本・雑誌

『海月書林の古本案内』雑貨のように古本を楽しむ

本を買う、といったら、普通は大きな新刊書店を思い浮かべますよね。

だけど、たまに古本屋さんへ行くと、マニアックで個性的な本との出会いがあって、新刊書店では体験することのできない感動を味わうことがあります。

そんな古本との感動体験を書籍として再現したのが、市川慎子さんの『海月書林の古本案内』です。

ちょっと懐かしいけれど、決して忘れてしまいたくはない、そんな名著を紹介する「読書クラブ」、今回は、市川慎子さんの『海月書林の古本案内』をご紹介しましょう。

著者・市川慎子さんのプロフィール

はじめに、著者の市川慎子さんについて。

『海月書林の古本案内』の巻末に著者プロフィールがあるので、そのまま引用しますね。

市川慎子(いちかわ のりこ)
1978年生まれ。インターネット古書店「海月書林」の店主。独特なセレクトによって新しい古本の楽しみ方&オンナコドモの古本を提案し、多くの若い古本読者を開拓している。又、古本と雑貨と旅をテーマにした小冊子『いろは』を2003年に創刊し、現在3号まで刊行中。「モダン古書案内」(マーブルブックス 2003)に寄稿。

ということで、著者の市川慎子さんは、インターネットで古書店を経営している、つまり古本屋さんなんですね。

ゼロ年代の頃、骨董屋さんや古本屋さんの世界で、若い女性店主が新たな提案を次々と送り出して、業界のみならず、一般社会からの注目を集めたことがありました。

市川さんも、そんな女性古書店主の一人だったということでしょうか。

気になるのは、インターネット古書店「海月書林」が、2022年の現在もまだあるのかということ。

なにしろ、『海月書林の古本案内』の刊行は2004年なので、もう20年近い月日が経っていますから。

ということで、早速ググってみると、出てきました「海月書林」。

公式サイトもまだある!と思ったら、どうやら更新はされていない様子、、、

不安に思いながら「海月書林について」というページへ飛ぶと、次のような記載がありました。

海月書林は「くらげしょりん」と読みます。
ネットの古本屋として2000年9月にオープンしました。
※ 「海月書林」は2016年~名前を変え、サイト「ひるのつき」に引っ越しました。当サイトの書誌情報等は残しておきますが、ご注文はできません。たいへん申し訳ありませんが、ご了承くださいませ。

なるほど、「海月書林」は2016年に「ひるのつき」という店名に変わって、サイトも新しくなっていたのですね。

新しい「ひるのつき」では、古本だけではなく、雑貨や編み物など、幅広いアイテムを取り扱っているようですので、こちらも、ぜひ、ご覧ください。

新しい価値観による古本の紹介

さて、そんなインターネット古書店「海月書林」の女性店主・市川慎子さんが、2004年に刊行した書籍が、今回ご紹介する『海月書林の古本案内』です。

どんな本かということを一言で言えば、古本を紹介している本です。

ただし、ここで紹介されている古本は、すべて市川さんの感性によってセレクトされた、個性的で楽しいものばかり。

初版本とか署名本のように文芸的に価値があるものとか、発行部数が少ない稀少本とか、これまでの古本業界の価値観にとらわれない、新しい価値観による古本の紹介。

本書では、市川さんのセレクトした楽しい古本が、なんとオールカラーで紹介されているのです。

市川慎子『海月書林の古本案内』ピエ・ブックス、2004年市川慎子『海月書林の古本案内』ピエ・ブックス、2004年

これはもう、古本の写真集といっていいもので、読んでいるうちに紹介されている古本がどんどん欲しくなってしまうという、悪魔の誘いのような本でもあります。

目次を読むだけで、市川さんのセレクトの傾向が分かるのではないでしょうか。

『海月書林の古本案内』目次
本を解剖しましょう
オンナコドモ
鈴木悦郎さんインタヴュー
『暮しの手帖』
花森安治の装釘本
生活の絵本
手芸本
フォア・レディース
主婦之友花嫁講座
文学・随筆
カラーブックス
デザイン
あまカラ
明治屋のPR誌『嗜好』
カフェ&ギャラリー ひなぎく

この後は、実際にページを開きながら、本書の魅力を伝えていきたいと思います。

どのページもおもしろいので、ページをセレクトするのが、これまた大変なんですけどね(笑)

『海月書林の古本案内』『海月書林の古本案内』

「文芸日記」を解剖しましょう

『海月書林の古本案内』は「『文芸日記』を解剖しましょう」というコーナーから始まります。

これは、昭和30年に博文館新社から刊行された『文芸日記』を素材として、本の構造を解説しているというもの。

『文芸日記』を解剖しながら本の構造を解説している『文芸日記』を解剖しながら本の構造を解説している

表紙、背表紙、箱、しおり、見返し、扉、小口、中面、奥付と、ちょっと専門的な言葉も登場。

この『文芸日記』は、グラフィック・デザイナーの亀倉雄策が担当した本ですが、市川さんの古本蒐集にとって、内容と同じくらいデザインも重要な要素を占めているので、最初に、こんなコーナーを設けているんですね。

「遊び心のある見返し」とか「物語の入口 扉」とか「読みやすく美しい目次」とか「最後のお楽しみ 奥付と検印紙」とか、ビジュアルから見た古本の保沁み方が紹介されています。

本をパーツで楽しむという新しい世界本をパーツで楽しむという新しい世界

オンナコドモ

文豪の初版本や、立派な全集もいいけれど、オンナコドモ向けの本にも、すてきなものがたくさん。

そんな思いを込めて作った海月書林の「オンナコドモ」の棚には、夢を見させてくれる本ばかり揃っています。

海月書林でも充実している「オンナコドモ」の棚海月書林でも充実している「オンナコドモ」の棚

まず登場するのが、薔薇十字社の『マドゥモァゼル・ルウルウ』(昭和48年)。

ジィップの作品を森鴎外の娘・森茉莉が翻訳したもので、装幀を手がけているのは、雑誌『アンアン』のアートディレクターや、『くろうまブランキー』(福音館書店、昭和33年)などの絵本作家としても知られる堀内誠一でした。

薔薇十字社の『マドゥモァゼル・ルウルウ』(昭和48年)薔薇十字社の『マドゥモァゼル・ルウルウ』(昭和48年)

次に出てくるのが、山梨シルクセンター。

山梨シルクセンターと言っても「?」な人が多いと思いますが、実はこれ、サンリオになる前の社名だったんです。

サトウハチローの『愛を唄う』は、山梨シルクセンター発行の一冊で、おしゃれな装幀・装画を松本(山口)はるみが担当しています。

現在のサンリオは「山梨シルクセンター」という社名だった現在のサンリオは「山梨シルクセンター」という社名だった

エルムという出版社の「メルヘンの国シリーズ」も、おすすめ女子本です。

詩人とイラストレーター、写真家のコレボレーションから誕生したシリーズで、白石かずこ(詩人)と宇野亜喜良(絵)の『きまぐれ魔女の物語』(昭和51年)や、中江俊夫(文)と黒田康夫(写真)の『しいの木とよう子』(昭和51年)などが紹介されています。

キュートでおしゃれな内藤ルネは、『ひまわり』『それいゆ』『ジュニアそれいゆ』の表紙やカット、『服装』『私の部屋』の手芸・インテリアページでもおなじみのイラストレーター。

内藤ルネの本にも魅力的なものがたくさんあった内藤ルネの本にも魅力的なものがたくさんあった

『幻想館の恋人たち・内藤ルネ短篇集』(山梨シルクセンター出版部、昭和43年)や『幻想西洋人形館』(サンリオ出版、昭和49年)、『ローズマリーの人形』(サンリオ出版、昭和51年)など、すぐに探して買いたくなってしまう本がいっぱいです。

このほか、絵本の「こどもともシリーズ」や「大人もほしい児童書」なども紹介されています。

鈴木悦郎さんインタビュー

鈴木悦郎さんは、中原淳一さんが創刊した雑誌『それいゆ』に作品を提供していたイラストレーターです。

『ひまわり』や『それいゆ』もほか、『家庭画報』『主婦と生活』『りぼん』『女性自身』『週刊女性』『明星』『平凡』など数多くの雑誌でイラストを描いているので、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

イラストレーター・鈴木悦郎のインタビューイラストレーター・鈴木悦郎のインタビュー

絵本の仕事も多くて、版を重ねた人気作品『クリスマスの本』(女子パウロ会、昭和46年)のほか、毎月一冊ずつ発行されていた「ぎんのすず」のイラストも、悦郎さんが担当していました。

そんな鈴木悦郎さんが年に二回、個展を開催しているのが、さいたま市にあるアルピーノ。

アルピーノの「お菓子屋さん」の包装紙やお菓子を入れる箱には、悦郎さんのデザインが使われているんですよ。

アルピーノの包装紙も鈴木悦郎さんのデザインアルピーノの包装紙も鈴木悦郎さんのデザイン

ちなみに、悦郎さんのデザインが使われている陶器もあったそうです。

みわ工房のあと、エンゼル陶器からも出ていたようなので、エンゼル・マークの裏印を見つけたら、要チェックですよ。

鈴木悦郎デザインの食器は昭和レトロのファンにもおすすめ鈴木悦郎デザインの食器は昭和レトロのファンにもおすすめ

『暮しの手帖』一世紀から二世紀まで

『暮しの手帖』の表紙デザインを手がけていたのは、編集長であり、アートディレクターでもあった花森安治さん。

雑誌『暮しの手帖』は、創刊から100号までを一世紀、101号から200号までを二世紀という区切り方をしていますが、花森編集長が亡くなる直前まで手掛けていたのは、二世紀の53号。

だから、海月書林で扱っている『暮しの手帖』も、この号までとなっています。

花森安治がデザインを手がけた『暮しの手帖』花森安治がデザインを手がけた『暮しの手帖』

ちなみに、創刊から21号までは『美しい暮しの手帖』という誌名でした。

本書では、当時の付録としてつけられたらしい手帖カバアも紹介されています(これも欲しくなってしまうマニアックなアイテムですね)。

『暮しの手帖』以外にも、花森安治が装幀を担当した本として、『服飾の読本』(暮しの手帖社、昭和25年)や瀧澤敬一『ベッドでのむ牛乳入り珈琲』(暮しの手帖社、昭和27年)なども名著も登場。

『生活の絵本』ニューファミリーの暮らしを支えて

『生活の絵本』は、インテリア誌『私の部屋』の姉妹誌として、1974年に創刊された雑誌です。

「大人のための生活の絵本」というコンセプトのもと、中原淳一や熊井明子、本間真左夫、水野正夫、東君平の豪華メンバーが連載を持っていました。

ニューファミリー層に向けた「生活の絵本」ニューファミリー層に向けた「生活の絵本」

雑誌が発行された1970年代は、友だちのような夫婦と子どもが作る新しい家族・ニューファミリーが登場してきた時代。

『生活の絵本』は、そんなニューファミリーに向けた、新しくてオシャレな暮らしを提案する雑誌だったんですね。

レトロでモダンな手芸本の時代

『新しいレース編集』(サライア手芸研究会)、『楽しい手芸』(雄鶏社、昭和42年)、『クッション』(婦人画報社、昭和35年)、『流行のレース編』(婦人画報社、昭和40年)、『イニシャルと紋章』(婦人画報社、昭和36年)、、、

レトロでモダンな1960~1970年代の手芸本には、夢を後押ししてくれる、昭和の小物やインテリアがたくさん登場しています。

昭和レトロな手芸本昭和レトロな手芸本

手芸には興味がなくても、昭和レトロな雑貨には興味があるという方にもおすすめ。

レディーのための『フォア・レディース』シリーズ

本が好きで、可愛いものが大好きな女の子が胸をときめかせて集めたシリーズがありました。

それが、新書館「フォア・レディース」シリーズ。

オシャレな女子に大人気だった、新書館「フォア・レディース」シリーズオシャレな女子に大人気だった、新書館「フォア・レディース」シリーズ

「レディーのための」という名のとおり、知的でおしゃれな女の子の本棚にふさわしいシリーズだったんですよ。

創刊は1965年で、寺山修司と宇野亜喜良のイラストで華麗に登場した「フォア・レディース」シリーズは、凝りに凝った装幀で一躍大人気となり、当時の女子の間では「待ち合わせ場所は、新宿紀伊国屋の『For Ladies』の前で」というフレーズが流行したほど。

『フランスの女流作家たち』(松尾邦之助、昭和40年)や『かわいい魔女』(新川和江・筒井康隆・白石和子・佐野洋・立原えりか、昭和41年)など、気になる本がたくさんです。

「待ち合わせ場所は、新宿紀伊国屋の『For Ladies』の前で」「待ち合わせ場所は、新宿紀伊国屋の『For Ladies』の前で」

主婦之友 花嫁講座

手紙の書き方、お作法と美容、お花とお茶、、、

かあいらしくって、おもしろくって、ちょっぴりためになる『主婦の友花嫁講座』シリーズは、正統全二十巻もある、新米奥さまに向けた実用シリーズです。

『主婦の友花嫁講座』シリーズ新米奥さま向け『主婦の友花嫁講座』シリーズ

第一巻『お惣菜料理』が発行されたのは、太平洋戦争に突入する二年前の1939年。

編集は、後に文化出版局発行の『荘苑』『銀花』『ミセス』で編集長として腕を振るうことになる今井田勲でした。

文学・随筆

市川さんの海月書林では、文芸書さえもデザインで楽しみます。

文芸書もデザインで楽しむ文芸書もデザインで楽しむ

森田たま『もめん随筆』(中央公論社、昭和11年)、戸塚文子『サラリー・ガール』(要書房、昭和28年)、室生犀星『密のあはれ』(講談社ミリオン・ブックス、昭和36年)など、隠れた名作に出会えるかもしれませんね。

カラーブックス

小さな文庫本サイズにたっぷり入ったカラー写真がうれしい保育社のカラーブックス。

シリーズが始まったのは、1962年発行の『ヒマラヤ』(川喜田二郎他)からでした。

1960年代~1970年代のカラーブックスがおすすめ1960年代~1970年代のカラーブックスがおすすめ

カラーブックスは、現在まで続く人気シリーズですが、海月書林では、1960~1970年代のものを取り扱っています。

この時代のものは、現在のつるんとした紙カバーとは違って、透明ビニールのぎざぎざカバーが特徴でした。

デザイン本の楽しみ方

海月書林は、とことんデザインにこだわった選書が特徴の古本屋さんです。

当時の一流デザイナーが監修したデザイン全集や図案文字集など、正統派のデザイン本は、資料としての価値もばっちり。

著名なデザイナーが装幀を手がけた本も、重要なデザイン本ですね。

デザイナー・由良玲吉による装幀の『世界の切手』シリーズデザイナー・由良玲吉による装幀の『世界の切手』シリーズ

デザイナー・由良玲吉による装幀の『世界の切手』シリーズは、きっと欲しくなるアートなデザイン。

管理人は、本書で紹介されているのを知って、がんばって全巻集めました(笑)

あまカラ

切り紙や布がモチーフに使われた愛らしい表紙の小冊子『あまカラ』。

すばらしい執筆陣が綴る美味しい食べもの随筆が掲載されている『あまカラ』が創刊されたのは、1951年のことです。

大阪にある老舗のお菓子屋さん「鶴屋八幡」が、当時まだ二十一・二才だった編集人、水野多津子の熱意にほだされて、資金を出したのが始まりでした。

全200冊まで続いた随筆小冊子「あまカラ」全200冊まで続いた随筆小冊子「あまカラ」

吉田健一、森田たま、幸田文、木村荘八、谷内六郎、小島政二郎など、一流の作家陣がすごいですね。

ちなみに、『あまカラ』の誌名は、「ダイメイハ アマカラ トナサイ」という小島政二郎の電報によって命名されたそうです。

この小冊子は、1968年の続100号まで続きました。

全巻揃えてみたいですね!

洋酒天国シリーズ

寿屋(現在のサントリー)発行のPR誌『洋酒天国』は、記念すべき創刊第一号の発行は、1956年4月で、1964年2月発行の61号まで続きました。

開高健や柳原良平、山口瞳などの作家陣が、制作に携わっていて、古本業界では今も人気の商品となっています。

全部揃えたくなる『洋酒天国』シリーズ全部揃えたくなる『洋酒天国』シリーズ

1963年に創刊された『ビール天国』や、1964年に創刊された『サントリー天国』なんていうシリーズもありました。

全36巻の豆本全集『洋酒マメ天国』(略して『マメ天』)は、コレクター心をくすぐるアイテムです。

魅力的な本をいろいろと発見できて楽しいけれど、どれもこれも欲しくなってしまいそうで危険な感じ。

それが、この『海月書林の古本案内』という本の魅力なのかもしれませんね。

まとめ

ということで、以上、今回は、女性古本店主・市川慎子さんの『海月書林の古本案内』をご紹介しました。

音楽の世界では、歌手だけではなくて、作詞家や作曲家、プロデューサー、ミュージシャンなどの糸をたどって、新しい音楽を発見するという楽しみ方がありますが、それは、古本の世界でも同じなのかもしれません。

装幀を担当している人から本の世界をたどる、イラストを担当している人から本の世界をたどる。

そんな楽しみ方を覚えると、古本の世界が、どんどん広がっていくのではないでしょうか。

いやあ、夢は広がるなあ(笑)

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kels
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