1980年代

大森一樹監督映画「風の歌を聴け」は村上春樹原作小説とはこんなに違う

村上春樹原作の映画『ドライブ・マイ・カー』、盛り上がっていますね。

そこで今回は、村上春樹原作映画ということで、デビュー作『風の歌を聴け』の映画版についてご紹介したいと思います。

賛否両論のある映画なので、ぜひ、映画を観る前に読んでみてくださいね。

小説『風の歌を聴け』について

『風の歌を聴け』は、村上春樹のデビュー作です。

1979年(昭和54年)4月発表の「第22回群像新人文学賞」を受賞した作品で、1979年(昭和54年)5月発売の『群像』6月号に掲載されて、作家・村上春樹がデビューしました。

当時、村上春樹は千駄ヶ谷のジャズ喫茶(ジャズバー)「ピーター・キャット」のマスターで、閉店後の深夜に少しずつ、この小説を執筆したそうです。

映画「風の歌を聴け」アートシアター 映画「風の歌を聴け」アートシアター

1970年代後半の神戸と思われる町が舞台で、<僕>と<鼠>という二人の20代の青年を主人公にした、ひと夏の青春物語。

<僕>は東京の大学生ですが、夏休みで帰郷しており、東京へ戻るまでの間、「ジェイズ・バー」という馴染みの店を中心に、退屈な夏を<鼠>と一緒に過ごします。

アメリカ文学の文体で書かれた作品は、当時としても斬新で「まるでライトビールのような小説」と若者たちに称賛される一方、伝統的な文壇からは「内容が薄っぺらい」と批判されました。

<僕>と<鼠>の物語は、その後『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』へと続き、「鼠三部作」と呼ばれることになります。

ちなみに、当時のチラシでは、こんなふうに紹介されています。

一昨年、第22回「群像」新人文学賞を受賞した作家・村上春樹のデビュー作を、『オレンジロード急行』『ヒポクラテスたち』の大森一樹監督が映画化したものである。

原作は—

21歳の大学生の「僕」が、生まれ育った海辺の小さな町に帰省しての「1970年8月8日に始まり、8月26日に終る」ささやかな話である。「僕」はなじみのバーにしょっちゅう出かけてビールを飲む。中国生まれのバーテン、親友「鼠」との交遊、左手の指が4本しかない女の子との小さなアバンチュール、それに「僕」がこれまでに寝た三人の女の子の淡い回想……。

青春の終る日が来るのを予感している一青年のひと夏の日日を、淡々と、乾いたユーモアに満ちた、アメリカ現代小説風の軽快な文体で描きながら、その底に流れるものは過ぎ行く時への哀切な思いであり、青春へのいとおしみが、新鮮な感性で捉えられている。1970年代初期に青春を過ごした世代の抒情的なメモワールといえよう。

単行本は、1979年(昭和54年)7月に講談社から、また文庫本は、1982年7月に講談社文庫から刊行されています。

created by Rinker
¥495
(2022/06/28 23:52:32時点 Amazon調べ-詳細)

映画版『風の歌を聴け』について

そんな村上春樹の人気小説を映画化した作品が、映画版『風の歌を聴け』です。

配給会社は、ATG(日本アート・シアター・ギルド)で、映画公開は1981年(昭和56nenn )12月でした。

映画「風の歌を聴け」主演は小林薫だった 映画「風の歌を聴け」主演は小林薫だった

以下、当時のチラシ引用の続きです。

村上春樹は兵庫県芦屋市出身の三十二歳、大森一樹も芦屋育ちの二十九歳で、二人は芦屋市立精道中学校の同窓生であり、「村上春樹氏の<小説『風の歌を聴け』>を読んだ時、大森一樹の<映画『風の歌を聴け』>ができると思った。神戸の映画が撮りたかった。神戸の風海からの風と山からの風とがぶつかり合い、瞬時、風が停滞する、その瞬間の映画だ」と、原作を基に自らシナリオとして再構築し直した大森監督は語る。

出演は、主人公の「僕」に舞台、映画、テレビと幅広く活躍する小林薫、「女」に化粧品のCMで一躍有名となった真行寺君枝、親友「鼠」にロックグループ≪ヒカシュー≫のリーダーで、ベースとボーカルを担当する巻上公一、バーテン「ジェイ」には日本を代表するジャズメンの一人・坂田明が扮する。

他に蕭淑美、室井滋、阿藤海、広瀬昌助、さらに大森監督の前作『ヒポポテクスたち』に出演した古尾谷雅人、西塚肇、狩場勉らも姿を見せ、芦屋、神戸でオールロケで撮影された。

監督の大森一樹については、村上春樹の初期のエッセイ集『村上朝日堂』の「大森一樹について」でも紹介されています。

大森一樹くんは兵庫県芦屋市立精道中学校の僕の三年後輩であり、僕が書いた「風の歌を聴け」をいう小説が映画化された際の監督でもある。この人は見かけは獣みたいだし、浮浪者のような酒の飲み方をするし、汚い格好をして、すぐ大声を出すけれど、なかなか良い人です。(村上春樹『村上朝日堂』)

芦屋と神戸で撮影されたということで、協力企業も書いておきたいと思います。

映画『風の歌を聴け』協力
VAN/銀座三愛/エスペランサ/ラジオ大阪/国鉄ハイウェイバス/阪急不動産/西宮球場/帝国不動産/白山殖産/HALF TIME/ヤマハ神戸店/六甲教会/キングスアーム/芦屋市民プール/芦屋国際ローンテニスクラブ/芦屋サニーヒル有宝不動産/三恵商事/トップフード/酒蔵たから/アートスペース/赤坂診療所/新丸菱海運/ドレッサージ編集室/月刊神戸っ子/プレイガイドジャーナル/ブギウギ・オフィス/ローズガーデン/東京ビデオセンター/ピーターキャット

最後の「ピーターキャット」は、村上春樹のジャズ喫茶ですね。

『風の歌を聴け』小説と映画との違い

さて、この映画版『風の歌を聴け』の評価は、残念ながら、あまり芳しいものはありませんでした。

特に、原作小説が好きで、この映画を観た人たちからは、かなり厳しい評価を得ることとなったようです。

映画「風の歌を聴け」では原作小説からの引用が登場している 映画「風の歌を聴け」では原作小説からの引用が登場している

指摘はいろいろとあるんですが、小説派からの不評を買った最大の要因は、原作小説の世界を可視化してしまったからだと、管理人は考えています。

『風の歌を聴け』は、アメリカ現代文学の翻訳小説のような文体で、とにかくカッコいい小説でした。

主人公の<僕>と<鼠>が<ジェイズ・バー>で飲んだくれる場面も、会ったばかりの女の子とセックスをする場面も、ラジオのディスク・ジョッキーがリクエストの葉書を読む場面も、全部が非日常的なくらいに都会的だったのです(そもそも、最初にこの小説を読んだとき、どこか外国の物語だと思った人もいたほど)。

ところが、これを映像化してしまうと、すべてがあまりに陳腐で、小市民的だっていうことが、白日の下にさらされてしまいました。

考えてみると、当たり前なんですが、田舎の港町がそんなにカッコいいはずもなく、どれだけビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」を流したところで、田舎が都会に変身するわけでもない。

むしろ、ビーチ・ボーイズのBGMには、夢と現実との乖離を大きくしてしまう効果があって、小説に比べると映画の世界はかなりみすぼらしいんですよね、はっきり言って。

ジェイズ・バーのジェイを演じる坂田明 ジェイズ・バーのジェイを演じる坂田明

もちろん、監督は、そういう部分をあえて意識して映像化していると思うんですが、原作者の村上春樹は、反対に、あえて意識して、そういう部分を小説化しなかったと言っています(なにしろ、リアリズムの文体で書いたものを書き直した)。

つまり、小説『風の歌を聴け』は、アメリカ文学の文体を使うことによって、日常を非日常的な世界へと変換しているから成功しているのに、映画『風の歌を聴け』は、その装飾を全部取っ払ってしまったということです。

ひとつのリアリズムの追求という意味では正攻法かもしれませんが、あえて『風の歌を聴け』をリアル化する意味があったのかというと、それはちょっと疑問だと思います。

そもそも、ビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」自体が、幻想の世界であって、非日常感を提供するための曲なんですよね。

小市民的なこの映画には、かぐや姫の「神田川」の方が似合っているような気がしました。

もうひとつ、気になったのは、学生運動の映像が繰り返し登場することです。

映画「風の歌を聴け」は全共闘世代に贈る鎮魂歌だったのか? 映画「風の歌を聴け」は全共闘世代に贈る鎮魂歌だったのか?

そう言えば、映画のチラシには1970年代初期に青春を過ごした世代の抒情的なメモワール」とありました。

小説では渇いた文体で描かれていた作品が、映画では全共闘世代の「あの頃が懐かしいよ」という思いがベタベタと、あたかも「『いちご白書』をもう一度」的に描かれています。

小説とは、大きく異なる世界観で描かれているので、これは、やっぱり、かなり賛否が分かれる作品でしょう。

もちろん、この映画が好きだという人も、たくさんいます。

原作小説を読んでいない方が、すっと映画の世界に入れるかもしれませんね。

映画「風の歌を聴け」キャスト 映画「風の歌を聴け」キャスト

まとめ

ということで、以上、今回は、映画版『風の歌を聴け』について、ご紹介しました。

いろいろ厳しい批評を書いていますが、小説とは別物と割り切って観ると、そんなに悪くないと思います。

いっそタイトルを変えた方が良かったのかもしれませんね、、、

created by Rinker
¥3,998
(2022/06/28 23:52:33時点 Amazon調べ-詳細)

ABOUT ME
kels
ちょっと懐かしい本や雑誌、CDの感想を書いています。好きな言葉は「広く浅く」。ブックオフが憩いの場所です。