2009年、オシャレ雑誌『ブルータス』の表紙に、突然<ギャル>が登場しました。
ブルータス誌上で驚愕の「ガールズ・カルチャー特集」とは、一体何だったのか?
当時の雑誌を読みながら、ゼロ年代のギャル文化を振り返ってみたいと思います。
『ブルータス』はサブカルにも強かった
まず、『ブルータス』っていうのは、オシャレな都市生活者に向けて制作されている、オシャレなライフスタイル情報誌です。
発行は『アンアン』や『ポパイ』と同じマガジンハウスで、1980年代に創刊されました。
メインカルチャーのみならず、サブカルチャーにも積極的にウイングを広げ、幅広い教養を身に付けることができるというのが、『ブルータス』の強みだったような気がします。
時には、文字どおりの<永遠保存版>的な特集が組まれることもあり、「買っておかないと損をする」雑誌でもあります。
長い不景気の中の「がんばれ、ニッポン」的な雰囲気
そんなブルータスが、まさかの「ギャル特集」を組んだのは、2009年5月1号(No.661)のこと。
表紙には、かわいいギャルの写真とともに「ギャルが日本を救う!?」とあります。
当時、日本は、まだ長い不景気の中にあり、やたらに「がんばれ、ニッポン」的な雰囲気があったんですね。
ちなみに、関ジャニ∞のニッポン励ましソングの名曲『無責任ヒーロー』の発売は2008年。
バブル崩壊後に長く続いた不況のどん底が、まさに、この時期だったということができるのかもしれませんね。
ギャル文化が日本を救うのか?
それにしても、『ブルータス』は、なぜ<ギャル>にスポットを当てたのでしょうか。
特集ページの扉には、次のような文章があります。
きてれつなカッコをして、へんてこな言葉を使い、奇抜な振る舞いをするギャルたち。大人の常識は彼女たちに通用しません。というより、常識外れであるからギャルなのです。だからこそ、既存の価値観をひっくり返す新しいカルチャーを、次々に生み出すのです。そのパワーや新しい価値観こそが、先行き不透明なこの国を救うのかもしれません。大人たちは自身の価値観では理解できないがゆえに、ギャルたちの常識破りに眉をひそめがちですが、いつの時代も、革命は非常識から起こるものです。
いつまでも不況から抜け出せないニッポンの未来を、新しい価値観を持つギャルに委ねた。
現状打破を願う気持ちが、新たなカルチャーを生み出しているギャルの存在へと、目を向かせたのかもしれませんね。
まあ、例えてみれば、鎌倉時代の新興宗教みたいなものでしょうか(ちょっと違うか)。
ギャルの系譜と日本経済。
特集最初の記事は「ギャルの系譜と日本経済」。
1970年代後半の「竹の子族」から始まって、1980年代に入ると「サーファーギャル」が登場します。
1980年代後半、日本は<バブル景気>という空前の好景気を迎え、街には「キャンギャル」が溢れます。
「ジュリアナギャル」が話題となるのは、バブル崩壊前後の時期のこと。
1990年代後半からは「コギャル」が主役となり、1998年からは「ガングロギャル」が登場、さらには「ヤマンバギャル」へと発展していきます。
2004年に流行したのは、着ぐるみパジャマを着た「キグルミン」。
2006年からは「アゲ嬢」が、2007年からは「姫ロリギャル」も登場し、2009年、『ブルータス』のギャル特集へと繋がっていきます。
こういう年表って、楽しいですよね。
ギャルの経済効果
だけど、ギャルって本当に日本を救うだけの経済効果が期待できるんでしょうか。
『ブルータス』分析によると、<SHIBUYA 109>(マルキュー)は不況知らずで過去最高売り上げを記録中、<ユニクロ>もガールズコンセプトショップのオープンで、売上をさらに伸ばしているんだとか。
<パナソニック>は渋谷の女子高生のマストアイテム「ヘアアイロン」でヒットを飛ばし、<ABC MART>はギャルに大人気のムートンブーツが爆発的にヒット。
うどんチェーンの「はなまる」も、渋谷に出店してギャルの客を獲得したりと、ギャル層をターゲットにした商品が、市場を活性化させている様子が伺えます。
100億円ギャル 益若つばさ
雑誌『Popteen』の読モ(読者モデル)としてキャリアをスタートさせてから約6年。
今ではギャルのカリスマ的存在となって、彼女が生み出す経済効果は「100億円」と言われているんだそうです。
「益若つばさが着ればヒットする」(通称「つばさ売れ」)との風評から、多くのアパレルブランドがコラボレーションを持ちかけているんだとか。
弱冠23歳ながら、雑誌『メンズエッグ』で活躍中のモデル「梅しゃん」(植田直樹)の妻で1児の母親。
2013年、益若つばさは離婚を発表、植田直樹との結婚生活は破綻に。
アゲモで社長 桃華絵里
キラキラと輝く誌面が印象的な雑誌『小悪魔ageha』の専属モデル、通称「アゲモ」として人気の桃華絵里さん。
「ももえり」の愛称で知られる彼女は、2年前に<Moery>という会社を、地元・静岡に設立、現在は12人の従業員を抱える企業の社長でもあるんだそうです。
ももえりおすすめのファッションアイテムをセレクトして、ネットショップで販売中。
株式会社MOERYの代表取締役は、2018年5月に退任。現在は、株式会社mocoa’sの代表取締役会長。
読モのくせに 月本えり
雑誌『ViVi』のカリスマ読者モデル、月本えりさん。
海外でも著名な<A BATHING APE>プロデューサーのNIGOさんとのコラボは、彼女の情熱によって実現したんだそうです。
アイドルの下着などを露出させる手法で話題となった写真集『妄撮』は、男子中学生的妄想を具現化した企画ですが、そのときにプロデューサー業を務めたのが、読モの月本さんでした。
ポジエロ <Ravijour> 岩瀬由布子
ギャルの聖地<SHIBUYA 109>で人気のランジェリーブランド<Ravijour>のデザイナー、岩瀬由布子さん。
学生時代からマルキューに通い、カリスマショップ<EGOIST>の店員を務めた後に、デザイナーとして独立しました。
ポジエロ <マンイーター> 相坂真菜美
イベント<マンイーター>を取り仕切る相坂真菜美さん。
エグモ(雑誌『egg』の読者モデル)出身で、若い頃から音楽とお酒と男の子が大好きだったそうです。
東大ギャル 小橋りさ&木村美紀
ギャルだって東京大学へ進学できる!
小橋りささんは雑誌『JJ』の読者モデルのほか、フジテレビ『たけしのコマ大数学科』に出演中。
木村美紀さんも『たけしのコマ大数学科』の初代女子チームのひとり。
上戸彩のなりきり読モ
女優の上戸彩が、テイストの異なるギャル雑誌の読モを演じています。
採り上げられているギャル雑誌は『小悪魔ageha』『Popteen』『nuts』『KERA』の4誌。
ギャルといっても、いろいろな系統があったんですね。
デコデコ
日本が世界に誇るガールカルチャーが<デコ>と<盛り>。
誌面では、ジャパニーズ・ギャルズアートとして世界が注目するデコの第一人者、平岡さつきさんの作品が紹介されています。
<ガツデコネイル>と<ガツ盛りヘア>もあり。
ギャル聖地巡礼
お腹いっぱいになってしまうくらい、ギャル満載の『ブルータス』で、いちばん面白かったのが、この「ギャル聖地巡礼」です。
登場するのは、<臨港パーク>、<BRASSERIE JOJO>、<Hair make Cintia.>、<福岡市役所前>、<ファッションセンターしまむら1号店>、<La Pafait>の6か所。
新ギャルトライブ<しまらー>の発祥地、行ってみたいなあ。
ギャル的マインドの広告が今の気分です。
CMプランナーである、八幡貴美さんと鈴木くるみさんの対談。
2008年のリーマン・ショック以降、広告業界にもギャル的マインドが浸透してきたのだとか。
そういえば、西友の「KYでいこう!」なんかも、ギャル用語「KY」を上手にサンプリングしているキャッチフレーズでした。
ギャルのポジティブな感覚が、CMにも向いていたのかもしれませんね。
<サマンサタバサ>ガールズ店長、全員集合!
<サマンサタバサ>の社員1000人のうち、95%が女性で、平均年齢は23.5歳。
まさに、ギャル世代が、企業を支えていたんですね。
ギャルも農業 藤田志穂
ギャルの地位向上を図るべく<ギャル革命>を掲げているのが、藤田志穂さん。
自ら起業したギャル社長を辞任し、「ノギャル」のプロデュースを開始。
ギャルたちの稲作で収穫した米を<シブヤ米>として流通させるプランも発表しました。
まとめ
ということで、以上、今回は『ブルータス』のギャル特集をご紹介しました。
さすがの『ブルータス』、ガールズ・カルチャーの特集も半端ないですね。
読んでも読んでもギャルの話ばっかりで、正直、途中でお腹いっぱいになっちゃいましたが、ギャル文化を再評価するきっかけになったことは確か。
ひとつの時代の証言としても、貴重な特集だったと思います。