久しぶりに『サザエさん』を買ってきました。
長谷川町子没後30年記念の週刊朝日臨時増刊号『サザエさん 2022 夏』という雑誌版の漫画です。
懐かしい昭和時代の夏が、誌面のあちこちにありました。
長谷川町子没後30年記念の週刊朝日臨時増刊号
今年は、長谷川町子の没後30年ということで、「週刊朝日」が年に4回、臨時増刊として『サザエさん』を出版するそうです。
これまで、既に『サザエさん 2022 年中行事』『サザエさん 2022 春』と2号が発行されていて、今回の『サザエさん 2022 夏』は3号目ということになるようです。
前二冊はスルーだったけど、『サザエさん 2022 夏』に思わず反応してしまったのは、これが夏の作品を中心に集めた作品集だったから。
夏が大好きな僕は、夏を特集した作品集やムック本には思いきり弱いのです。
『サザエさん 2022 夏』の特集テーマは「海へ山へ」。
キャッチコピーとして「磯野家の昭和式バカンス」とあります。
コロナ禍で旅行もできない夏、『サザエさん』で昭和の夏を楽しんでみるのもいいかもしれませんね。
『サザエさん 2022 夏』の目次
『サザエさん 2022 夏』では、懐かしい『サザエさん』の作品を、いくつかのテーマごとに収録しています。
テーマを見ると、「田舎はいいなあ」「海辺のサザエさん」「そこに山があるから」「浴衣で旅館」「みんなで外出」「ファー!(ゴルフ)」、、、
あちこちから昭和の日本が見えてきそうなテーマばかり。
番外編として「伯父さんがやってきた!」というのもあります。
「サザエさんをさがして」というコラムのコーナーでは、「江の島」「自然にかえれ」「社員旅行」「ホテル」「ゴルフ」など、昭和の日本を理解するための解説も充実。
豆情報として「世相やニュースと振り返る長谷川町子の歩み」。
さらに、巻末グラビア「伊藤まさこの『鎌倉・サザエさん夏のおでかけ』」では、夏を楽しむ小旅行のガイドも掲載。
おまけとして『エプロンおばさん』の傑作集も収録されています。
税込み451円で、これだけ楽しめたら、十分じゃないでしょうか(笑)
カラー作品 真っ赤なビキニ姿のサザエさん
巻頭カラーは4ページ、計8作品が掲載されています。
みんなに内緒で、流行の赤いビキニを着ているところをカツオに見られたサザエさん。
「おとうさんにないしょヨ」を口止めしますが、挑発的な真っ赤なビキニ姿なのに、全然色気のないところがさすがサザエさん(笑)
遊園地で、マスオさんと間違えて、知らない男性に「あなた、コーラかってきてよ!」と言ってしまうところもさすが。
国内の鉄道旅行も立派なバカンスだった
サザエさんとカツオとワカメとタラちゃんが、夏休みに田舎の親戚の家まで遊びに行く話が中心。
最初のコマから判断すると、四人はどうやら神奈川県の「小田原駅」で降りたようです。
到着したばかりのサザエさんたちをもてなす女性が「こおり水、おかわりしましょうか?」と言っているのは、「かき氷」ではなく「氷を浮かべた水」のことのようです(コップにストローが入っているので)。
バスで行った「湖水」は芦ノ湖でしょうか。
海水浴にも行ったりと、サザエさんたちは「夏の田舎暮らし」を満喫します。
次に、磯野家を訪れた、これも親戚らしき男性が、カツオとワカメを田舎へ連れて行ってくれるという話。
「静岡駅」で降りているので、舞台は静岡でしょう。
到着したばかりの二人は「おはぎ」でもてなされ、馬小屋に並んでいる「野天風呂」に入ります。
泊っているのは農家らしく、畑までお弁当を届けたり、山羊の乳しぼりをしたりと、東京ではできない体験もいっぱい。
夜の学校で映画を上映するというのも、日本の田舎の夏らしいですね。
サザエさんとマスオさんが、マスオさんの実家のある大阪を訪ねる話もあります。
東京から大阪まで、まだ大旅行だった時代の話ですね。
夕食は名物の「うなぎまむし」にしようと話しているのを立ち聞きしたサザエさん。
てっきり、蛇を食べさせられると勘違いして、「お腹が痛い」と仮病を使いますが、みんなが「うなぎのカバヤキ」を食べているのを見てびっくり。
大阪城など大阪見物を楽しんだ後は、マスオの兄の案内で京都まで小旅行。
国内の鉄道旅行さえも、庶民にとっては立派なバカンスだった昭和の時代。
旅行の楽しさが伝わってくるような話ばかりです。
誰もが電車に乗って海水浴へ出かけた
『サザエさん』には、昭和時代には夏旅行の定番だった「海水浴」のエピソードもたくさんあります。
カツオの水着は赤いフンドシ。
波平さんをみんなで砂に埋めて遊んでいるのも、昭和の海水浴風景の定番でした。
会社の同僚と「昔の海は良かった」「今の海は汚くてまっぴらごめん」「手間ひまかけていくやつの気が知れない」と盛り上がっていた波平さん。
汚れた海水浴場で、その同僚と出くわして互いに苦笑い。
「かと言って、行くとこないからなあ」という最後の言葉が、まさしく当時の日本の平均的庶民の姿でした。
庶民の姿といえば、最新の水着や帽子、サングラス、ボートを豪華に買い揃えた主婦が「これだけそろえたら、今年は出かける予算がどうしても出ないの」とつぶやく場面。
等身大の庶民の描くのが、『サザエさん』は本当に上手だったように思います。
流行のビキニを着たサザエさん、ブラがずり落ちてしまうので、マスオさんにバンソウコで留めてもらう場面も笑えますね。
一家で海水浴へ出かけた磯野家、電車に乗って海へ向かいますが、到着時間が遅かったため、大混雑のビーチではパラソルを広げる隙間もありません。
とにかく、夏になると、どこの家庭も競うようにして電車に乗って海水浴へ出かけるという、そんな昭和という時代でした。
おフネさんの水着、「だって二十年前のよ」とサザエさんが言いますが、「かまやせん」と波平さん。
昭和30年代の作品だとすると、水着はおそらく昭和10年代(つまり戦前)のもの。
戦前と戦後で、時代はずいぶん変わっていたんですね。
波平さんのお兄さんは毛が2本の海平さん
番外編として収録されているのは「伯父さんがやってきた!」。
「伯父さん」というのは、波平さんのお兄さんのことで、おフネさんが間違ってしまうくらい、外見は波平さんとそっくり。
唯一違うところは、波平さんの髪の毛が一本なのに対して、お兄さんは二本あるということ。
他の作品でもありましたが、夜、子どもたちが寝静まってから、大人たちだけでスイカを食べようとしているところが、何となく昭和っぽい?
解説によると、原作では名前のなかった、このお兄さんの名前、アニメでは「海平さん」と呼ばれていたそうです。
エプロンおばさん
本作では、長谷川町子の隠れた名作「エプロンおばさん」も収録されています。
舞台は、昭和30年代の下宿屋さんで、主人公は下宿屋を営む「エプロンおばさん」こと「敷金なし」さん。
サラリーマンの夫「勇」と、現代的な若者娘「トクコ」、下宿人の学生「クスノキ」さんなどが、愉快な物語を繰り広げています。
昔の修身の教科書を持ち出してきて、トクコに「ちっとは親孝行しろ」と諭しますが、「どうして、親孝行しなきゃいけないのか?」の納得のいく説明を求められたお父さん。
自分で修身の教科書を開いて読みますが、どうして、親孝行しなければならないのか、自分でも分かりません(笑)
学校教育において、教科としての「修身」の復活が議論されていた世相を反映した作品なんでしょうね。
そこに山があるから
昭和式夏のバカンスといえば、海か山かの二択という雰囲気がありました。
今年の夏休みは、海へ行くか、山へ行くか、ということで、議論が盛り上がったものです。
近年は、夏休みに山登りをするという選択肢は、あまりなくなったような気がしますが、当時の『サザエさん』を読むと、登山は一般庶民にとって身近なレジャーだったようです。
特に、キャンプといえば、山岳キャンプが主流だったようで、大抵は森の中に三角形のテントを張っている場面が描かれていました。
焚火を使って飯盒でご飯を炊いているところも、昭和という感じがしていいんですね。
『サザエさん』は昭和史の教科書みたいな漫画
昭和の時代、一般の庶民にとって、旅館に宿泊するということは、かなり特別の非日常感を持っていたのではないでしょうか。
ビジネスホテルがない時代、「外泊」というのは、旅行気分を強く盛り上げてくれるものだったはずです。
『サザエさん』では、旅館のほかに「民宿」もしばしば登場しています。
レジャーブームで、普通の民家を民宿に改修して、旅行客を迎え入れることの多かった時代でした。
旅行とは関係ないけど「としよりの日」というタイトルの付いた作品が新鮮。
中央社会福祉協議会が9月15日を「としよりの日」として定めたのは、昭和26年のことで、現在のように祝日としての「敬老の日」が制定されるのは、昭和41年のことでした。
『サザエさん』は、本当に昭和史の教科書みたいな漫画ですね。
三日泊まりで箱根へ行く計画で盛り上がるのも、昭和的なエピソード。
みんなで家族風呂に入っているところ、マスオさんは「ボクは大浴場がいいや」と広々とした大浴場を楽しみますが、湯上りの脱衣所で自分の浴衣が分かりません。
昔の温泉では、籠に服を入れて、床の上に置きっ放しになっていたんですね。
これもまた大らかな、昭和らしい愉快な話です。
高度経済成長期の日本の平均的庶民の姿を描く
家族揃って外食に出かけるのも、当時は、特別の日のイベントでした。
レジャーというよりも、一家でお出かけすることが楽しい時代だったのかもしれませんね。
連休の予定を話し合いながら、乗り物は混む、観光地はゴミだらけ、無駄遣いはする、みんあで、やっぱりうちにいた方がいいやと話し合ったくせに、結局は、どこかへ出かけなきゃ気が済まないというサザエさん一家。
これぞ、まさしく、高度経済成長期の日本の平均的庶民の姿だったような気がします。
久しぶりに、全巻通読したくなってきました、『サザエさん』(笑)
まとめ
ということで、以上、今回は、週刊朝日臨時増刊号『サザエさん 2022 夏』の感想をご紹介しました。
忘れていた昭和時代のゆったりとした時間の流れが、やっぱりいいなあと思いました。
仲良しの三世代家族というところにも、『サザエさん』の楽しさはあるような気がします。