沼田元気「えろもあ創刊号」SM雑誌の付録だった「大人の見る絵本」

我が家の本棚にはなぜか『SMスナイパー』なるマニアックな雑誌が、一冊だけ保管されています。

不思議ですよね(笑)

実は、この雑誌、沼田元気さんの「えろもあ 大人の見る絵本」という小冊子が、特別付録になっているんです。

ということで、今回は、沼田元気さんの超絶マニアックな企画「えろもあ」の中から「大人の見る絵本」をご紹介したいと思います。

沼田元気さんのプロフィール

最近では「こけし」の研究者として有名な沼田元気さんですが、過去には、実に様々な肩書を持っていたことで知られています。

割と定番なのが「ポエムグラファー(写真家詩人)」で、「東京喫茶店研究所々長」「日本孤独の会々員」「ひとり歩きの会々長」なんていうのもありました。

僕がいちばん好きなのは「イコイスト」(憩いに由来している)ですが、「ヌマ伯父さん」とか「ヌマゲン」といった愛称で呼ばれることが多いようです。

著作は非常に多く、ひとつの道を究めるというよりも、好きなこと全部を本にしてしまうというくらいに企画が豊富。

その中でも最大のテーマは「喫茶店」で、『喫茶店百科大図鑑 ぼくの伯父さんのスクラップブック(東京喫茶店研究所編著)』や『喫茶遺産 Photography of old Japan』など、古き良き時代の喫茶店をノスタルジックに紹介する著作を世に送り出しています。

「写真家詩人」を自称するくらいに写真が好きで、愛用のカメラは、ハーフサイズの一眼レフカメラとして、フィルムカメラ派からの人気が高い「オリンパスペンF」。

『憩写真帖 全12巻』は、ヌマ伯父さんの写真の世界をたっぷりと楽しむことができる名作写真集です。

最近は、鎌倉で日本のこけしとロシアのマトリョーシカ専門店「コケーシカ KOKE-SHKA」を営業するとともに、雑誌「こけし時代」を編集・発行するなど、日本の伝統こけしに着目した活動を続けています。

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えろもあ=「エロ」+「ユーモア」

そんなアイディアマンのヌマ伯父さんが、1990年代後半に熱中していた企画が「えろもあ」です。

ヌマ伯父さんは、新しい言葉を作り出す「造語」の天才なのですが、この「えろもあ」という言葉も、ヌマ伯父さんの造語。

「えろもあ」とは、「エロ」と「ユーモア」を合体させた言葉で、くすりと笑ってしまうような楽しいエロティックを意味しています。

エロを明るく楽しもうという発想が既に常人の域を超えていますよね。

この「えろもあ」の企画は、全部で3つを著作を完成させました。

えろもあ 第1号 「大人の見る絵本」(「S&Mスナイパー」1996年4月号特別付録)

えろもあ 第2号 「風流川柳写真帖」(ミリオン出版 1997.1)

えろもあ 第3号 「特集日本映画のえろもあ集大成」(ミリオン出版 1997.4)

どの企画もタイトルを見ただけでマニアックだということが分かりますよね。

普通じゃあり得ないような企画を実現するのが、沼田元気という前衛芸術家でした。

えろもあ 第1号 「大人の見る絵本」

沼田元気さんの信奉者である僕は「えろもあ」全作をコレクションしていますが、今回は、「えろもあ」最初の作品である『大人の見る絵本』をご紹介したいと思います(タイトルからしてアヤしいから)。

えろもあ1号『大人の見る絵本』最大の特徴は、SMを愛好する方々の雑誌『SMスナイパー』の別冊付録だったということです。

沼田元気「えろもあ創刊号」が特別付録だった「S&Mスナイパー」1996年4月号沼田元気「えろもあ創刊号」が特別付録だった「S&Mスナイパー」1996年4月号

SM雑誌の付録っていうところからして尋常じゃないというか異常。

誰がこの企画を楽しむんだろうかという謎(SM愛好家の方々か?)。

大体『SMスナイパー』って、どこに売っているんだよ?と、とにかく謎だらけの「えろもあ」デビューでした。

ちなみに、「えろもあ」が付いている『SMスナイパー』(1996年4月号)は「創刊200号記念特大号」というアニバーサリーな記念号となっています(現在も続いているのか調べてはいないのですが、、、)

予想どおり、本誌はひたすらにマニアックな写真と文章で、「魂の暗部を狙撃する雑誌」というキャッチコピーの意味が理解できるような気がしてきます(笑)

本誌の一番最後、裏表紙のところに小冊子が付いていました。

これが「えろもあ創刊号」です。

「えろもあとは何ぞや」という巻頭言が掲載されているので、引用しておこうと思います。

えろもあとは何ぞや

かつて「エロ・グロ・ナンセンス」というカルチュアルがございました。カルチュアルと申しましたのは、それが単なるハヤリスタリではない人生に必要な創造的な趣味だからです。

文化というものは、表面的には手を替え品をかえ、手品の如く変化していますが、結局のところ、いつの時代も同じことをくりかえしております。

「エログロ・ナンセンス」この言葉の響きは、全くもってアナクロニズム極まりない訳ですが、思想的にはちいとも古いという訳ではなく、常に、その時代時代の先端をいっているものなのです。

では、今現代におけるそれは何かと考えたとき、エログロナンセンス改め「エロチカ・カワイイ・ユーモレス」もしくは「エロチカ・ユーモア・チャーミング」となるのではないでしょうか。

エロチカにおけるグロテスクは、最早、オバサンも女子高生も皆、カワイイとおっしゃいます。ヌイグルミから死体迄、ファンシーも、奇妙キテレツも又全て、カワイイ、チャーミングといって魅了されているのでございます。

また、ナンセンスという、笑いのセンスを、かつての過激で、アナーキィな破壊的な笑いではなく、今はほのぼのと心の底からわく温泉の様な、ポジティブユーモア、不条理であっても、そこに憩があればこそ朗なのです。

巷では、今「エロカワイイ」という言葉が流行っております。これは一寸、何やらそこはかとなく、いとおかしいではありませんか。

これを名付けて「えろもあ」としたくなったのでございます。なんてイイんでしょう。

どうやら「エロかわいい」という言葉の流行あたりに、「えろもあ」の原点があったようです。

いかにも90年代な企画だったということなのかもしれませんね。

えろもあ創刊号「大人の見る絵本」目次

「大人の見る絵本」は、林月光さんのエロいイラストと沼田元気さんの幻想的な文章と写真の組み合わせによって構成されています。

つまり「絵本」ということなんですね。

イラストも、成人雑誌に掲載されているような煽情的にエロいものではなくて、何だか、1960年代のSF雑誌の表紙にでもありそうなファンタジックな雰囲気のエロさ。

女性の全裸とか男性の性器とか、素材としては確かにエロいんだけれど、あまり「イヤらしい」という感じは受けません。

むしろ、ああ、芸術思考なんだなあと伝わる感じ。

正面から「エロ」と向き合っていて、そこには「照れくさい」とか「恥ずかしい」といった感情は一切ありません。

SM雑誌の特別付録だった「えろもあ創刊号」SM雑誌の特別付録だった「えろもあ創刊号」

目次を見ると、そのあたりの雰囲気が伝わるでしょうか。

えろもあ創刊号
官能オブジェ大特集

金魚
盆栽
お座敷犬
菊華
蛾と蝶
貝殻
毛皮
スノーボール
ミクロの世界
芋虫
海月
キノコ
深海魚
宇宙

目次だけ読んだら、絶対にエロ本とは思わないですよね。

つまり、これは、やはり芸術思考の強い作品ということなんだと思います。

林月光の幻想的なイラストが美しい林月光の幻想的なイラストが美しい

林月光さんによるイラストも全編カラーで、エロいというよりも美しい印象。

額装したらカッコいいだろうなあ。

地味に、ヌマ伯父さんの写真もいいです。

沼田元気さんの写真が好きな人は、きっと喜ぶと思います。

えろもあ八ヶ条

えろもあ創刊号には「えろもあ八ヶ条」なるものが掲載されています。

えろもあ八ヶ条

笑いのあるエロは長続きする。

ユーモアはエロティシズムにおける余裕である。

ユーモアのある暮らし、それがエロモアライフ。

「えろもあ」の実践は難かしい。させど理解は易し。全ては「えろもあ」の理解から始まる。

真剣であればある程(あるがゆえに)「えろもあ」は必要不可欠なものである。

「えろもあ」を大事にする人は、人生を大事にする人である。

ボク、ニヤニヤ、彼女、ニコニコ、何がそんなに嬉しいのか、「えろもあ」—子孫繁栄の為必要不可欠なモノなり。

「えろもあ」を信じなさい。エロとユーモアは、きっと彼女の好きなことだらけ。

「ユーモアはエロティシズムにおける余裕である」というのは、ちょっと人生の真実かなという感じがしました。

いずれにしても哲学的な要素の多いエロ本ですね(笑)

刺戟を求めるというよりも、まじめにエロと向き合いたい方にお勧め。

90年代沼田元気のファンキーな企画を楽しみたい人には絶対推賞のレア・アイテムです。

まとめ

ということで、以上、今回は、沼田元気さんのマニアックな企画本『えろもあ創刊号 大人の見る絵本』について、ご紹介しました。

ヌマ伯父さんの著作には惹かれるものが多くて、ついつい集めてしまうのですが、その中でも「えろもあシリーズ」は、かなりマニアックな匂いの強い企画だと思います。

アクの強さが、沼田元気という人の魅力でもあるわけですが。

いずれ、第2号・第3号も取り上げてみたいと思いますので、お楽しみに。

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バブル世代のビジネスマン。読書と音楽鑑賞が趣味のインドア派です。お酒が飲めないコーヒー党。洋服はアーペーセーとマーガレット・ハウエルを愛用しています。