完結したはずなのに、いつの間にか復活していた漫画。
細野不二彦「ギャラリーフェイク」は、管理人にとって、まさしくそんな漫画のひとつです。
復活はうれしいけれど、好きだった漫画というのは、昔のエピソードほど、思い入れがあることも確か。
そこで、今回は、細野不二彦「ギャラリーフェイク」の名作エピソードをご紹介したいと思います。
ギャラリーフェイクについて
「ギャラリーフェイク」は、「ビッグコミックスピリッツ」に連載された、細野不二彦さんの漫画作品です。
連載開始は1992年で、2005年まで長期に渡る人気作品となりました(その後、2016年に復活しています)。
主人公は、元・腕利き学芸員で、現在はギャラリーのオーナー<藤田>。
藤田の経営する<ギャラリーフェイク>では、贋作や模造品を扱うという触れ込みがありますが、贋作の陰に隠れて訳アリの真作が紛れ込んでいるということも。
冷徹な悪徳画商として悪名高い藤田ですが、実は人間的で優しい一面もあり、今日もギャラリーフェイクには、様々な訳アリの顧客が足を運んでくるのです、、、
ギャラリーフェイクの魅力
「ギャラリーフェイク」は、取材に裏打ちされた高度な専門性が、その大きな魅力となっています。
主人公の藤田が、なにしろ、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館で<教授>の異名を取っていた優秀な学芸員という設定なので、藤田レベルのキャラクターを描くのは、かなり大変だったと思います。
とは言え、管理人としては、専門性の高い芸術的なエピソードよりも、市井の人たちの暮らしに題材を取った、ささやかな物語の方が好きです。
まあ、このあたり好き好きではありますが、一流の美術品からそこらのガラス工芸品まで、世の中の美しいモノすべてを対象にしているということが、「ギャラリーフェイク」という漫画の魅力なのかもしれませんね。
ギャラリーフェイク THE BEST
「ギャラリーフェイク」は長期連載作品なので、コミックスは全32巻(当初連載分)。
あまりにエピソードが多いのですが、作者自選による『ギャラリーフェイク THE BEST』は、まさしく究極のベスト版です。
これから「ギャラリーフェイク」を読みたいという方は、このベスト版から入るのがお勧め。
もっとも、この「ベスト版」には、管理人の好きなエピソードは、あまり収録されていません。
作者自選っていうのは、やっぱり、そういうものなんでしょうね。
ということで、この後は、管理人の好きなエピソードをご紹介していきたいと思います。
風鈴をしまう日(第27巻)
おそらく、「ギャラリーフェイク」の中で一番好きなエピソード。
藤田の住むボロアパートの隣の部屋には、若い男女が暮らしています。
この二人、夏が終わったというのに風鈴の鳴る部屋で、昼間からセックスなんかしていますが、女の子は、雑貨店への就職を決めて、ガラス工芸品の勉強にのめり込んでいきます。
一方の彼氏は、画家からミュージシャン、そして演劇へと、やりたいことが次々に変わっていき、相変わらずのプータロー暮らし。
口先だけで何も実行しようとはしない彼氏に、彼女の苛立ちは募るばかり。
やがて、二人の意識の違いに気が付いた女の子は、彼氏との別れを決意します。
この風鈴の音、、、最初のころはとても心地よかった、、、だから、夏がすぎてもずっと飾ってたんだ、、、。でも、そのうち、だんだんと、耳障りに聞こえてきた。風に吹かれて、、、風まかせ、、、キレイな音を鳴らすのは中身がカラッポだから、、、何も入っていない、、、だからなんでも入るような気がする、、、
風まかせでキレイな音を鳴らす風鈴は、もちろん、自分の彼氏のこと。
「なんでも入るような気がする」は、彼氏の将来性に対する、彼女の大きな期待だったんですね。
最後の場面で、藤田から借金を作った彼氏は、彼女に内緒で部屋を出ていきますが、そのとき、藤田に向かって「借金はいつか必ず返すからな!」をタンカを切るところが、すごく好きです。
「期待しないで待ってるぜ、風来坊!」という、藤田さんの台詞もカッコいい。
風鈴と風来坊を掛け合わせた、珠玉の青春エピソードです。
ぜひ、この話を中核にして映画化してほしいですね。
注文の多い家庭教師(第20巻)
藤田の大学時代の後輩・桂木由紀が登場。
かつて、藤田に憧れていたが結婚して子どもをつくり、現在はシングルマザーとして仕事や子育てに追われている。
藤田は、由紀に内緒で、由紀の長男の家庭教師となって、油絵を教えるようになる。
生活に疲れていた由紀を、側面からこっそりと支えようとする藤田流の愛情がニクい。
蛇口(第30巻)
明治40年創業の茨海小学校は、ドイツ人建築家による設計の歴史的建造物ですが、老朽化が著しく、市役所と銀行は、学校を解体して、市立美術館を建てる計画を考えています。
銀行から協力を依頼された藤田は、保存派の敵となって、美術品の鑑定作業を進めていきますが、、、
主流とか反主流とかではなく、自分の正しいと思った道を歩く。
それが、藤田玲司という美術商でした。
加州昭和村(第15巻)
時代の最先端を走るIT企業家が、ガラクタみたいな生活骨董を買い漁っているらしい—
藤田は、新谷満男の依頼を受けて、昭和時代のミシンを探しに出かけます。
新谷が考えていたもの、それは、カリフォルニア州に昭和30年代の日本の下町を再現するという、壮大な計画でした、、、
ハイテク社会への警鐘を鳴らした、ギャラリーフェイク版「ALWAYS 三丁目の夕日」です。
アスパラガスの皿(第18巻)
サラが通うスポーツジムの女性講師が自殺した。
近々結婚予定だった彼女が自殺するはずがないと、サラは主張。
事件を解決に導いたのは、彼女の好きだった「アスパラガスの皿」でした、、、
「ギャラリーフェイク」では珍しいミステリーものです。
欠けた柿右衛門(第28巻)
老人養護施設で働くエリカは、自分が担当する田上さんに怒られてばかり。
ある日、死期の迫った田上さんから、エリカは柿右衛門の修復を頼まれるが、藤田は修復費として30万円を要求。
激怒したエリカは、それでも30万円を支払って、柿右衛門を老人の元へと返したものの、、、
憎まれ役を演じながら、実は、常に弱者の見方であり続けた藤田の生き方が、よく理解できるエピソードだと思います。
停電来る!(第30巻)
大手量販家電店の新入社員・河内は、一期先輩の沙織に憧れて、仕事に頑張る毎日を過ごしていた。
一方、藤田は、旧知の骨董店の後始末を引き受けて、骨董市に店を開く。
ある日、憧れの沙織が、社内不倫していることを知った河内は、藤田の店で買ったばかりの骨董品を使って、沙織を励まそうとするが、、、
「ギャラリーフェイク」は、藤田が脇役を演じているものに、良い作品が多いような気がします。
もちろん、藤田とサラの二人のキャラクターが、しっかりと設定されているからこそのエピソード展開なのですが。
残暑絵金見舞(第25巻)
高知県赤岡町の絵金祭り。
追手から逃れてきた矢野は、故郷の街で元カノ・カヨと再会します。
昔の約束を果たすため、二人は一緒に絵金祭りを見学に出かけますが、、、
悲しくて切ない青春エピソード。
ドラマ化したら、きっとおもしろいと思います。
こうして見ると、「ギャラリーフェイク」には、映像化したらおもしろそうなエピソードがいっぱいですね。
美術界を舞台にした人間ドラマで、登場人物も若者からお年寄りまで実に多彩。
家族関係あり、恋愛関係あり、ビジネス関係ありで、エピソードを楽しみながら、美術の世界に詳しくなることもできちゃいます。
名画や博物館もいいけれど、庶民を描いた「ギャラリーフェイク」はおすすめですよ。
まとめ
ということで、以上、今回は、細野不二彦「ギャラリーフェイク」から、おすすめな珠玉の青春エピソードをご紹介しました。
いくつになっても、青春を描いた漫画好きは変わりません(笑)
美術と青春を描いた漫画としても「ギャラリーフェイク」はおすすめですよ。
(2022/06/28 09:37:47時点 Amazon調べ-詳細)