切手ブームというのが、自分史上の中で2回あった。
最初の切手ブームは、小学生の頃だから、昭和40年代後半から50年代前半にかけてということになる。
その頃は、全国的に切手がブームの時代だった。
デパートの中に切手売り場があって、日本中の少年たちが切手蒐集に夢中になった。
ドラえもんに登場する<見返り美人>や<月と雁>
藤子不二雄の『ドラえもん』にも、切手ブームのエピソードがある。
お金持ちのスネ夫は、<見返り美人>や<月と雁>などといった高額なプレミア切手を、当然所有している。
一方で、庶民ののび太には高額なプレミア切手など買うことができないから、ドラえもんに泣きついて何とかしてもらう、というストーリーである。
僕は、この『ドラえもん』の話を読んで、<見返り美人>や<月と雁>といった高額なプレミア切手の存在を知った。
もちろん、のび太と同じで、そんな高額な切手を買うことなんてできなかったけれど。
切手シートの白い余白を好んだ祖母
身内では、僕の祖母が切手を集めていた。
記念切手が発売されるたびに、祖母は近所の小さな郵便局で、新しい切手を買い求めた。
あるいは、僕の切手蒐集は、大好きだった祖母の影響を受けたものかもしれない。
切手を買うとき、どうしてか祖母はシートの端の切手を好んだ。
シートで購入するのではない。
シートの端の白い余白(耳紙)の付いている部分を一枚か二枚で買うのである。
郵便局のスタッフを分かっているらしく、祖母が買うときには、シートの端の部分を白い余白が付いたままで渡してくれた。
白い余白がふたつ付いている角の部分が手に入ると、祖母は特に喜んだ。
白い余白の付いた切手を購入することで、シートで購入する気分を味わっていたのかもしれない。
小学館入門百科シリーズ16「切手入門」
さて、その頃、僕が切手蒐集の教科書としていた本が、小学館入門百科シリーズ16「切手入門」である。
昭和46年の初版だが、昭和55年に改訂版が発行された。
改訂版では「切手入門(収集と楽しみ方)」とタイトルが分かりやすくなっている。
読みやすくて実用的なのは改訂版の方だが、昭和55年に僕は中学生になっているから、実際にお世話になったのは、昭和46年版の方だったのだろう。
「君も切手博士になろう」というキャッチコピーが昭和っぽい。
昭和の時代、何かに詳しい人のことを「なんとか博士」と呼ぶ風習があった。
ちなみに、小学校の卒業文集に掲載されている僕のあだ名は「ドラえもん博士」である。
日本中にたくさんの博士少年がいた時代だった。
切手博士にはなれなかった少年時代
切手少年にとって、切手蒐集の楽しみのひとつが、必要な用具を揃えることだった。
ストック・ブックやピンセットを用意するだけで、もう立派な蒐集家になったような気がしたものだ。
初めて買ってもらったストック・ブックは、今も大切に保管している。
もっとも、僕は切手を集めるだけ集めたものの、本格的なアルバムを作るまでには至らなかった。
蒐集した切手を美しく整理することよりも、切手そのものを集めるだけで満足していたのかもしれない。
僕の祖母も、切手アルバムを作っていたという話は覚えていないから、きっと、祖母も切手を集めることに喜びを見出していたのだろう。
僕も祖母も、切手博士にはなれなかったわけである。
プレミア切手ではないけれど、大切な思い出の切手ばかりだ
そんなふうに熱中した切手集めも、中学校に入った後は、なんとなく止めてしまった。
他にも夢中になることができたからかもしれないし、全国的な切手ブームの盛り上がりが、少しずつ冷めていったせいかもしれない。
ただ、あの頃に集めた切手は、今も僕のストック・ブックの中にある。
昭和40年代後半から50年代前半にかけて発売された記念切手たち。
高額なプレミア切手ではないけれど、どれも僕にとって大切な思い出の切手ばかりだ。