1980年代の『月刊クラッシィ』に連載された村上春樹のエッセイと安西水丸のイラスト

小説家の村上春樹さんが、ユニクロのチャリティTシャツプロジェクト『PEACE FOR ALL』で、猫のイラストに「save humans,save cats」と添えたTシャツをデザインしたそうです。

村上さんって、本当にいろいろな活動に取り組んでいますよね。

でも、僕は相変わらず1980年代の村上さんが好きなので、今回は、『月刊クラッシィ』創刊号から連載されたエッセイについて、ご紹介します。

ハイソな香りが漂う『月刊クラッシィ』

『クラッシィ』は、1984年6月に創刊された女性ファッション誌です。

1984年—チェッカーズが「涙のリクエスト」や「ジュリアに傷心」で大ブレイクし、「北ウイング」や「飾りじゃないのよ涙は」を歌った中森明菜が女性アイドルの頂点に座していた時代。

1986年から始まるバブル時代前夜とも言うべき、この1984年に創刊されたファッション誌が『クラッシィ』でした。

ちょっぴりハイソな香りが漂う『月刊クラッシィ』創刊号 ちょっぴりハイソな香りが漂う『月刊クラッシィ』創刊号

ちょっぴりハイソ(ハイソサエティの略)な香りが感じられて、トレンディな風にも敏感な若い女性たちに向けた提案がたくさん紹介されています。

そして、この『クラッシィ』創刊号のまさしく冒頭に掲載されたのが『村上朝日堂画報』でした。

オシャレで都会的だった村上春樹の小説

今でこそ、大作家の村上春樹ですが、1984年時点で村上さんが発表している長編小説は、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』の「鼠三部作」のみ。

鼠から離れた最初の長編小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が刊行されるのは、1985年のことなので、この時期の村上さんは、まだまだオシャレで都会的な青春小説の書き手といったイメージでした。

村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』 村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』

ちなみに、1984年の村上さんは35歳。

当時、村上さんを支持していたのは、アラサーの女性たちだったんですね。

カラーイラストが素晴らしい『村上朝日堂画報』

『村上朝日堂画報』は、村上春樹がエッセイを書き、安西水丸がイラストを描く、一連の「村上朝日堂シリーズ」のコラボ企画です。

村上春樹初めてのエッセイ集は、日刊アルバイトニュースの連載を書籍化した『村上朝日堂』(若林出版企画)ですが、この『村上朝日堂』の発売は1984年7月のこと。

つまり、『月刊クラッシィ』の発売直後になるわけで、逆に言うと、『村上朝日堂』発売直前に創刊された『月刊クラッシィ』で新たに始まった連載エッセイが、この『村上朝日堂画報』だったということです。

『月刊クラッシィ』に連載された「村上朝日堂画報」 『月刊クラッシィ』に連載された「村上朝日堂画報」

「画報」という言葉があるように、『月刊クラッシィ』では水丸さんのオシャレなイラストが、見開き2ページにカラーで大きく掲載されています。

これは単行本では味わえない迫力ですね。

まして文庫本では雰囲気くらいしか伝わらないと思います。

これは絶対に女性ファッション誌の連載で読みたいエッセイだと思いました。

シティーライフな「レストランの読書」

連載第一回のタイトルは「レストランの読書」。

そのへんの若者向雑誌がよく特集しているようなシティーボーイの条件だとかシティーライフのあり方、なんていったこととはべつに、都会生活を比較的気持よく送るためのコツというのは、やはりそれなりに存在する。(村上春樹「村上朝日堂」)

書き出しの部分から、いきなり「シティーボーイ」とか「シティーライフ」なんていう言葉が登場しています。

『月刊クラッシィ』は、25歳以上の、ある程度お金を持っている、都会的な暮らしに憧れる女性たちをターゲットにしていたから、エッセイのテーマも当然、貧乏くさいものとか田舎っぽいものはNG。

ハイソな若い女性が「ふーん」って言ってくれるような、洗練されていて、ちょっと教養を感じることのできる文章が求められていたんですね。

本を読むのはなんといっても午後のレストランがいちばんである。静かで、すいていて椅子の座り心地が良い。ワインと前菜だけの注文でも嫌な顔をしない親切で品の良いレストランをひとつ確保しておいて、街に出て時間が余ると新刊書を買い、そこに入ってちびちびと白ワインを舐めながらのんびりページを繰る。(村上春樹「村上朝日堂」)

今の時代なら「カフェで読書」っていうのがオシャレな感じですが、村上さんは「午後の静かなレストランでワインを飲みながら読書」。

安西水丸のオシャレなイラストをカラーで楽しむことができた 安西水丸のオシャレなイラストをカラーで楽しむことができた

すっごくオシャレで、都会的で、そして大人っぽい読書術!

なんて感動している若い女の子たちが、当時はたくさんいたんでしょうね~。

いかにもバブル前夜という感じがします。

そして、村上さんのエッセイを包み込んでいる水丸さんのイラストが、これまたオシャレ。

わたせせいぞうとか鈴木英人なんていう、他の80年代的な人気イラストレーターとは、また異なる魅力が、水丸さんのイラストにはあります。

これはぜひ、大判の画集で読みたい企画ですね。

なにしろ「画報」なんだから。

新潮文庫で読める『ランゲルハンス島の午後』

『月刊クラッシィ』連載の「村上朝日堂画報」は2年間続き、やがて『ランゲルハンス島の午後』(光文社)というタイトルで書籍化されました。

「ランゲルハンス島の午後」は、書籍化にあたっての書き下ろし作品のタイトル。

まえがきを村上春樹が、あとがきを安西水丸が書いています。

村上春樹さんとは、今までにもいろいろといっしょに仕事をしてきたけれど、こんな大きな絵を毎月描いたのは、この仕事がはじめてでした。(安西水丸「あとがき」)

うーん、これは、やっぱり大きな版の本で読みたいところですね。

新潮文庫『ランゲルハンス島の午後』 新潮文庫『ランゲルハンス島の午後』

『ランゲルハンス島の午後』、現在は新潮文庫に入っているもので読むことができます。

イラストは小さいけれど、バブル前夜のオシャレで都会的な雰囲気を楽しむには十分ですよ。

まとめ

ということで、以上、今回は、『月刊クラッシィ』創刊号に掲載された、村上春樹さんの連載エッセイ「村上朝日堂画報」をご紹介しました。

村上さんと水丸さんのコラボエッセイ、本当に楽しいですよね。

長篇小説の執筆の合間に、こんな雑文をちびちびと書いていた時代の村上春樹さんが、僕は今でも大好きなんです。

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kels
バブル世代のビジネスマン。読書と音楽鑑賞が趣味のインドア派です。お酒が飲めないコーヒー党。洋服はアーペーセーとマーガレット・ハウエルを愛用しています。