シティ・ポップのブームが熱いですね。
今年は大瀧詠一さんの「A LONG VACATION」が発売40周年ということで、改めて、1980年代のポップスが再評価されているような気がします。
NHKの「The Covers 大滝詠一・松本隆ヒットソング特集」も良かったですね。
おかげで、今年の夏も、1980年代のシティ・ポップを聴きながら過ごしていますが、特に最近のお気に入りは、2008年の企画盤「FM STATION J-POP版 ソニーミュージック編」です。
熱い夏をクールに過ごしたい方には、お薦めのコンピなんですよ。
概要
「FM STATION J-POP版 ソニーミュージック編」は、2008年に発売されたコンピレーション・アルバムです。
キャッチコピーは「俺たちの青春の教科書—あの頃ラジオから流れてきたメロディを真空パック」。
1980年代当時を知っている方には説明不要なのですが、「FM STATION」というのは、1981年に創刊されたFM情報誌のことで、1998年の休刊まで、ダイヤモンド社から隔週刊で発行されていました。
内容としてはFM番組表をメインに、新譜案内やインタビューなどの音楽記事を掲載していて、特にアイドルを含むJ.POP情報に強いことが特徴。
当時の音楽ファンは、FMラジオから最新の音楽情報を入手することが多く、「FMレコパル」(小学館)や「FMファン」(共同通信社)、「週刊FM」(音楽之友社)など、FM情報誌が激しく競合する中、1980年代の若者は「FM STATION」に強く惹かれていました。
ちなみに、最強のライバルは小学館の「FMレコパル」でした。「めぞん一刻」のカセットレーベルが欲しくて、一時期はレコパル派になったことも、、、、「FM STATION」は、ちょっと大人の雰囲気がカッコよかったんですよね。
「FM STATION」最大のポイントは、毎号表紙を飾った鈴木英人さんのポップなイラストで、アメリカン・テイストの表紙は、そのまま1980年代に青春を過ごした人の共通体験となっているほどです。
ちなみに、鈴木英人さんのイラストの表紙は1988年まで続きました。英人さんのイラストのカセットレーベルもずいぶん愛用してました。
2008年、そんな「FM STATION」体験を持つ「FM STATION」世代に向けて、ひとつのコンピレーション・アルバムが発売されました。
それが「FMステーション」です。
このシリーズでは、洋楽を収録した「POPS編」、邦楽を収録した「J-POP編」、特にソニーのアーチストだけを収録した「J-POP編/ソニーミュージック編」、特にビクターのアーチストだけを収録した「J-POP編/ビクター編」が発売されていて、1980年代前後のヒット・ナンバーをたっぷりと聴くことができます。
中でもお気に入りは、「J-POP編/ソニーミュージック編」で、TULIPや佐野元春、渡辺美里、久保田利伸、大江千里など、いずれ劣らぬ1980年代の日本を席巻したアーチストの曲がたくさん。
選曲・監修は、現役FM番組ディレクターの高宮正史さん。
ただヒットした曲を集めるということではなくて、当時のFMラジオの空気感を味わうことができるように、マニアックな選曲もあったりするので、シティポップ・マニアの人たちも、ちょっと新鮮な気持ちで楽しむことができるのではないでしょうか。
収録曲
1. 魔法の黄色い靴 / チューリップ
1972年発表のチューリップのデビュー曲。
最初から70年代(しかも72年)なので、おや?と思いましたが、意外と全体の中で浮いていません。
全体に落ち着いたアルバムなので、むしろ、コンピ・アルバムとしては、なるほどの選曲なのかも?
「ふたりがつくった風景」(1982年)が入っていても、嬉しかったかな。
2. Sugartime / 佐野元春
元春先生は、あえての「SOMEDAY」ではなくて「Sugartime」。
うれしいです。
1982年、7枚目のシングルでした。
「アンジェリーナ」「ガラスのジェネレーション」じゃないところも好感が持てます。
3. マジカル・コネクション / ピチカート・ファイブ
1987年発売のデビューアルバム「couples」収録曲。
日本全体がバンドブームに向かう中で、ポップスを標榜して登場したピチカート・ファイブの、シティ・ポップを代表する名盤でした。
4. まゆみ / KAN
1993年発売、15枚目のシングル曲。
「あの曲」じゃなくて良かった!(笑)
このあたりの選曲に、こだわりを感じます。
令和になった現在聴いても、全然に古くない。
5. 10 years / 渡辺美里
1988年発売、「君の弱さ」と両A面でした。
渡辺美里のビッグヒットは、他にいくらでもありますが、あえての「10 years」だったと思います。
管理人KONTAは当時21歳の大学3年生、まさしく青春真っ只中。
今回の収録曲の中で、いちばんリアルに懐かしいかも。
6. Missing / 久保田利伸
1986年発売のファーストアルバム「SHAKE IT PARADISE」収録曲。
久保田も渋いところがきますね。
シングルじゃなくてアルバム収録曲、だけど名曲。
ワールドプロレスリングです(プロレスファンとしては、ちょっと切ない思い出だけど)。
テレビ朝日の「ギブUPまで待てない!! ワールドプロレスリング」のエンディング曲は、1987年の男闘呼組「Midnight Train」が最初。久保田利伸の「Missing」は2代目だった。
7. 日付変更線 / 南佳孝 duet with 大貫妙子
1978年に発売された南佳孝さん5枚目のシングル曲で、作詞は松任谷由実、大貫妙子とデュエットという豪華コラボの曲です。
最近のシティ・ポップ・ブームの中でも、安定して評価の高い曲です。
文句なしにカッコいい。
8. リトル・バロック / ハイ・ファイ・セット
1977年発表のアルバム「THE DIARY」収録曲。
9. 海辺の避暑地に / ハイ・ファイ・セット
同じく、1977年発表のアルバム「THE DIARY」収録曲。
ハイ・ファイ・セットだけ2曲収録されていますが、「リトル・バロック」と「海辺の避暑地に」が一体化していて、まるでメドレーのようになっています。
夏の終わりのしっとりとした感じがたっぷり。
10. マリエ / ブレッド&バター
1970年発表のセカンドシングル。
古い曲ですが、ここでは1980年にリメイクされたヴァージョンで収録されていて、全体の中でも、全然違和感がありません。
というか、「海辺の避暑地に」から「マリエ」へと続く流れが、すごく好きです。
ブレバタは、80年代のアレンジが秀逸なんですよね。
11. 夢の中で会えるでしょう / 高野寛
1994年に発売された11枚目のシングル。
「マリエ」から突然の高野寛ですが、坂本龍一プロデュースのこの曲は、しっとりとした流れをキープしてくれています。
12. Best of my Love / 杉真理
1992年発表の19枚目のシングル曲。
1980年代から名曲の多い杉真理さんですが、ここでは90年代のバラードを収録。
考えてみると、この頃には、あんまり杉真理さんを聴いていなかったような気がします(80年代のイメージが強すぎるのかも)。
13. 離れずに暖めて / SING LIKE TALKING
1993年発表の12枚目のシングル曲。
このあたり、90年代の曲が続いてきます。
管理人世代には、この辺りから「最近の曲」になってきます(笑)
14. 人魚 / NOKKO
1994年発表の5枚目のシングル曲。
レベッカではなくてNOKKOのソロが収録されています。
ソロになっても人気ありましたね。
フジテレビ系テレビドラマ「時をかける少女」主題歌。
ちなみに、このドラマの主演は内田有紀。妹役で安室奈美恵が出ていました。「ボクたちのドラマシリーズ」最後の作品。
15. 夢伝説 / スターダスト・レビュー
1984年発表の5枚目のシングル曲。
ここで突然の1980年代、突然のスタレビです。
80年代ファンとしては、ここで「ハッ」とするのではないでしょうか(笑)
カルピスのCMソングで人気が出ました。
「氷カルピスが、夏を催促しています~夏の氷カルピス」出演は、当時高校生の相原ユリアさんと白石なつみさんでした。
16. 野生の風 (Album Version) / 今井美樹
1987年発表のセカンドシングルですが、ここでは、セカンドアルバム「elfin」(1987年)ヴァージョンが収録されています。
筒美京平サウンド。
映画「漂流教室」の主題歌として使われました。
映画「漂流教室」は楳図かずおの漫画が原作。林泰文や浅野愛子らが出演していた。
17. dear (tokyo mix1994) / 大江千里
1990年発表のシングル曲ですが、ここでは1994年発売のベストアルバム「Sloppy Joe II」ヴァージョンで収録されています。
大江千里さんは80年代にブレイクしまくった人気アーチストですが、ここでも、あえての90年代ナンバー。
デビュー時のキャッチコピー「私の玉子様、スーパースターがコトン」は、後の直木賞作家・林真理子の作品(当時はコピーライターだった)。
18. dreamland / 大貫妙子
1991年発表のシングル曲。
バブル景気真っ只中、全日空(ANA’S EUROPE“飛遊人”)のイメージソングに起用されました。
19. ドルフィン・リング / 杏里
1993年発表の29枚目のシングル曲。
「気ままにREFLECTION」(1984年)以来、9年ぶりの大ヒットを記録しました(オリコン最高9位)。
感想・解説
全体を通しての感想としては、1980年代のヒットナンバーを集めたコンピレーション・アルバムということではなくて、昔のFMラジオの音楽番組って、こんな雰囲気だったんだろうなあという感じです。
音楽が好きな人に向けて発信された音楽番組を再現
一番新しいところでは、1994年の曲がいくつか入っているので、80年代というよりは、むしろ、1990年代前半の空気感と言ってもいいかもしれません。
最新の曲とかヒットナンバーを流している番組ではなくて、本当に音楽が好きな人に向けて発信している、誠実な音楽番組って、こんなラインナップだったのかもしれませんね。
時代にとらわれるばかりじゃなくて、TULIPの「魔法の黄色い靴」とか、ハイ・ファイ・セットの「海辺の避暑地に」とか、ブレバタの「マリエ」とか、きちんとした音楽を、しっかりと発信していくという姿勢に、非常に好感が持てました。
ヒット曲集めて一丁上がりという感じじゃないところが、すごくいいです。
これは、やっぱり、FMディレクターが作った企画盤ということなんでしょうね。
選曲と曲順に感じられるこだわり
ラジオディレクターということでは、選曲だけではなくて、曲順にもしっかりとしたこだわりが感じられます。
基本的には、1970年代から80年代への時代が流れていくのですが、曲と曲のつながりに違和感がないように、かなり計算されています。
「選曲も大事だけど曲の並べ方も同じように大事。そしてテンポ感…」「店テンポとかリズムとか、起承転結をしっかり出していけるかってことだと思うんです」「並べることによってしか出せない楽曲の新たな魅力っていうのを引き出せたらいいなと思っているんです」などと解説に書かれているところが、コンピレーション・アルバムの魅力ということなんでしょうね。
休日の午後に部屋でしっとりと聴きたい
一方で、「FM STATION」という企画タイトルとか、鈴木英人さんのCDジャケットのイラストを見て、1980年代J-POPのコンピだと考えたら、ちょっと期待外れになってしまう可能性があります。
この企画盤には、1970年代から1990年代にかけて、特にラジオシーンで人気のあった良質の音楽が収録されているので、あまり時代感覚に縛られることなく、FMラジオから流れてくる音楽を聴くように、リラックスしながら聴いた方が絶対に良いと思います。
収録曲は、イケイケのドライブソングというよりは、休日の午後に部屋でしっとりと聴きたいタイプの曲が揃っています。
真剣に聴き込むのもいいですが、僕の場合、ボリュームを絞り込んで、読書の時のBGMなんかとしてぼんやりと聴いたりすることが多いです。
ヒットチャートで話題になった曲ばかり集めたようなアルバムではないからこそ、何度も何度も繰り返し聴いても飽きないし、いっそ、聴けば聴くほどに愛着が生まれてくるような気がします。
「FM STATION」を通じた音楽との出会い
自分では主体的に聴くことの少なかった楽曲に触れることができるということも、ラジオの音楽番組の役割だったと思いますが、このコンピは、まさしく、そういう新しい音楽との出会いを後押ししてくれるアルバムだと思います。
僕自身あまり積極的に聴くことのなかった、90年代のJ-POPにも良い楽曲があるのだということを、このアルバムを聴きながら感じました。
ひとつひとつの楽曲を単体で聴くのではなく、「FM STATION」という媒体を通す形で聴くことによって、新しい価値観が付加されているのかもしれませんね。
まとめ
ということで、以上、今回はコンピレーション・アルバム「FM STATION J-POP版 ソニーミュージック編」について全力で語ってみました。
こういう企画盤は、すぐに市場からなくなってしまうので、本当に発売直後に買っておかないとダメですね。
14年前に、このCDを買った自分を褒めてやりたい気分です。