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眉村卓の隠れた名作ホラーサスペンス「深夜放送のハプニング」

本屋さんで眉村卓の新刊を見つけました。

『静かな週末』(竹書房文庫)という本で、単行本未収録作品を中心に、ショートショート50篇が収録されています。

亡くなってからも新刊が出るなんて、やっぱり、凄い作家だったんですね、眉村さん、、、

ということで、久しぶりに角川文庫版『深夜放送のハプニング』を読みました。

ヒット作の多い眉村卓作品の中でも隠れた名作ですよ。

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概要

『深夜放送のハプニング』は、眉村卓の中編小説です。

元は秋元文庫(1977年/昭和52年)から出ていましたが、1985年(昭和60年)、角川文庫に入りました。

もともと、眉村卓さんというのは、我々よりも上の世代の方々が読んでいた作家で、まぼろしのペンフレンド』(1970年)、『なぞの転校生』(1972年)、『ねらわれた学園』(1973年)など、多くの代表作は1970年代の作品ですが、1981年に『ねらわれた学園』が角川から映画化されたことで、眉村卓は一気に80年代のアイコン的作家となりました。

とにかく、角川文庫の充実ぶりが凄かったですからね。

ちなみに、1981年版の角川映画「ねらわれた学園」では、著者の眉村卓もカメオ出演しています。

当時、中学2年生だった管理人は、夢中になって眉村さんのジュブナイル(学園もの)を読みまくりました。

『深夜放送のハプニング』も角川文庫(1985年)で読んでいるので、僕にとっては80年代の小説というイメージです(内容的にはかなり70年代なのですが)。

全部で3篇の連作短編で構成される中編小説で、いわゆるジュブナイル小説ではなくて、ラジオのDJをしている新進のイラストレーターが主人公ですが、各作品に必ず中高生が登場しているのは、やはり10代の読者に向けて書かれた作品だからと思われます。

同時収録は、謎の美人教師が登場する『闇からのゆうわく』(こちらもおすすめです)。

あらすじ

『深夜放送のハプニング』は、全部で三つの物語から構成されています。

第一話 過去のないリクエスト・カード

主人公の島浦紀久夫は28歳の新鋭イラストレーター。

ラジオ昭和の「ミッドナイト・ジャンプ!」という深夜放送でパーソナリティをしています。

この番組は、DJ以外に本職を持っている物を起用する方針で、月火はSF作家、水木は探検家、そして、金土はイラストレーターの島浦という顔ぶれになっているのです。

島浦はディレクターの森省平と相談しながら、リクエスト・カードのハガキを読み上げて、レコードを流していますが、ある夜、奇妙なリクエスト・カードが届きます。

ぼくがだれだか、教えてください。ぼくには、自分がだれだか、わからないのです。ぼくは、自分が何歳で、何をしていたのか、まったく知りません。ぼくの記憶は、半年まえまで、完全に空白です、、、

放送終了後、番組には問い合わせの電話が殺到します。

あれは自分の子どもではないか、私の弟ではないか、、、

熱心なリスナーで、リクエストカードの常連である都内の中学生・湊口伸一郎からも、行方不明のクラスメートかもしれないとの連絡がありました。

どうやって事件の真相を調べたらいいかということを相談しているとき、第2のリクエストカードが届きます。

助けてください。ぼくは殺されます。このあいだ出したリクエストカードを、どうやら下宿のおばさんが読んでしまったらしいのです。おそろしい顔をして、そんなことをなぜ放送局に知らせたのだといいました。今では、ぼくは外出もろくにできません。へんなマネをすると、殺されてしまうからです。

島浦は、ディレクターの森や、番組で事務を担当している今西広子と相談して、番組の中で、一般の人には分からないような形で、ハガキの投稿者にこっそりと呼びかける方法を思いつきます。

そして、番組を聴いていた謎の投稿者から、3枚目のハガキが届きます。

いまや、ぼくのたのしみはラジオだけです。なのに、下宿のおばさんはそのラジオまで取りあげてしまいました。どうしましょう。どうしたらいいでしょう。ぼくは抗議のためずっと食事をしないことに決心しました。死んでやります。

このハガキで、投稿者の住所のヒントを得た島浦は、森や今西広子、そして、中学生の湊口伸一郎と一緒に、ハガキの投稿者の救出に向かいます。

そして、ようやく見つけた投稿者の家で、予想外の結末が、彼らを待っていました、、、

第二話 夜はだれのもの!?

島浦の番組に、伝統学園中学一年C組の生徒から、たくさんのリクエストカードが届きます。

どうして、こんなに同じ学校のひとつのクラスから、ハガキがたくさん来るのだろう?

ディレクターは、その謎を解くついでに、最近の中学生のものの考え方をインタビューしようと思いつき、島浦と二人で学校まで音取りに行くことになります。

さらに、アイディアマンの森は、その夜の放送で、番組中の島浦にまるで危険な事故が起こったかのような演出をサプライズでやってみせて、島浦を驚かせますが、この演出には、さすがにリスナーからの苦情が殺到。

特に、年配の男性からの苦情は強硬なもので、電話に出た島浦に対しても「ああいうふざけたことをしてもらっては困るね。だいたい私は深夜放送などというものがおかしいと思う。勉強しなければならない年ごろの若者に、くだらぬおしゃべりをするなんて、はずかしくないのか? それも人生が何とか愛が何とかいって、ほんとうにわかっているのかね」と、まくしたてます。

結局、この日の苦情はこれで終わったのですが、後日、訪れた伝統学園の取材で、島浦と森は、再び、この男性を話をすることになります。

この男性は、なんと伝統学園高等部の教頭先生だったんですね。

取材の際の騒々しい生徒の様子を見て、前田教頭は本格的に、深夜放送の禁止を訴える活動を始め、その活動がテレビ局にも伝わったことから、島浦はテレビ番組の中で、前田教頭と討論をすることになってしまいます。

討論には「ミッドナイト・ジャンプ」の月・火曜を担当しているSF作家の円城晴久も同席し、円城と島浦は深夜放送の持つ意義について堂々と主張しますが、番組中に激高した前田教頭は意外な行動に出て、討論はとんでもない方向に向かって進んでいってしまいました、、、

第三話 呪いの面

「ミッドナイト・ジャンプ」水曜日担当の探検家・鷲戸仁が、旅行から帰ってきません。

鷲戸はミクロネシアまで旅行に出かけて、火曜日の朝には戻る予定だったのが、水曜日の夜になっても、戻っていないらしいのです。

ディレクター森の慌てた様子を見て、島浦はピンチヒッターを引き受けますが、番組の放送中に鷲戸が旅行から戻って来ました。

ホッとした島浦が、旅行のことを話してもらおうと、鷲戸に話を振ると、鷲戸は「いや、ひどい目にあいましたよ…」と、疲れた様子で話し始めます。

ミクロネシアで鷲戸は、原住民から不思議な形をしたお面を譲ってもらったのですが、それが、どうやら「呪いのお面」らしいと言うのです。

実際、鷲戸にこのお面を譲った原住民は、直後に崖から海に落ちて死んでしまい、鷲戸は帰国の飛行機がトラブルで不時着するという危険に遭っていました。

ディレクターの森は「単なる心理作用にすぎない」と言って、鷲戸の話を相手にせず、番組の中では、それ以上「呪いのお面」の話はしないように、強く注意をします。

ところが、番組終了後、その日の番組を見学に来ていた中学生たちの乗ったタクシーが交通事故に遭って、中学生は怪我をしてしまいます。

偶然とは言え、あまりにトラブルが続くことから、鷲戸が不安を感じていたところに、旧知の骨董商が現れて「呪いのお面」を譲ってほしいと申し出ます。

もちろん、骨董商は「呪い」の存在など信じていませんが、島浦は、お面を譲った原住民が直後に亡くなったという話を思い出して、不気味な予感を感じます。

果たして、鷲戸の行方や、いかに、、、

読書感想と解説

この作品は、実際にラジオ・パーソナリティーをしていたことがある眉村さんの経験を素材として書かれたものらしく、深夜放送の番組づくりの裏事情が具体的に描かれています。

時代を反映したリクエスト曲

リスナーからのリクエストカードを元に、番組の中で流す音楽を決めていくシーンなどは、深夜放送ファンにはうれしい場面だったのではないでしょうか。

それにしても、リクエスト曲は、さすがに時代を反映しています。

「トップ・ミュージックはCCR、つづいてシルビイ・バルタンときたあとで、ビートルズのメドレーにする。そのあたまがイエロー・サブマリンというしくみだ」などと読んでいくと、現代の若者には暗号のように見えるのではないでしょうか。

管理人世代もリアルタイムではありません。

当時(1985年)、高校3年生だった管理人には、当然意味が分からなかったものと思われます(笑)

ちなみに、管理人が初めてラジオ番組に投稿したリクエストは、浜田省吾「恋人たちの舗道」でした。失恋エピソードまで、しっかり読み上げられてしまいまして、、、

深夜放送反対運動の時代

第二話「夜は誰のもの!?」の深夜放送禁止運動とか、時代を感じますね。

二十四時間都市説とか、深夜放送擁護の主張も、当時は真剣だったんでしょうね。

ちなみに「24時間タタカエマスカ」のキャッチコピー登場は1988年。深夜放送世代は、社会人となっても深夜まで働き続けました。

管理人世代では、中島みゆきや山口良一の時代の「オールナイトニッポン」。

中島みゆきさんは「ひとり上手のコーナー」が楽しかったなあ。

山口良一さんは新日本プロレスの話題狙いで、金曜日の夜に「ワールドプロレスリング」観て、深夜に「オールナイトニッポン」を聴くという生活習慣が定着していました。

1983年3月4日には、アントニオ猪木がゲスト出演。藤波辰巳や初代タイガーマスクも出演するなど、プロレス絶頂期の時代でした。

「蘇るミッドナイトSFミステリーの傑作!」?

ところで、眉村卓さんと言うと、日本を代表するSF作家ですが、『深夜放送のハプニング』はSF小説ではありません。

なんとなくホラーというか、なんとなくサスペンスというか、世にも不思議な物語的なドキドキ系の作品だと思いますが、カバー紹介文に「蘇るミッドナイトSFミステリーの傑作!とあるのは、ちょっと謎です。

まあ、このあたりのキャッチコピーは、いかにも角川文庫らしいところなんですが。

っていうか、本格SFじゃない眉村卓さんも面白いですよ。

まとめ

ということで、以上、今回は眉村卓さんの隠れた名作『深夜放送のハプニング』について、全力で語ってみました。

夏の夜に楽しみたい、背筋がゾクゾクするミッドナイト・ホラー小説。

有名作品とは一味違った眉村卓を味わうことができますよ!

書名:深夜放送のハプニング
著者:眉村卓
発行年月日:1985/11/10
出版社:角川文庫

ABOUT ME
KONTA
1967年生まれのバブル世代。80年代カルチャーしか勝たん。推しは仙道敦子。匂いガラスが欲しい。