妙にユルい雰囲気のカメラ雑誌が出てきたなあと思ったのは、2005年のことである。
「カメラ日和」というその雑誌は、過去のどんな写真雑誌とも違っていた。
それまでカメラ雑誌といえば、「日本カメラ」とか「アサヒカメラ」のような本格派か、「CAPA」のような少年向けのもの(アイドルタレントが表紙)が当たり前だった。
つまり、写真の世界というのは、若くても年を取っていても男性が中心となっている世界だったのである。
しかるに、「カメラ日和」の登場は、写真界における女性の存在感を、あっという間に、そして圧倒的に変革してしまった。
ジェンダー問題だけではない。
「カメラ日和」は、既存の写真観をことごとく変えていった。
適正露出とか構図原則とかピント合わせとか、それまで常識だったものにこだわらない写真が、「カメラ日和」では積極的に採用されたのだ。
それまで堅苦しかった写真の世界が、「カメラ日和」によって一気に自由化が進んだような気がする。
例えば、2005年の冬に刊行された「カメラ日和」創刊号。
「LIVES1月号増刊」と書かれた表紙には「Life with Camera」のキャッチコピーがある。
「毎日をカメラと一緒に」。
それが「カメラ日和」の基本コンセプトだった。
ページを繰って読み進めていくと「恋するカメラ」というタイトルの特集がある。
「恋するカメラ」、なんと女性的でセンチメンタルなフレーズなんだろう。
カメラが恋するとか、冷静に考えると意味不明だけど、この短いフレーズに、当時の「カメラ日和」が持っていた魅力が表現されていた。
それは、お気に入りのカメラを紹介する特集なのだが、「カメラに大切なのはスペックだけではありません」「手に持ったときの感触、そこにあるだけでうれしくなってしまうデザインも大切」「カメラを愛する乙女たちが自分の目で選んだ美しいカメラを紹介」などと、これまでのカメラの選び方とは異なるメッセージが並んでいた。
そして、ここで登場するカメラは「Nikon FM3A」「PENTAX *ist」「FUJIFILM NATURA」や「CONTAX T3」などといったフィルムカメラのほかに、「HOLGA 120S」「LOMO LC-A」「Babylon 4」などの、いわゆるトイカメラもある。
トイカメラに力を入れて紹介するカメラ雑誌なんて、これが初めてだったんじゃないだろうか。
この後、日本国内ではトイカメラに関する書籍の刊行が相次ぐなど、ゼロ年代はトイカメラブームの時代となった(割と一瞬だったけどね)。
自由な写真を撮影するという意味で、「カメラ日和」とトイカメラとのマッチングは最適解だったのだろう。
この後、僕もトイカメラ戦線に参入し、「カメラ日和」の良き愛読者となる。
若い女性をターゲットにしていながら、「カメラ日和」にはジェンダーを意識させない誌面作りがあった。
そのあたりは、2003年創刊の「クウネル」と近いところがあって、当然、「カメラ日和」と「クウネル」との購読者層は重なっていただろう。
むしろ、「クウネル」購読者層の中のカメラに対する興味関心を焦点化した雑誌が「カメラ日和」ではなかったかと、僕は考えている。
ちなみに、「カメラ日和」創刊のとき、僕は38歳だった。
僕のカメラ熱が沸騰するのは、そこから5年間くらいの時期だったと思う。
5年間の中で、僕はたくさんのカメラと出会い、たくさんの写真を撮った。
やがて、仕事が忙しくなって写真を撮る機会も減り、「カメラ日和」を購入することもなくなってしまった頃。
2016年に「カメラ日和」は休刊となった。
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