音楽

エコーズ「WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB」”ぼっち”が主人公になったとき

1980年代の日本のロックシーンを語る上で、決して忘れてはいけないバンド。

それが「ECHOES(エコーズ)」だと、僕は思っている。

今では忘れてしまった人も多いかもしれないけれど、エコーズは芥川賞作家・辻仁成が在籍していたロックバンドだ。

1985年にアルバム『WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB』でデビューした彼らは、「LOST CHILD」、つまり「忘れられた子どもたち」をテーマにしたメッセージソングを次々と発表した。

ECHOESノデビューアルバム「WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB」ECHOESのデビューアルバム「WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB」

「忘れられた子どもたち」というのは、優等生でも不良でもなく、クラスの中でも目立たなくて、いるのかいないのか分からない、そんな少年や少女たちのことだ。

映画の登場人物で言えば「モブキャラ」のような子どもたちを、エコーズは主人公に仕立て上げた。

例えば、弱虫の少年を歌った「訪問者(ヴィジター)」。

いじめられるのが嫌で 鍵かけて いち抜けた
そろそろ誰か心配して あやまりに来る
Oh Visitor

仲間はずれの弱虫 子供部屋にたてこもり
ドアにぶらさがり のぞきこんで 出るに出られない
Oh Visitor

給食のパンを届けに来る
君だけがたより お願いだから
どんなに離れていても 必ず遊びに来てね
どんなに忙しくても Don’t say good-bye

作品名の「訪問者」は、つまり少年の部屋を訪ねてきてくれるクラスメートのことだが、少年は「自分の存在を忘れないで!」と必死に叫んでいるかのようだ。

初めてこの曲を聴いたとき、僕はものすごい違和感を覚えた。

「給食のパンを届けに来る」とか、そんなことが、ロックミュージックの歌詞になるとは考えられなかったからだ。

まして「仲間外れの弱虫」を主人公にしたロックなんて、誰が想像しただろうか。

尾崎豊やザ・ブルーハーツと違って、エコーズは、そんな一人ぼっちの少年たちを主人公に選んだ。

エコーズのキャッチコピーは「俺たちと組まないか」だったエコーズのキャッチコピーは「俺たちと組まないか」だった

当時、彼らが発したキャッチコピーが「俺たちと組まないか」だった。

いるのかいないのか分からない、一人ぼっちの少年や少女たちに、エコーズは「俺たちと組まないか?」と呼びかけ、彼らを主人公に見立てたメッセージソングを、次から次へと送り届けた。

尾崎豊の熱烈なファンだった僕は、あっという間にエコーズの支持者となった。

当時、僕は高校3年生で、受験勉強のために自宅と学校を行ったり来たりするだけの僕自身こそが、まさしく「忘れられた子どもたち」だったのかもしれない。

もちろん、エコーズが提唱した「忘れられた子どもたち」は、彼らがプロデビューするにあたって綿密に用意された戦略的なコンセプトである。

なにしろプロデューサーは、1983年に発表された尾崎豊のデビューアルバム『十七歳の地図』をプロデュースした、あの須藤晃だった。

楽曲制作のプロフェッショナルたちは、社会の上澄みみたいなところでフワフワと漂っている少年少女を、極めて上手にすくい上げて一枚のレコードの中にまとめた。

それが『WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB』というアルバムだったのである。

完成度の低いところが、いかにもエコーズらしかった完成度の低いところが、いかにもエコーズらしかった

音楽的にはっきり言って、このアルバムはかなり素人くさい作品である。

スタジオミュージシャンの起用が取り沙汰されるほど、演奏技術の面においても難は多い。

だけど、「忘れられた子どもたち」というコンセプトを立てた時点で、このアルバムは一定程度成功していたのだろうと、僕は思う。

「忘れられた子どもたち」は間違いなく、当時の日本全国の教室の片隅で、息を殺しながら必死で生き続けていたからだ。

決して主人公になることのなかった彼らに光を当てたとき、日本にまた新しい音楽が生まれたのだ。

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kels
バブル世代のビジネスマン。読書と音楽鑑賞が趣味のインドア派です。お酒が飲めないコーヒー党。洋服はアーペーセーとマーガレット・ハウエルを愛用しています。