夏は終わったけれど、まだまだアウトドア気分を楽しみたい!
カヌーのことを書いた本を読みたい!
自立心のある大人になりたい!
そんな方には、野田知佑さんのカヌーエッセイがおすすめ。
野田知佑とは?
野田知佑さんは、エッセイストとしても有名だったカヌーイストです。
著者略歴によると、野田さんは1938年(昭和13年)、熊本生まれ。
早稲田大学文学部英文学科を卒業後、旅行雑誌記者を経て、1980年代にはエッセイストとして活躍。
ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダの川を踏破するなど、日本人カヌーイストの第一人者と呼ばれました。
カヌー旅行を題材にしたエッセイ集も多数出版されており、『日本の川を旅する』では、第九回日本ノンフィクション賞(新人賞)を受賞。
1980年代から1990年代にかけては、ネイチャー雑誌『ビーパル』など、専門誌に連載を持つほか、『月刊アウトドア』では人生相談を担当するなど、アウトドア界の教祖的な人気を誇ったことも。
カヌーイストの立場から、日本政府の国土開発を激しく批判するなど、徹底したダム建設反対派で、頑固一徹なキャラクターもまた、人気の秘密でした。
日本初のカヌー犬「ガク」を育てたことでも有名。
犬の名前「ガク」は、椎名誠の長男「岳(がく)」に由来するほど、椎名誠と親交が深かったそうです。
2022年3月、病気のため逝去。
84歳でした。

1980年代の野田知佑の全著作リスト
今回は、野田さんが、最も野田さんらしかった、1980年代の全著作リストでご紹介したいと思います。
この時代、40代だった野田さんは、カヌーイストとしてもエッセイストとしても、また一人の男としても、一番脂の乗り切った充実期だったのではないでしょうか。
日本の川を旅する(1982)
1982年(昭和57年)に、日本交通公社出版事業局から刊行された『日本の川を旅する』です。
第九回日本ノンフィクション賞(新人賞)受賞。
屈斜路湖畔の第一夜。北海道の夏は午前三時には東の空が明るくなる。焚火を起し、熱いコーヒーを啜った。一面の濃霧。七月だが朝夕はセーターにジャンパーを着込むほど寒い。八時頃、霧が晴れて、青空がのぞいた。(野田知佑「日本の川を旅する」)
野田さんの出世作となった代表作です。
魚眼漫遊大雑記(1985)
1985年に講談社から刊行された『魚眼漫遊大雑記』です。
「魚のマナコで人間社会を覗いてみた!」というテーマのエッセイ集。
フランスは国土の八割が農地である。その一望千里の中を運河が縦横に走る。田舎に釣りに出かけた。運河に沿って歩くとゴッホのはね橋の絵にそっくりの場所があり、大変嬉しくなって、糸を垂れると、ナマズが釣れた。(野田知佑「魚眼漫遊大雑記」)
単行本の帯の推薦文は椎名誠が寄せています。
カヌーで来た男(1985)
1985年に晶文社から刊行された『カヌーで来た男』です。
これ、エッセイ集ではなくて、写真集というかインタビュー集で、しかも、作家の片岡義男さん、写真家の佐藤秀明さんとの共著でした(片岡さんのインタビューに野田さんが答える)。
野田さんと片岡さんとは英米文学という繋がりがあるんですよね。
朝起きたらまず水に飛びこみ、川をのんびり下る。本を読み、鳥のさえずりに聞き惚れ、鹿や兎に散歩を誘われる。魚を手でつかみ、焚火をして、酒を飲む。さて、今夜は満月だからカヌーを漕ぎ出そうか―世界中を旅するカヌーイストの野田知佑と作家の片岡義男。男たちがとらわれた自然の美しさや、川遊びの醍醐味を写真家・佐藤秀明のさまざまなショットで映しだすカラー文庫。(新潮文庫版紹介文)
晶文社オリジナルと新潮文庫版で、内容が大きく変わっています。
文庫化にあたって、こんなに力を入れるのか?というくらいに(しかも3人とも)。
せっかくなので、新潮文庫版で読んでほしい一冊です。
のんびり行こうぜ(1986)
1986年に小学館から刊行された『のんびり行こうぜ』です。
ネイチャー雑誌『BE-PAL』連載のエッセイ集の、これが第一弾でした。
1984(秋)から1986(冬)までの連載が収録されています。
われわれは危険を承知で川を下る。だから死ぬ時は「納得─ッ」を叫んで死ぬのである。『川下りで死ぬ自由』くらいはあってもいい。(野田知佑「のんびり行こうぜ」)
日本アウトドア界における「野田教」なるものの芽生えが、このあたりから始まっていたのかもしれませんね。
北極海へ(1987)
1987年(昭和62年)に文藝春秋から刊行された『北極海へ KAYAK SOLO TO THE ARCTIC あめんぼ号マッケンジーを下る』です。
カナダ北西部の大河マッケンジーをソロで川下りしたときのカヌー紀行。
ルアーを投げてみた。何度目かにルアーの後ろに潜水艦が浮上したような波がたち、背びれが現れて、ルアーを追いかけガブリと嚙みついた。信じがたく重い強い引き。踏んばるとパシッとラインを切られた。(野田知佑「北極海へ」)
単行本の帯には「椎名誠氏絶賛!」「この本は文句なしに面白い!」「文句のある奴は前に出てこい!」などのフレーズあり。
川を下って都会の中へ(1988)
1988年(昭和63年)に小学館から刊行された『川を下って都会の中へ』です。
帯には「BE-PAL 大人気 漕ぎおろしエッセイ」とあります。
『ビーパル』連載が、若い世代に野田知佑を普及させた影響は大きかったでしょうね。
当時は、自分もそんな一人でした(大学3年生だった)。
川原に上がって食事を作っていると、不意に背後でバイクの音がして、「椎名さんですか?」ときかれた。若いライダーである。「いや。シーナの兄貴だけど、どうしたんだ?」(野田知佑「川を下って都会の中へ」)
椎名誠や沢野ひとしなど、アウトドア仲間との交流も、野田エッセイの楽しみの一つでした。
ゆらゆらとユーコン(1989)
1989年(平成元年)に本の雑誌社から刊行された『ゆらゆらとユーコン』です。
1982年から1986年まで『本の雑誌』に発表されたもののほか、1989年の朝日新聞に連載されたエッセイなどを収録。
三年間勤めた雑誌社を辞めてアメリカに渡り、ナバホ族の中に入りこんだのは十数年前のことだ。一軒のナバホの家に居ついて、ぼくは「羊飼い」になった。(野田知佑「ゆらゆらとユーコン」)
野田さん人気が絶頂期だった頃の、アウトドアエッセイ集ですね。
ガリバーが行く
1990年(平成2年)に小学館から刊行された『ガリバーが行く』です。
帯に「『のんびり行こうぜ』第3弾」とあるように、『のんびり行こうぜ』『川を下って都会の中へ』に続く、『BE-PAL』連載エッセイ集。
帰りの車の中で少年は同志的な親しさをこめてぼくにいった。「あの最後の瀬では危なかったね。ぼく、もう少しで川にはねとばされるところだった。野田さん、疲れたでしょう」一緒に流され、助け合ったのだから、彼にはぼくを友達あつかいする資格がある。(野田知佑「ガリバーが行く」)
椎名誠や沢野ひとしはじめ、カメラマンの佐藤秀明一家や作家の夢枕獏、アリスファームの藤門弘など、多彩な面々が登場しています。

まとめ
いかがでしたか?
1980年代後半から1990年代前半にかけて、我が家の本棚はアウトドア関係の蔵書でいっぱいでした。
そして、その中軸を担っていたのが、もちろん、野田知佑さんの著作です。
自分は20代で、もう完全に野田さんにかぶれていたんですね(笑)
北海道の川を下り、川原にテントを張り、魚釣りをして。
あの頃のグッズは、みんな古くなってしまったけれど、若いうちに思いきりアウトドアやっておいてよかった~と、本当に今でも思います。
野田さんは、生涯現役でしたけれど(笑)
ガチでアウトドアスポーツに挑戦したい人も、オシャレにアウトドアを楽しみたい人も、まずは、1980年代の野田さんの本を読んでみてはいかがでしょうか。
入門編としては、ビーパル連載の『のんびり行こうぜ』『川を下って都会の中へ』『ガリバーが行く』あたりがおすすめですよ。
アウトドアを離れて、紀行エッセイとしても楽しめます。