旧・文芸スノッブ

1980年代の夏を駆け抜けた<喜多嶋隆>の青春ラブストーリー

1980年代の夏を駆け抜けたの青春小説を振り返る

夏と言えばサザン、夏といえばTUBE、夏といえば杏里、夏といえば杉山清貴&オメガトライブ、夏といえばブレッド&バターだったのと同じように、80年代の夏には喜多嶋隆の小説があった。

80年代の夏を爽やかに過ごすためのマスト・アイテムだった「喜多嶋隆の文庫本」を、今、振り返る。

背表紙に書かれた紹介文を引用して、当時の空気感を再現。

殺しのヒットパレード

「海賊放送局ハワイ99」シリーズ、第一弾。

マリン・ブルーに輝くハワイを舞台にハイスクール・ギャルたちをつぎつぎに襲う殺人鬼の手──謎のカギは、海賊FM放送局・ハワイ99の人気ディスクジョッキー、タミーに送られるリクエスト曲。その第一番目は<ダイアナ>。さあ、ヤング・ギャル&ボーイたちの出動だ! 快調、新青春推理小説の登場。

1986年(昭和61年)4月15日、講談社文庫。

ビキニ・ガールは、狙われる

「海賊放送局ハワイ99」シリーズ、第二弾。

元気ジルシの日系ハワイアン、タミーが活躍する青春推理の第二弾! ヤングの歌とファッションが、海賊放送局ハワイ99から爆発します。今度の事件は莫大な遺産の隠し場所を示すアロハシャツの争奪戦からスタート! 凶悪なギャングと若者たちとのスリリングな格闘と知恵比べ、そして意外や意外の顛末。

1988年(昭和63年)6月15日、講談社文庫。

JPAのカバー写真が色っぽい。

さよならは、カンパリ・ソーダ

グラス一杯のマルガリータのような短編小説10篇収録。

キーンとよく冷えたトロピカルカクテルのようなラヴ・ストーリー。たった30秒のコマーシャル・フィルムに命を賭けて来た著者ならではの軽快で簡潔な文章、そしてストーリー展開。しかし、そこにはちょっぴりホロ苦い、男と女の機微が滲み出ている。日本初の横組み小説で話題を呼んだ、著者出世作、待望の文庫化!

1988年(昭和63年)5月20日、光文社文庫。

CF愚連隊

CFギャング・シリーズ、第一弾。

CF界の問題児!? バイオレンス・ディレクター流葉爽太郎、さっそうと登場! たった30秒のフィルムに体をはって、東京、サイパン、そしてグアムへ。ヤシの葉。海風。男の夢。女の夢。出会いと、旅立ち……。サンゴ礁に響く1発の銃声が消したものは!? ラスト・チャンスに、ロケ隊のカメラは回るのか!? 爽快、ニュー・エンターテイメント第1弾!

1984年(昭和59年)9月10日、光文社文庫。

カバー・デザインの水着モデルは、キミー・サントス。

CFガール

CFギャング・シリーズ、第二弾。

流葉爽太郎は、広告代理店のCFディレクター。社員契約も保証もない外人部隊だ。その流葉チームに舞い込んだのが、イタリア製自転車のCF制作の話だ。モデルは、湘南の海岸道路で新聞配達をしていた少女。だが彼女の祖父は、自動車メーカーの会長だった……。『CF愚連隊』に続いて放つ流葉シリーズ第2弾!

1985年(昭和60年)9月15日、光文社文庫。

ロンリー・ランナー

CFギャング・シリーズ、第三弾。

ご存じ、流葉爽太郎。CF業界の問題児!? たった30秒のフィルムに体をはって、クビをかける、広告代理店の契約ディレクター。突然舞い込んだ仕事は、スポーツ・シューズのCF。モデルは軽井沢で会った美少女に決め、行動を開始する。が、次々と障害が……! 軽井沢からL・A(ロス・アンゼルス)へ爽やかに駆け巡る、CFシリーズ待望の第3弾!

1986年(昭和61年)9月20日、光文社文庫。

マーメイドは、歌わない

CFギャング・シリーズ、第四弾。

流葉爽太郎は、CFディレクター。たった30秒のフィルムにクビをかける、広告代理店の外人部隊。今回の広告主はバイクメーカー。爽太郎は早速コンテを決め、白いイルカを求めてハワイへ飛ぶ。ハワイ島を舞台に、美人海洋生物学者・渚との恋も同時進行。絶好調CFギャング・シリーズ待望の第4弾!

1988年(昭和63年)7月20日、光文社文庫。

カムバックには、遅くない

CFギャング・シリーズ、第五弾。

業界一匹狼のCFディレクター、流葉爽太郎。今回の広告主はN自動車。幻の名GT車 ”スターライン” を再生産するという。コンセプトづくりに入った流葉は、音楽を、かつて一世を風靡したジャズ・ピアニスト森達也に決めた。ところが、彼の身辺には複雑な問題が!? 30秒のフィルムにクビをかける好評「CFギャング」シリーズ!

1988年(昭和63年)9月20日、光文社文庫。

君にロング・グッドバイ

CFギャング・シリーズ、第六弾。

流葉チームに不思議な仕事が入った。依頼主はホノルルにある名門ホテルのオーナー。ホテルを売却する金を使って、これまで滞在した客へ向けて「さよならコマーシャル」をつくりたいという。一方、買収した日本のホテル王は、CF制作の妨害を始めた。30秒のコマーシャル・フィルムに命を賭けるCFギャングたち!

1988年(昭和63年)12月20日、光文社文庫。

ポニー・テールは、ふり向かない

「ポニー・テール」シリーズ、第一弾。

1985年(昭和60年)、伊藤かずえ主演テレビドラマ『ポニーテールはふり向かない』原作小説。

右のヒップ・ポケットには、ドラムのスティック。左のポケットには、限りない夢。かなりジャジャ馬。すこしだけ、センチメンタル。ハワイ、グアム、サイパン、L・Aを駆け抜ける、感化院帰りの天才少女ドラマー、ミッキー。太平洋の潮風に、ポニー・テールが揺れる。熱い通り雨が走り過ぎる。15歳の夏は、エンドレス……。人気赤丸急上昇の気鋭が贈る、愛と冒険の青春ハード・ボイルド小説

鈴木英人のカバーイラストも貴重。

1985年(昭和60年)10月25日、角川文庫。

ポニー・テールは、風まかせ

「ポニー・テール」シリーズ、第二弾。

ハワイ。青空。誰も知らない丘。光の中で、風の中で、ミッキーはパパの眠る小さな十字架の前で、ひとり16歳の誕生日を迎えた。旅の始まりだった。ジャズシンガーとして名を馳せる、生き別れたママを訪ねて、ミッキーは太平洋を巡る。ハワイからフィリピンへ。横須賀からグアムへ。いくつもの愛が、別れが、歌が、風のように彼女の中で弾け、謳い、笑い、通りすぎてゆく、陽射しを濡らす涙は、まるで1コーラスの通り雨……。海と空と風と虹とをこよなく愛する著者が贈る、おなじみ天才少女ドラマー・ミッキーの冒険活劇。人気空前の<ポニー・テール>シリーズ待望の第二弾。

1987年(昭和62年)4月10日、角川文庫。

ポニー・テールに、通り雨

「ポニー・テール」シリーズ、第三弾。

16歳の天才少女ドラマー、ご存じその名もミッキー。彼女が率いるロックバンド THE・BANDAGE の面々は、レコード会社パイナップル・レーベルの設立の為、日夜ハワイを駆けめぐる。大麻も売れば、借家を担保に金を調達しようなど、C調ながらも正に捨て身の攻防であった。しかし、敵対するロスの音楽エージェント<A・TO・Z>の圧力は強大だった。録音はおろかハワイ全島のスタジオ借用もNGと出た。そんな最中、ミッキーは<神風マフィア>の若頭J・Rと出会い、更に、虎の耳と謳われた伝説のミキサーを知った…。人生は一度きり。そう、一度きりの演奏と同じ。物語は、こうして日本のスティックの合図(カウント)から始まる。<ポニー・テール>シリーズお待たせの第三弾。

1987年(昭和62年)5月25日、角川文庫。

ポニー・テールに、罪はない

「ポニー・テール」シリーズ、第四弾。

45回転のドーナツ盤。ラベルにはパイナップルの絵。曲名は「少しだけ、ティア・ドロップス」と刻まれている。そう、やっとの事で漕ぎつけた、ご存じ16歳の少女ミッキー率いる THE・BANDAGE の、輝ける処女EP。ヒットなるか、NGと出るか……。ところが世の中あまくはない。ロスの音楽組織<A・TO・Z>の魔の手はハワイ全島へ。さらにはマルコス一派のナマコ野郎達、九竜連合の中華風ギャング、挙句には唯一の味方<神風マフィア>若頭J・Rが巻き起こすハワイ州警察とのシュールな闘いにて、南国(マウイ)は大混戦と相成る次第。さてさて、愛も勇気も冒険も、この一冊が聖書(バイブル)。シリーズお待たせの第四弾。涙と感動と、そして神の祝福をあなたに。お読みあれ。

1987年(昭和62年)7月25日、角川文庫。

ポニー・テールは、ほどかない

「ポニー・テール」シリーズ、第五弾(完結編)。

青い空、透きとおる海、ここは南国(ハワイ)、楽園(パラダイス)。その楽園(パラダイス)に流れる曲「少しだけ、ティア・ドロップス」。ご存じ16歳の天才少女ドラマー・ミッキー率いるTHE・BANDAGE(ザ・バンデージ)。ロスの音楽組織<A・TO・Z>の圧力にも負けずFM局で番組をつくり、新曲「ロンリー・モーニング」も完成した。なにもかもが好調にいった彼等は、ホッと一息……も、つかの間、敵<プロジェクトZ>の魔の手は次々とやって来る。さてさて、どうするミッキー。そして、<神風マフィア>の若頭J・Rとの愛の行方は──ポニー・テールに結ばれた青いハンカチにたくされた夢とは──。気になる少女(ロコ・ガール)の気になるシリーズ、ついに感動の終章(フィナーレ)。

1988年(昭和63年)10月25日、角川文庫。

テネシー・ワルツは、1度だけ

カメラマン兼私立探偵が活躍するハードボイルド・ミステリー。

グアムに住みついて4年。おれの本業はカメラマンだが、仕事はほとんどない。食うために私立探偵の真似ごとをしている。──美人歌手の依頼人は一枚のモノクロ写真をおれに差し出した。写真の男を10日間で探してという。謝礼の1000ドルは魅力だったが……。南の島で繰り広げられる男と女の事件、乾いた文章で描く爽快作!

1991年(平成3年)2月20日、光文社文庫。
(1984年10月光文社刊)

ラスト・ダンスは、裸足で

「渚のラム・コーク」や「初恋のウイスキー・コーク」「門限破りのギムレット」など、16編の短編小説を収録した作品集。

南の島を旅するカメラマン。南の島から出てゆくロコ・ガール。潮風の中で、人生のターニング・ポイントを曲がる男、そして女。遠い海鳴りと同じように、揺れている恋がある。遠い追憶のように、砕けてゆく愛がある。陽射し。ヤシの羽音。通り雨(シャワー)。出会い。そして、長いお別れ──。それぞれの心が、夏という風景の中で、鮮やかに一瞬の時を紡ぎ出す。人生にただ一度のSomethingを夏は、くれる。胸にしみる一杯のマルガリータにも似た、そんな16編の夏物語(ラブ・ストーリーズ)。

1988年(昭和63年)5月10日、角川文庫。

バトン・ガールは、もう泣かない

バトン部で活躍する女子高生が主人公の長篇青春物語。

L・A(ロス・アンゼルス)はリトル・トーキョーに育った日系の女の子、石崎真夏・16歳。バトン・チームの花形として鳴らした技は、その名も必殺 ”稲妻(ボルト)スピン” 。太平洋第七艦隊へ入隊させられた恋人ヘンリーを追って、はるばる来ました横浜へ、さかまく波をのりこえて。だが、転校先の港の見える丘高校のバトン部には、謎の美少女・里沙とその一団が真夏の行手を拒まんとしていた。さらには都会派少年岡本君、超軟弱少年スブタ君、サンダース軍曹、ツッパリ暴走族、海猫飯店の王(ワン)さんなどが入り乱れて登場、街は大混戦の観を呈するのだった。個人選手権をめざして、ロス仕込みのバトンがうなる。横浜を見舞う熱い台風(ハリケーン)、真夏の本当の夏がいま始まる。抱腹と落涙、そして感動の青春コメディー小説、書下しで堂々登場。

カバーイラストは湯村タラ。

1986年(昭和61年)8月25日、角川文庫。

こちらレオタード探偵団!

新体操部の女子高生が活躍する学園ミステリー長篇。

私立表参道高校で変態事件が続発した──。なぜか、パンティー一枚で失神していた男性教師。男物ブリーフ姿で吊るされた女生徒。そして、女生徒たちの下着盗難。愛用のレオタードを盗まれた新体操部のジャジャ馬娘・朝巻ツクネと同部のエースで名花の白鳥美由紀は、平和な学園を乱す変態事件解明に乗り出すが、被害の度はますます増すばかり……。得意の新体操の手具を武器に、美人女高生コンビが繰り広げる、セクシー・アクションを満載した学園ミステリーの傑作!

1988年(昭和63年)7月20日、ノン・ポシエット(祥伝社)。

六本木バナナ・ボーイズ

1989年(平成元年)公開、仲村トオル・清水宏次朗主演映画『六本木バナナ・ボーイズ』原作小説。

映画主題歌は、清水宏次朗「俺たちのシーズン」だった。

涼太郎と岩田は生まれも育ちも六本木。幼なじみの悪友で、ナンパもケンカも、いつも、つるんでやってきた。涼(りょう)はヌード専門のカメラマン。岩田(イワ)は代々続いた魚屋をシーフードカフェに改め、シェフに収まった。こんな二人が、出稼ぎ外人モデルと関わりを持ったことから、物語は始まる……。仲村トオル主演で東映映画化!

1989年(平成元年)7月20日、光文社文庫。

六本木シンデレラ

「六本木シリーズ」第二弾。

夏目涼太郎は六本木に生まれ、家業である銭湯の番台で女の裸を見ながら育った。美大生の彼は、アルバイトで始めたヌード・カメラマンの仕事が忙しく、現在は休学中の身だ。悪友の岩田は、家業の魚屋を嫌って何やら怪しげなカフェバーを始めた。地元育ちの若者と多国からの出稼ぎモデルが繰り広げる、恋とスリルとウイットたっぷりの『六本木バナナ・ボーイズ』第二弾!

1992年(平成4年)12月20日、光文社文庫。
(1989年12月、実業之日本社)

ジェームス・ディーンに、似ていた

自転車を全速で走らせる少女が主人公の爽やか青春物語。

涼川万里。愛称バリ。バイクの爆音から付けられた名前(ニックネーム)だ。愛車VTZ250を駆り、ルート246の女狼と呼ばれたバリは、ライダー同士のいざこざから逃れるように、単身アメリカへ。やがて恋におち、18歳の誕生日を迎え、そして女になった。彼の名はジミー。日米の混血。顔貌も生き方も、どこかジェームス・ディーンに似ていた。けれど悲しみは突然、音をたててやって来た。遠く長いお別れ──。傷心のまま帰国したバリは、バイクを捨て、ジミーへの愛を胸に、生きる。舞台は東京。新しい、そして本当の青春が、旋律(メロディー)を奏で始める。愛と悲しみを青空のパレットに描きつづける著者が贈る、渾身の書下ろし青春小説。勇気の速配便です。

1988年(昭和63年)3月25日、角川文庫。

海辺のロンリー・ハート・ガールズ

カラーグラビアも美しい、オシャレな短篇小説集。

初出も、『BLUE』『別冊小説現代』『小説WOO』『tHE HOTEL BAR』『ISLAND』(NTT PR誌)など、80年代を感じる。

一着の古いアロハ・シャツ。絵柄(プリント)は<虹の雨の木(レインボー・シャワー・ツリー)>。陽に灼かれ風に打たれ、色褪せながらも愛されつづけたシャツの30年に及ぶ時代に沁みこんだ追憶を通して少女の心を描いた『虹を着ていた4人のロコ・ガールたちの短い物語』。人生に分水嶺ともいうべき晩に、ビリヤードの試合で自分を賭けた少女の物語『エイト・ボールを夜明けまで』。そして、年代物(ヴィンテージ)のギターを片手に、島中の虹の行方をSALEしている不思議な少女の物語『虹先案内人(レインボー・ガイド)』。その他、ハワイを吹きぬける風の中で少女(ロコ・ガール)たちが紡ぎ出す恋の物語・全8。熱い陽射しに揺れる心は通り雨(シャワー)、のち虹(レインボー)──。

1989年(平成元年)4月25日、角川文庫。

ロックンロール・ティーチャー

新人女性教師が活躍する学園アクション。

湘南、葉山の私立高校にとんでもないセンセーがやってきた。早川美久、ハワイ帰りの22歳。ホノルル・シャミネード音楽院で、ベートーベンからマイケル・ジャクソンまで勉強。できる楽器はピアノとロックンロール・ギター。特技は実践カラテ!──表向きは音楽の特別講師。ところが実体はなんと番長グループ壊滅の使者だった!?

1989年(平成元年)5月20日、光文社文庫。

夏物語

夏の終わりに読みたいトロピカル短編集。

『野生時代』『Tarzan』『anan』『月刊カドカワ』『別冊小説現代』のほか、日産自動車販売PR誌『P’マガジン』、本田技研工業PR誌『VERNO WORLD』、鈴木自動車工業PR誌『IS』、テレビ朝日PR誌『PR10(プリオ)』など、PR誌に発表されたショート・ストーリーを含む。

幾つもの夏が通りすぎてゆく。そして、幾つもの夏が何かを落としてゆく。夏の叢雲。夏の風。夏の陽射し。夏の渚。夏の雨。夏の木影。そこには恋があり、孤独があり、友情があり、そのすべてが物語を映している。そう、夏は出逢いにときめきを与え、別れに鮮やかな彩りを添えてくれる。夏は不思議な、魔法の季節なのかも知れない──。夏に魅せられ、人生の断片(スライス・オブ・ライフ)を通底して見つめつづける著者が綴る、もの悲しく小粋な短編集。20の小さな物語に縫いとじられた、遠い夏の残照を、あなたに。

1990年(平成元年)9月25日、角川文庫。

まとめ

喜多嶋隆は、広告制作会社サン・アドのコピーライター兼CFディレクターとして活躍した人物である。

1949年(昭和24年)、東京文京区本郷生まれ。

1981年(昭和56年)、『マルガリータを飲むには早すぎる』 で、小説現代新人賞受賞。

代表作「CFギャング・シリーズ」は、CFディレクターとしての経験を生かして、2019年(令和元年)までに19作品を発表している。

喜多嶋隆の小説の特徴は、キャッチコピーのように短いセンテンスにある、

あのとき手を振った赤いビキニの娘が和美。きょうも赤いビキニだ。メイクも派手だ。近くに坐ると、<夜間飛行>が匂った。(喜多嶋隆「渚のラム・コーク」)

まるで、映画の説明書きのようなフレーズが続く。

そうだ。叩くように書けばいい。R&Bのように。ハイハットを叩くように。バスドラムをふむように書けばいい。センテンスは、当然、短くなる。飾らないですむ。小説にスピードが出る。自分の文体を見つけた。いや、自分の中にあった文体に気づいた。そう思った。(喜多嶋隆「ポニー・テールは、ほどかない」あとがき)

もしも、「時短の時代」というものがあるのだとしたら、それは、1980年代から始まっていたのかもしれない。

誰もが「24時間働けますか?」なるキャッチフレーズと立ち向かっていた時代、隙間を埋めるための小説が、あちこちで生まれた。

コピーライターの経験を生かした短いフレーズを武器に、喜多嶋隆は長編小説を書いた。

一方で、バブル景気の時代には、企業のPR誌にも、ショート・ストーリーを発表する。

大きめのボタン・ダウン・シャツ。そのスソは、バサッと外に出している。オフ・ホワイトのジーンズ。ナイキのスニーカーをはいていた。(喜多嶋隆「旅立ちのボタン・ダウン」)

爽やかなファッション・コーデが、夏の物語を支えた。

喜多嶋隆の小説には、杏里や杉山清貴&オメガトライブが夏のサウンド・トラックだった時代の青春がある。

ABOUT ME
みつの沫
バブル世代の文化系ビジネスマン。源氏パイと庄野潤三がお気に入り。