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「東京人~シティ・ポップが生まれたまち」江口寿史の表紙に惹かれて

東京オリンピックが終わりました。

噂によると、開会式の会場では、BGMとして日本のシティ・ポップが流れていたとか。

シティ・ポップ旋風、あいかわらず熱いですね。

管理人も、毎日80年代のシティ・ポップを聴きながら、爽やかな夏を過ごしておりますが、今年の春に発売された「東京人~シティ・ポップが生まれたまち」はいいですね。

忘れないようにレビューを上げておきます。

概要

「シティ・ポップが生まれたまち」は、雑誌「東京人」2021年4月号の特集タイトルです。

正確には、”「シティ・ポップが生まれたまち」1970-80年代 TOKYO ” が特集の名前です。

「東京人」というと、もっと渋い街歩きの味方というイメージがあるんですが、最近はこういう特集もあるんですね。

表紙の江口寿史のイラストだけで買っちゃいました(笑)

いや、もともと、シティ・ポップ関係の本は、できるだけ買うようにしているのですが、これは表紙がいいです。

今年の夏は、北海道の旭川美術館で「江口寿史イラストレーション展 彼女」が開催されています。コロナが落ち着いたら観に行きたいのですが、どうなることやら、、、

出版社の説明には「ここ数年、世界的にブームとなっているシティ・ポップ。1970年代から80年代の日本、とりわけ東京のまちでどのようにしてこの新たなサウンドが誕生したのか。ミュージシャン、プロデューサー、スタジオなど当時の関係者たちの証言を集めた、シティ・ポップ黎明期の記録」とあるので、1970年代のシティ・ポップ黎明期にスポットを当てた企画と言っていいようです。

とは言え「1970-80年代 TOKYO」とあるので、1980年代の音楽シーンに関する情報もきっとあるはず!

目次

さすがに、こだわりの『東京人』の特集、”永久保存版”と言っていい充実の記事が並んでいます(増刷も納得!)

江口寿史(イラストレーター)レコードジャケットは無言で語る

表紙に続いて、江口寿史さん所蔵のレコード・コレクションからスタート。

大瀧詠一『Niagara Moon』と南佳孝『SOUTH OF THE BORDER』が見開きで並んでいるところは、一瞬、昔の雑誌のレコードの広告かと思ってしまいました。

記事タイトルのとおり、レコード・ジャケットからシティ・ポップを語ろうという企画ですが、「もうすでに「シティ・ポップ」というくくりが安く使われ過ぎで個人的には辟易」と、快調の滑り出し。

特集見開きページのイラストは、SONYのウォークマンとカセットテープ

須藤薫、EPO、吉田美奈子、鈴木茂、ブレバタ、松任谷正隆、岩渕まことと、マニアの喜びそうなラインナップです。

ジャケ自体はどうということもないんですが、拙作『ストップ!!ひばりくん』のワンシーンで、渋谷の街をタワレコの袋を小脇に抱えて歩くひばりくんの背景(PARCOの壁)に描いたのがこのジャケットで、個人的に思い出深い。(松任谷由実「パール・ピアス」)

ユーミンの『パール・ピアス』については「全12ページのブックレットで、全面にわたって安西水丸さんのクールミントなイラストがフューチャーされている」「しかもそれを表には全く謳っていない」と、ブックレットを絶賛しています。

さらに、加藤和彦『パパ・ヘミングウェイ』、佐藤博『awakening』と、秀逸なジャケット・ワークが紹介されて、江口寿史さんのページを読むだけで、元を取った気分になれます(笑)

松本隆(作詞家)「風をあつめて」を越える歌は難しいですね

続いて、松本隆さんのインタビュー記事。

「シティ・ポップとか、そういう呼び方はさ、僕はあまり興味がない」「いつも誰かが流行らすんだけど、居心地はよくないよね」「勝手にラベリングされちゃうんだ」と、こちらも素晴らしいスタートダッシュ(笑)

「小さい頃からキラキラしたものも好きでね。逆にベタベタしたものが嫌いだった」「だからはっぴいえんどでは、そういうウェットさのない音楽を作りたかったんだ」「結果的には、過度にドライでもウェットでもない、普遍的な音になったと思う」という、はっぴいえんどのルーツには納得です。

松任谷正隆(音楽プロデューサー)サウンドに織り込まれる、街の風景と空気感

続いて、ユーミン夫の松任谷正隆さんのインタビュー。

松任谷正隆『僕の散財日記』も愛読しています! ファッション好きのバブル世代の方にはおすすめ。

「自分の好きな音楽は割と一貫してたかもしれない」「中間色かな。強すぎず、弱すぎずっていう感じの音楽ですね」というところは、松本隆さんの「ドライでもウェットでもない」に通じる概念で、このあたりにシティ・ポップの本質があるような気がします。

奥様の松任谷由実さんとの関係は「信頼関係ではないですね」「最小公倍数を見つけた、というか。最小公倍数を見つけながらやって行くうちに、方向ができてくるんですよ」と、素敵な大人の関係。

唯一のソロアルバム『夜の旅人』を「シティ・ポップの名盤」と紹介されると、「僕は自分が作っている音楽はシティ・ポップだとは思っていない」と、ここでも名言が(カッコ良すぎです)。

【対談】牧村憲一(音楽プロデューサー)×泉麻人(コラムリスト)僕らの「シティ・ミュージック」の時代

続いて、牧村憲一さんと泉麻人さんの対談で、泉麻人さんが出てくると、突然に『東京人』らしくなってきますね(笑)

シティ・ポップが生まれた時代の話というか、フォークからニューミュージックへの流れが、かなり詳しく出てきます(フォークソングの話題も、なんとなく『東京人』っぽい)。

ここでも、はっぴいえんど『風街ろまん』が、かなり重要な意味を持って語られています。

A面/B面 My Best

いろいろな著名人が、自身のシティ・ポップ・プレイリストを紹介するコーナー。

クリス・ペプラー(パーソナリティー)
小谷実由(モデル)
山崎まどか(コラムニスト)
本田創(暗渠者)
細馬宏通(早稲田大学文学学術院教授)
輪島裕介(大阪大学文学部・大学院文学研究科准教授)
田村公正(USEN代表取締役社長)
岩下和了(岩下食品代表取締役社長)。

ひと口にシティ・ポップと言っても、世代によってかなり差が出ますね。

年上の皆様は、やはり70年代色が強くて、むしろ、小谷実由さん(1991年生まれ)の選曲に共感できます。

杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語」
1986オメガトライブ「君は1000%」

同世代の田村公正さん(1971年)の選曲もいいですね。

山下達郎「RIDE ON TIME」
杉山清貴&オメガトライブ「SUMMER SUSPICION」
稲垣潤一「夏のクラクション」
ナイアガラ・トライアングル「A面で恋をして」
佐野元春「SOMEDAY」
大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」
杏里「悲しみがとまらない」
松任谷由実「埠頭を渡る風」
サザンオールスターズ「シャ・ラ・ラ」

我々バブル世代にとってのシティ・ポップは、やっぱり1980年以降の曲というイメージが強いですね。

1970年代の音楽は、お兄さん・お姉さんの音楽という感じがします。

永井博、鈴木英人、わたせせいぞう――「シティ」の感触を描いたジャケットイラストの世界

江口寿史さんの記事とも被りそうですが、シティ・ポップはレコード・ジャケットで語られる部分が、やっぱり大きいですよね。

大瀧詠一『A KONG VACATION』(永井博)は、今年めちゃくちゃ露出されているやつ。

山下達郎『FOR YOU』(鈴木英人)は「FM STATION」の表紙でおなじみのやつ。

濱田金吾『ハートカクテル』(わたせせいぞう)は、もちろん「ハートカクテル」のやつです。

松任谷由実『流線形’80』(矢吹申彦)、伊藤銀二『SUGAR BOY BLUES』(原田治)など、人気のイラストレーターとコラボしたジャケットは、いかにもシティ・ポップな感じがします。

読書感想と解説

全体の印象としては、かなり本格的にシティ・ポップと向き合っている特集という感じです。

中途半端ではないな、と(笑)

シティ・ポップが生まれた1970年代

それだけに全体のウェイトは、シティ・ポップが生まれた1970年代に重くなっているような気がしますが、これは『東京人』の購読層を意識したものでしょう。

我々バブル世代よりも、少し上の方々の視点に合わせていると思います。

1980年代は音楽が多様化した時代なので、いわゆるシティ・ポップをとらえる幅も広くて、80年代に青春時代を迎えた我々世代は、カルロス・トシキや稲垣潤一までシティ・ポップだと思っているけれど、1970年代を知っている方々は、シティ・ポップをもう少し音楽的な意味で解釈しているんだなあと感じました。

だから、松本隆さんや松任谷正隆さんが「シティ・ポップ」という言葉を好ましくとらえていないという気持ちは、すごくよく理解できます(笑)

「めんたいロック」の話してるときに、海援隊とかさだまさしにまで話が広がっていくような、、、(笑)

「ハマダといえば、キンゴで~す」

ジャケットワークの記事の中で、わたせせいぞうさんの名前が出てきたときに思ったんですが、シティ・ポップ・ブームの中にあって、濱田金吾さんの名前って、あまり出てこないですよね。

これ、結構不思議です。

おしゃれな「ハートカクテル」と、すごく近い位置にいたアーチストなんですよね、濱田金吾さんって。

「ハマダといえば、キンゴで~す」で有名。当時、レコード・ショップに行くと、浜田省吾と濱田金吾のレコードが並んでいました。

同じ特集記事の中で、伊藤銀二さんの『SUGAR BOY BLUES』が紹介されていたのもうれしかったです。

濱田金吾さんにしても、伊藤銀二さんにしても、ジャケットワークだけではなくて、もっと音楽シーンから語ってほしかったなあ。

SONYのウォークマンとカセットテープ

なんだかんだ言って、やっぱり巻頭の江口寿史さんの記事は良かったですね。

『ストップ!!ひばりくん』のエピソードなんて、作者の細部へのこだわりが伝わってきて、週刊誌の連載が難しかったっていうことも納得です。

って、シティ・ポップに対するこだわりも凄いです(私物のレコードで登場というところも最高)。

洗練されたジャケットワーク見ていると、本当に気分が上がりますから。

でも、いちばん良かったのは、見開きに掲載されている、江口寿史さんのイラストでしょうか(SONYのウォークマンとカセットテープのやつ)。

シティ・ポップの時代というのを、見事に表現した一枚だと思います(世代的に胸がキュンとなる)。

「なんとなく、クリスタル」とシティ・ポップ

個人的に注目したいのは、「ドライでもウェットでもない」(松本隆)や「強すぎず、弱すぎずっていう感じの音楽」(松任谷正隆)という表現です。

すごく熱かった全共闘世代や、すごく冷めたシラケ世代と違って、ホットでもクールでもないという感覚を、田中康夫さんは「クリスタル」と表現しました(「なんとなく、クリスタル」(1980年))。

この「ドライでもウェットでもない」「強くも弱くもない」「ホットでもクールでもない」という「無味無臭の乾燥した感覚」こそが、1980年代という時代であり、シティ・ポップというカルチャーだったのではないでしょうか。

そして、今、当時のシティ・ポップが再評価されているということに、2020年代という時代が求めている「無味無臭の乾燥した感覚」が現れているような気がします。

考えてみると、日本は1980年代後半にバブル景気で熱く燃え上がり、その後、長く冷たい「氷河期」を過してきました。

今、僕たちはシティ・ポップに、心の安定を求めているのかもしれませんね。

まとめ

ということで、以上、今回は『東京人』の特集「シティ・ポップが生まれたまち」について、全力で語ってみました。

今回の特集は、真剣にシティ・ポップと向き合って作られたもので、シティ・ポップの歴史を勉強したいと考えている人は、きっと買って損することはないと思いますよ。

っていうか、絶対に買うべき一冊です。

将来、古本市場でプレミアが付いたときに後悔しないように。

書名:東京人(2021年4月号)特集「シティ・ポップが生まれたまち」1970-80年代TOKYO
出版社:都市出版

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KONTA
1967年生まれのバブル世代。80年代カルチャーしか勝たん。推しは仙道敦子。匂いガラスが欲しい。