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野田知佑「ゆらゆらとユーコン」カヌー旅のアウトドア・エッセイ集

野田知佑「ゆらゆらとユーコン」あらすじと感想と考察

野田知佑「ゆらゆらとユーコン」読了。

本作「ゆらゆらとユーコン」は、1989年(平成元年)に、本の雑誌社から刊行されたアウトドアエッセイ集である。

転覆したら絶体絶命のユーコン川下り

タイトルを見て、ユーコン川下りのエッセイ集だと思っていたら、千葉県亀山湖の話から始まっている。

どうやら、このエッセイ集は、1982年(昭和56年)から1989年(平成元年)にかけて、様々な媒体に発表されたエッセイを集めて収録しているらしい。

初出を見ると、「本の雑誌」「熊本日日新聞」「Number」「FIELD&STREAM」「朝日新聞日曜版」「旅」などの名前が並んでいる。

まあ、昭和末期の日本のアウトドア事情を知る上で、貴重なエッセイ集と言っていいだろう。

基本になっているのは、亀山湖での暮らしとユーコン川下りである。

亀山湖での生活ぶりも楽しいが、読み応えのあるのは、やっぱりアラスカのユーコン川をカヌーで旅したときの話である。

日本のような水温の高い川と異なり、ユーコン川は水温八~一二度だ。川の真中から岸に着けるのにカヌーを漕いで三〇分はかかるから、フネが転覆した場合、泳いで岸に着くのにたっぷり一時間はかかる。この水温で人間が生きておれるのは一〇分間だと言われる。カヌーがひっくり返ったら、ぼくはまず助からないと思っていた。だから、ライフジャケットも着けないで漕いだ。(野田知佑「ゆらゆらとユーコン」)

転覆して川に落ちたら、間違いなく死が待っている。

とても、「ゆらゆらとユーコン」なんて、のんびり船を漕いでいられる環境ではないところで、野田さんは単独行を楽しんでいる。

よほどの覚悟がないと、とてもできないことだと思う。

ユーコンの川下りで、野田さんは一匹の犬を同伴していた。

やがて、カヌー犬として大人気となる<ガク>だ。

ジョン・スタインベックに『チャーリーとの旅』という作品がある。年をとってくると周囲の人が妙にやさしくなり、赤ん坊のように扱うようになる。普通の人ならここでゲートボールを始めたりするところだが、スタインベックはトラックをキャンピングカーに改造してアメリカ一周の旅に出るのだ。チャーリーという名の犬を連れて。(野田知佑「ゆらゆらとユーコン」)

ガクを手に入れたとき、野田さんは「こいつを『カヌー犬』にして川を下り、『ガクとの旅』という本を書いてやろうと思った」そうだ。

読み終わった本は焚き火で燃やす

この本で、僕が一番気に入っているところは、カヌー旅に文庫本を持っていくというところである。

まず、帯とカバーは引っぱがしてくしゃくしゃにする。それから三六〇度本を広げ、折り曲げて片手に持ち、ゆっくりと寝ころぶ。読んだページは片っぱしから破って、焚火のタキツケにする。雨後や霧で薪が濡れた朝の焚火など、タキツケはいくらあっても足りない。以前、雨が降り続き、ガスが切れたことがあって、その時テントの中で、本を燃してメシを炊いたことがある。(野田知佑「ゆらゆらとユーコン」)

読み終った本を順番に燃やしていくというのは、荷物も減るし、かなり合理的な方法だと思う。

ただし、開高健の本はよろしくないらしい。

『もっと遠く!』(文春文庫)も『フィッシュ・オン』(新潮文庫)も『オーパ!』(集英社文庫)もみんな、表紙が立派なコート紙のため、有毒ガスを発生するのだそうだ。

どこまで本当で、どこから冗談か、分からない話も多いが、自然の中で生きる男のリアリティが、読みやすい文章の中から伝わってくる。

久しぶりにキャンプに行きたくなってきたなあ。

書名:ゆらゆらとユーコン
著者:野田知佑
発行:1989/10/30
出版社:本の雑誌社

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。メルカリ中毒、ブックオク依存症。チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。札幌在住。