昭和時代のお土産のようなものばかり集めていたことがある。
あれは、今から10年以上も昔のことだったかもしれない。
週末ごとに、フリーマーケットやリサイクルショップに顔を出しては、昭和の土産物はないかと探して歩いた。
最もたくさん手に入ったのは、昭和中期、各地の土産物屋で売られていた、小さなこけしだ(土産こけし)。
場所も取らないし、値段も安いので、相当の数の土産こけしを買ったような気がする。
どこの店にも小さなこけしの一つや二つはあったし、古い土産こけしを買おうなんていう物好きな人間も、他にはいなかったらしい。
土産こけしに交じるようにして、時々おかしなものを買った。
昭和レトロな少女漫画のような女の子のイラストが描かれたミニチュアの湯飲みも、その当時に入手したものだ。
その頃は、青空フリーマーケットを少し探せば、この手のチープな昭和雑貨が、まだいくらでも見つかったものだ。
できれば、年配の主婦の方が、家庭用の食器なんかを出品しているようなところがいい。
ゴチャゴチャとした段ボール箱の底まで漁ると、いかにもガラクタ然とした昭和雑貨が現れてくる。
値段を聞けば、50円とか100円とかいった相場がほとんどで、せいぜいが300円という代物だった。
初めにこの小さな箱を見つけたとき(それは名刺よりも小さなサイズだった)、僕はいつものおみやげこけしを見つけたのかと思った。
次に「優雅な趣味のやきもの」と書いてあるのを見て、これはこけしではないと思った。
箱を開けると、箱よりもさらに小さな湯飲みが二つ、並んで入っていた。
未使用の状態のままだったらしい。
こんな小さな湯飲み茶わんを実際に使おうと考える人なんていないからだ。
湯飲みには、プラスチックの蓋がついている。
それぞれの側面には、まるで1970年代の少女漫画に出てくるような女の子のイラストが描かれていた。
これを「優雅な趣味のやきもの」と言うのかどうか、僕には分からない。
優雅と言うよりも脱力感を生み出すように、ほのぼのとしている。
時代はおそらく昭和40年代。
あるいは、昭和50年代に入っていたかもしれない。
ほぼ1970年代のものだろう。
その頃、この湯飲み茶わんは、どんなお店に並んでいたものだろうか。
食器を扱うお店の片隅にあったのか?
およそ実用には適さないミニチュアのお店が、食器のお店にあったって仕方がない。
これは、やはり、観光地で土産物なんかを扱うお店の棚に並んでいたものだろう。
もしかすると、陶器を名産としているような小さな町の土産物屋で、こんなミニチュアの食器が売られていたのかもしれない。
そして、夢見がちな旅好きの少女が、こんなイラストに惹かれて買っていくのだ。
ある場合は自分へのお土産として、ある場合は家族へのお土産として、また、ある場合は恋人へのお土産として。
意外と、宇山あゆみの著作を丹念に探せば、こんなミニチュア食器も紹介されているかもしれない。
昭和メルヘンの世界を追求している宇山さんは、僕(ブログの管理人)とほぼ同世代である。
我が家の本棚には、そんな宇山さんの著作も、しっかりと並んでいるのだ。
久しぶりに取り出してみた、このミニチュア食器を、僕はどうしようという気もない。
ほのぼのとしたハートウォーミングなイラストに癒されて満足し、昭和レトロな雑貨を買い集めていた日々を思い出して、再び満足する。
たったそれだけのことでも、中年男性の休日というのは、案外充実したものとなるものである。
日常があまりに殺伐としすぎているんだよね。