いよいよ芸術の秋がやってくる。
酒コミックでもあり俳句コミックでもある「酒のほそ道」(ラズウェル細木)でも読みながら、俳句の勉強なんていかがだろうか。
「週刊漫画ゴラク」で連載中
なすび採る鋏しずかに里の秋
秋風や串持つ指の白き哉
秋刀魚喰ひてときどき苦き口のはし
新蕎麦をたそがれに喰ふ酒の客
ぼちぼちと秋刀魚恋しき泰(タイ)の夜
つぼ焼きの煙あぶなき磯の秋
湯けむりや檜皮(ひわだ)の屋根に熟し柿
花すすき芋たく湯気のむこう岸
行く秋や焼味噌こがす囲炉裏端
影をだにまた返したき残暑哉
「酒のほそ道」は日本文芸社の「週刊漫画ゴラク」で連載されているグルメ漫画である。
作者は山形県米沢市出身の漫画家ラズウェル細木。
連載開始は1994年で、今年2019年で連載開始から25周年を迎えるという、地味に長寿漫画でもある。
酒と肴の歳時記
はしごして冬まで咲けやさるすべり
松茸のかをり振りまく七部袖
腹八分まぶたに残る牡蠣の白
秋の夜や未だ夢見るきりぎりす
秋空やゆふべ喰らいしいわし雲
晩酌やとなりの菊のはな盛り
栓ぬきの音も乾いて秋の暮
とび込みの客すずなりに月見哉
秋の日や杉玉転がす鯖の街道(みち)
名月を飲みつくしてや芋の鉢
サブタイトルに「酒と肴の歳時記」とあるように、この漫画はお酒と酒の肴を主なテーマにしている。
また、主人公の岩間宗達は俳句を趣味としており、各ストーリーの最後のコマで必ず宗達作の俳句が示されている。
岩間宗達は30代の営業マン
忙しや人無き駅のくつわむし
肌寒し柿の葉残る酒屋道
先附のかわりに置かむ菊の枝
七輪や諸に目に入る秋の煙(けぶ)
徳利の疵に気のつく月見哉
火の消えてやっと出てくる竈馬(かまどうま)
つくづくと尻見る秋の夜長かな
松茸や茶店に続くけもの道
行く秋や待つ間淋しき酒の燗
肌寒し薪割る里の薄紅葉
主人公である岩間宗達は30代の営業マン。
「風流人」を自称するが、その見識や経験は未だ中途半端である。
もっとも、そのことが岩間宗達の愛すべきキャラクターとなっていることは間違いない。
岩間宗達の素人俳句
菊花に迷ひ箸する秋の膳
ポケットに団栗ふたつ秋の暮
淋しさは店の仕舞いと秋の風
盛塩や主(あるじ)手折りし花すすき
目の下に汽車の煙や茸狩り
粒ごとに笑顔映して腹子飯
いわし雲ワインで染めしクロスかな
菊の露落ちゆく先の欠け茶碗
つくづくと肉の色見る秋の暮
行く秋やとろりと熱き蕎麦湯かな
風流人として中途半端であるのと同様に、彼の俳句はあくまでも素人の域を出ない作品がほとんどである。
連載開始から25周年を迎える中、俳句のクオリティにほとんど変化は見られないというところに、岩間宗達のブレないこだわりが感じられる。
意地汚い飲兵衛
切子持つ窓越しに早虫の声
松茸や都心に近き路地の店
焼売(しゅうまい)の皮くっきりと秋の風
提灯の下だしぬけに彼岸花
猿酒に酔いたるような山紅葉
初霜や鰤の血合いも艶やかに
行く秋やおでんの湯気の消えどころ
ベーコンの紅艶やかに秋の暮
秋近し揺れて花火の落ちにけり
鈴虫の声に似合いし吟醸酒
言うまでもないことだが、岩間宗達は自他共に認める意地汚い飲兵衛である。
宗達本人は池波正太郎など粋な酒飲みに憧れているのだが、彼はあくまでも庶民の域を出ることはない。