場所は暴力団の事務所だった。
やくざ相手とは知らなかった<僚平>は、半端者の彼らが持つ人間的な魅力に、どんどん憑りつかれていく。
やくざに芸術の素晴らしさを説きながら、本当に大切なものとは何かということを、逆に教えられていたのは、もしかすると、僚平自身だったのかもしれない。
例えば「ゴヤになれなかった日」は、不良グループの学生から、肖像画を描くように強要される物語だ。
不良一派は、学園祭でボスの肖像画を販売して、収益を上げようと企んでいた。
僚平のグループは抵抗するが、不良グループの暴力に屈して、醜いボスを美男子として描きあげていく。
僚平の様子がおかしいことに気づいた暴力団の<黒めがねさん>は、「男の子は元気でなきゃあな」と、暗に僚平を励ます。
絵が完成したとき、「おまえの絵がいちばんいいぜ」と不良ボスに褒められた僚平は、仲間たちの中で、自分自身が一番彼らに媚びていたことに気づき、勝てないことを覚悟の上で彼らに立ち向かっていった。
ボコボコにされた僚平を見て黒めがねさんは笑顔を見せる。
そして、学園祭当日、暴力団の仲間たちを引きつれた黒めがねさんは、怒りまくって僚平の報復を果たす、というストーリーだ。
これは、戦場画家として知られる<ゴヤ>をモチーフとした作品だが、芸術と青春とが見事にマッチしている。
「描きたいものを描かなければいけない」という言葉は、弱者である僚平の言葉であるからこそ、深い意味を持ってくると言えるだろう。
ところで、「僚平新事情」では、とにかくヒロインの<杉本晶子>がかわいい。
男性の肉体美を追求している晶子は、僚平をモデルにヌードデッサンを描くようになる。
美人すぎる晶子と知り合って、当然に僚平は恋をしてしまうのだが、その恋愛も純情すぎていい。
美しい晶子を芸術の対象としてではなく、性欲の対象として見てしまう自分に傷付く僚平。
自分の性欲を空っぽにしようと、三日間マスターベーションをし続けるなんて発想がすごい(結局、晶子に対する性欲は消えなかったけど)。
僚平が晶子に恋をしているように、やくざの黒めがねさんも晶子の母親である大学教授<杉本先生>に恋をする。
年齢も住む世界も離れている二人の男が、女性に恋する気持ちを共感し合う場面なんて最高だ。
彼らの青春物語を、大学の仲間たちが盛り上げてくれるというシチュエーションも楽しい。
結局のところ、僕はキャンパスライフが好きで、青春が好きだっていうことなんだろうな。
とにかく、何度読んで何度泣いたか分からない、超青春の漫画です。