音楽

岩沢幸矢『ベアフット』上質な大人のリゾート・ミュージックを楽しむ

夏向きの音楽を聴きたいけれど、サザンやチューブという気分じゃない、ということもありますよね。

しっとりとした大人のリゾート・ミュージックを聴きたい、そんなときに超おすすめなのが、岩沢幸矢さんのサウンドです。

ちょっと懐かしくて、隠れた名盤・裏名盤を紹介する「名盤ガイド」、今回は、岩沢幸矢さんのソロアルバム『ベアフット』をご紹介したいと思います。

岩沢幸矢『BAREFOOT』1998年、Dolce Music岩沢幸矢『BAREFOOT』1998年、Dolce Music

岩沢幸矢さんについて詳しく紹介します

はじめに、「岩沢幸矢って誰だっけ?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

個人名としては、あまり登場しない名前かもしれませんが、美しいコーラスで定評のある兄弟デュオ<ブレッド&バター>のメンバーといえば、なるほどと思い出す方も、きっと多いことと思います。

ブレッド&バターは、1969年にデビューした兄弟デュオで、今年でなんとデビュー53年という、驚異的なキャリアを誇る二人組なんです。

地元の湘南をベースにした活動を続けていて、湘南サウンドといえばブレッド&バターを思い出すと言われているくらい、地元では根強い人気を誇っています。

ブレッド&バターの4枚組ベストアルバムブレッド&バターの4枚組ベストアルバム

音楽業界の中でのネットワークも凄くて、細野晴臣や松任谷由実などと親交があるほか、海外ではスティービー・ワンダーともツーカーだという、とにかくグレイトな、ミュージシャンズ・ミュージシャン。

代表曲「あの頃のまま」はユーミン作詞作曲、スティービー・ワンダーからは「特別な気持ちで(I JUST CALLED TO SAY I LOVE YOU)」や「remember my love」などの楽曲提供を受けるほか、井上陽水とも仲良しで「ワイオミング・ガール」という作品の提供も受けています。

最近何かと話題のシティ・ポップの走りのミュージシャンでもあり、音楽誌『レコード・コレクターズ』の特集「70年代シティポップの名曲ベスト100」では、「ピンク・シャドゥ」という作品が2位にランキングするなど、さすがの貫禄。

ちなみに、この「ピンク・シャドゥ」は、あの山下達郎がカバーしたことでも知られていて、初期のライブ・アルバム『イッツ・ア・ポッピン・タイム』にも収録されています。

「ピンク・シャドゥ」のカバーが収録されている山下達郎『『イッツ・ア・ポッピン・タイム』』「ピンク・シャドゥ」のカバーが収録されている山下達郎『『イッツ・ア・ポッピン・タイム』』

そんな凄いキャリアを誇る兄弟デュオ<ブレッド&バター>のメンバーのうちのお兄さん、それが、今回ご紹介しようとしている岩沢幸矢さんなんです。

ブレッド&バターのお兄さん、岩沢幸矢さんは、1943年(昭和18年)7月11日生まれ、今年で79歳の現役ミュージシャン。

神奈川県茅ケ崎市出身の湘南ボーイで、お父さんは映画監督の岩沢庸徳さん。

実弟の岩沢二弓さんと兄弟デュオ<ブレッド&バター>を組むほか、妻もシンガーのMANNA(本名:岩沢真利子)さんという、リアルな芸能一族です。

ブレッド&バターは、青春っぽい楽曲と美しいハーモニーが特徴のデュオなんですが、ブレバタの楽曲の中には、幸矢さんの作詞作曲による名曲がたくさん含まれています。

湘南サウンドの定番になっている「湘南ガール」(作詞はユーミンとの共作)なんか、素晴らしい日本のビーチボーイズ・サウンドですよ。

『BAREFOOT』は、どのようなアルバムなのか?

さて、そんな日本のシティ・ポップのレジェンド、岩沢幸矢さんが初めて発表したソロアルバムが、この『ベアフット』です。

アルバムの発売は1998年(平成10年)なので、1943年生まれの幸矢さんは、55歳になる年でした。

今年(2022年)からは、もう24年も前のアルバムなんですね。

とはいっても、音楽は全然古くないし、今聴いてもまったく違和感はありません。

なにしろ、演奏は、細野晴臣&日本のフュージョンバンド<PARACHUTE(パラシュート)>のメンバーという、ほぼ完璧な布陣。

パラシュートといえば、国内の若手一流ミュージシャンが集結する形で1979年に結成されたスーパーグループです。

レコーディング風景のカラー写真も経済されているレコーディング風景のカラー写真も経済されている

『BAREFOOT』のクレジットを見ると、ベース細野晴臣、ドラム林立夫、パーカッション斉藤ノブ、ギター松原正樹、ベース&ギター今剛、アコースティックギター安藤芳彦、ピアノ高井萌などといった名前が並んでいます。

さらに、コーラスには、幸矢夫人マナさんの名前も。

細野さんにしてもパラシュートの面々にしても、ブレッド&バターとは旧いつきあいの仲であり、気心の知れた仲間たちとの録音だったということになるようです。

幸矢さんがパラシュートの安藤さんに話を持ちかけたことから始まった、このアルバムの収録曲は、1998年に関係者に配布された私家版CD『Satsuya Iwasawa  Demo』が元になっているんだそうです。

なお、実際に発表された『ベアフット』には、全部で12曲の作品が収録されています。

岩沢幸矢『BAREFOOT』収録曲

01. 江ノ鎌
02. Honolulu City Lights
03. Sailing on the Borderline
04. Lazy Afternoon
05. Hello Oldies
06. アレハ?
07. Silver Wing
08. Good Morning
09. Barefoot on the Beach
10. Lavender Blue (スタジオ・ライヴ)
11. Honolulu City Lights (TVミックス)
12. アレハ? (TVミックス)

透明感のあるアコースティック・サウンドが特徴的で、静かに始まる夏の早朝にぴったりと感じるのも、そんな透明感と関係があるのかもしれませんね。

アルバム・タイトルの『ベアフット』は「裸足」という意味ですが、これは、幸矢さんが1981年から続けている、地球温暖化防止と環境保護意識の啓発を目的とした環境運動の名前でもあります。

ジャケットの絵は、千ヶ崎在住の洋画家、西野久子さんの作品ジャケットの絵は、千ヶ崎在住の洋画家、西野久子さんの作品

ジャケットに描かれている裸足の女の子の絵画は、1940年代から日本画壇で活躍していた、千ヶ崎在住の洋画家、西野久子さんの作品。

西野さんは2008年に亡くなっていますが、幸矢さんは昔から西野さんの作品が好きで、個展でこの作品を見たときに、ジャケットに使う作品はこれしかないと思ったそうです。

ちなみに、帯には「あのメンバー、あの気持ちよさ! パラダイス・ミュージックの決定版」「ブレッド&バターの岩沢幸矢、初のソロアルバム」「新曲10曲を揃えて、遂に完成」とあります。

岩沢幸矢『BAREFOOT』全作品レビュー

このアルバムの最大のポイントは、その透明感です。

1曲目の「江ノ鎌」を聴くと、僕はいつでも夏の夜明け前の海を思い出します。

「江ノ鎌」っていうのは、江の島と鎌倉を合体させた言葉で、地元の通っぽい感じがあります。

江ノ島 鎌倉 腰越 稲村ケ崎を越えて
走る江ノ電 BENETON の電車
カモメ浮かぶ凪いでる海
鯔(ぼら)の群が飛び跳ねている
もうすぐそこさ 砂の家まで

湘南の雰囲気たっぷりのフレーズが、静かなサウンドに乗せて流れてくると、それだけで、もう幸せな気持ちになりますね。

作詞作曲ともに岩沢幸矢さん。

最高の一曲目です。

歌詞カードにもこだわりのデザインがある歌詞カードにもこだわりのデザインがある

次の「Honolulu City Lights」も名曲ですね。

波に揺られているような、ゆったりとしたグルーヴが心地良くて、本当にハワイにいるかのような気持ちになってきます。

夜空を照らす 地上に降りた星たち
もどってゆこうか 波に揺られて
夢の中へ旅立とう
明日のことに心うばわれ
見えなくなった昨日がある
ありふれた暮らしに色あせた頃
からっぽの心に島が見えてくる

作詞は安藤芳彦さん&マナさん、作曲は幸矢さん。

素晴らしいリゾート・ポップスです。

3曲目の「Sailing on the Borderline」も、「Honolulu City Lights」から続いているようなリゾートソング。

ブレバタの名曲「セーリング・オン・ボード」を思い出すタイトルですが、こちらの「Sailing on the Borderline」もいいです。

分厚いサウンドじゃなくて、スカスカなのに完成されているアコースティック・サウンド。

このアルバムが古臭くならない理由は、そんな普遍的なサウンドづくりにあるような気がします。

作詞は安藤芳彦さん、作曲は幸矢さんと安藤さんと高井萌さんの共作でした。

CDケースの裏面には、ソファでギターを弾く岩沢幸矢さんの写真があるCDケースの裏面には、ソファでギターを弾く岩沢幸矢さんの写真がある

4曲目「Lazy Afternoon」までは、まったりとしたナンバーが続きます。

夏の午後の昼寝を楽しむようなサウンドを聴いていると、何もしたくなくなります(笑)

作詞は安藤さん、作曲は幸矢さん&安藤さん。

「短い夏が終わる頃一人 どこかへ旅に出ようか」というフレーズもいいですね。

5曲目の「Hello Oldies」で、突然に感傷的なマイナー・メロディが流れてきます。

古い音楽をノスタルジックに思い出している曲で、音楽が好きな人にはすっごく共感できる曲なのではないでしょうか。

傷だらけの古いディスク
ノイズの雨 かすむメロディ
不思議なほど この胸に痛い
いつも心で探してた

流れる時の中で
変わらないものがある
遠い夏のきらめきまで甦る

感傷的な歌詞はパラシュートの安藤芳彦さんで、メロディは幸矢さん。

安藤さんは村田和人さんの多くの作品で作詞を手がけるなど、作詞家としても活躍している方なのですが、シンプルなのに情景が浮かび上がるようなフレーズがいいなあと思います。

このアルバムの中核になっている作品だと思います。

幸矢さんのワークとしても、必ず取り上げてほしい名曲ですね。

前半最後の6曲目は「アレハ?」は、作詞が安藤芳彦さん、作曲が岩沢幸矢さんの作品。

再び、まったり系のサウンドで異国情緒たっぷり。

韻を踏んだリズミカルな歌詞も楽しい作品です。

横に長い歌詞カード横に長い歌詞カード

7曲目の「Silver Wing」は、壮大なイメージの曲。

翼の向こうに朝日が昇る
日付は今日のままで
かかえた仕事を済ませて今は
最終の機上の人

最終便に乗って、恋人へ会いにゆく男性の気持ちを歌った作品ですね。

作詞は岩沢幸矢&安藤芳彦、作曲は岩沢幸矢。

8曲目の「Good Morning」は、まさしく夏の早朝の歌です。

窓辺に揺れている 光が微笑む朝は
あたりまえの こんな一日が大事に思える
まだ夢の中で空を飛んでる
ほら 背中の羽が
僕の心と風を包んで舞い上がる

作詞は安藤芳彦、作曲は岩沢幸矢。

透明感があって、静かで、まだベッドの中でまどろんでいる雰囲気が、すっごく感じられる作品です。

9曲目の「Barefoot on the Beach」は、何やらブレバタっぽい曲です。

作詞は安藤芳彦、作曲は岩沢幸矢。

アルバム・タイトルの「BAREFOOT」というキーワードを冠しています。

「夜明けだ 朝だ」「君とビールと強い日差し」「湘南ビーチ」「空と海のハーモニー」と、出てくるワードは、いずれもブレッド&バター。

アコースティック・サウンドをベースに展開していくサマー・ロックは、このアルバムの中でも重要な一曲に仕上がっています。

CDの青いデザインにも夏を感じるCDの青いデザインにも夏を感じる

10曲目「Lavender Blue」は、一転してクールなオシャレ・シティ・ポップ。

「マスクもマウスピースも付けずに泳いでゆこう」とか、印象的なフレーズが入っています。

曲名の「ラベンダー・ブルー」も美しい言葉だと思います。

作詞はマナさんと幸矢さんの夫婦コンビ、作曲は幸矢さん。

シンプルなのに、メチャクチャかっこいい曲です。

アレンジと演奏が恐ろしすぎる、、、

11曲目は「Honolulu City Lights」のTVミックスで、12曲目は「アレハ?」のTVミックス。

一瞬、インストゥルメンタル・バージョンかと思ったけれど、時折、幸矢さんの声が入っています。

基本的に歌詞なし、演奏メインのバージョンだと思いますが、アレンジと演奏がいいので、こっちのバージョンもお気に入り。

結局、最初から最後まで捨て曲なし、まるごと全部良いのが、この『BAREFOOT』というアルバムなんですね。

ぜひ、多くの方に、この感動を共有してほしいなあと思います!

まとめ

ということで、以上、今回は、岩沢幸矢さんのソロアルバム『BAREFOOT』について、詳しくご紹介いたしました。

このアルバムを一言で言うと、「上質な大人のリゾート・ミュージック」ということになってしまうでしょうか。

ノリノリのドライブ・ミュージックではない、まるで波に揺られているように優雅な夏の音楽を、どうぞお楽しみください。

ABOUT ME
kels
ちょっと懐かしい本や雑誌、CDの感想を書いています。好きな言葉は「広く浅く」。ブックオフが憩いの場所です。