村上春樹考察

村上春樹「羊男のクリスマス」頑張った人が報われる平和な羊男世界

村上春樹「羊男のクリスマス」あらすじ・感想・考察・解説

村上春樹「羊男のクリスマス」読了。

本書「羊男のクリスマス」は、1985年(昭和60年)に、村上春樹と佐々木マキが一緒に作った書下ろし絵本である。

クリスマス・イブには穴のあいたものを食べてはいけない

冒頭に二人のエッセイが収録されている。

「何でもいいからまず絵を描いてください」と村上春樹さんは言った。「その絵を見て話を考えます」そこで私は、灯台の近くで眠っているクジラの絵と、等身大のテディ・ベアが女の子とたわむれている絵を描いて送った。(佐々木マキ「羊男のクリスマス」)

ある夏の日、羊男は、羊男協会から、聖羊上人没後二千五百年のクリスマス演奏のための羊男音楽の作曲を依頼される。

しかし、羊男は、なかなか作曲をすることができない。

困っているところに現われたのが羊博士だった。

「それだよ」と博士は言って、何度も何度も何度も頷いた。「そのおかげで君に呪いがかかっちまったんだ。君も羊男のはしくれなら十二月の二十四日のクリスマス・イブに穴のあいた食物を食べちゃならんことくらいわかっておるだろうに」(村上春樹「羊男のクリスマス」)

しかし、羊男になったとき、羊男学校の勉強があまり得意ではなかった羊男は、聖羊祭日のことを知らなかった。

「いいかね、十二月二十四日はクリスマス・イブであると同時に、聖羊祭日でもあるんだ。つまりこの日は聖羊上人が夜中に道を歩いておられて、穴に落ちて亡くなられたという神聖な日なんじゃ。だからその日に穴のあいた食物を食べちゃいかんというのは昔むかしからきちーんときまっておることなんじゃよ。マカロニとか、ちくわとか、ドーナツとか、イカ・リングとか、たまねぎの輪ぎりとか、そういうものをな」(村上春樹「羊男のクリスマス」)

昨年のクリスマス・イブに、穴のあいたドーナツを食べた羊男は、いつの間にか呪いを受けてしまっていたのだ。

呪いを解くため、羊男は、羊博士のアドバイスを受けるのだが、、、

頑張った人たちがちゃんと報われる「羊男世界」

この物語は、呪いを解くために羊男がさまよいながら、いくつもの奇妙な体験をして、最後にはハッピーエンドを迎えるという、いかにもなクリスマス仕様となっている。

特徴的なのは、呪いを解くための旅の途中で出会う、様々なキャラクターたちだろう。

かわいくてやさしい<208と209の双子の女の子>、身勝手な<海ガラスの奥さん>、性格がねじけている<右ねじけ>と<左ねじけ>の<ねじけ兄弟>、極度の恥ずかしがり屋の<なんでもなし>、そして呪いをかけた張本人の<聖羊上人>。

個性豊かなマイノリティである彼らと関わることで、時には不愉快な思いもしながら、羊男は呪いを解くことに成功し、みんなで楽しくクリスマス・パーティーをする。

「クリスマスおめでとう!」とみんなが叫んだ。部屋の中にはみんながいた。右ねじけ・・・も左ねじけ・・・も、208も209も、海ガラスの奥さんも、なんでもなし・・・・・もいた。なんでもなし・・・・・は口のまわりにドーナツのかすをつけていたのでわかったのだ。羊博士の姿まで見えた。(村上春樹「羊男のクリスマス」)

この物語が与えてくれる教訓は、誠実に生きてさえいれば、物事はいずれ解決すると、いうことではないだろうか。

ねじりドーナツを分けてあげたり、部屋の掃除をしたり、羊男はひたすら誠実に呪いを解くための旅を続けた。

腹の立つようなことがあっても、羊男は捨て鉢になったり投げやりになったりしない。

前を向いて歩き続けることの大切さを、僕はこの物語から教えられたような気がした。

「僕はもう二度とあの人たちには会えないんだな」と羊男は思った。「二人のねじけ・・・にも、208と209の双子にも、海ガラスの奥さんにも、なんでもなし・・・・・にも、羊博士にも、聖羊上人にも」そう思うと羊男の目から涙がこぼれた。羊男はみんなのことをとても好きになっていたのだ。(村上春樹「羊男のクリスマス」)

そして、頑張った人たちがちゃんと報われる平和な世の中が、つまり「羊男世界」だ。

誰だって、クリスマスには、そんな奇跡みたいな出来事が起こりそうな気がするのではないだろうか。

そんな淡い期待を与えてくれる<クリスマス>という、夢のような温かい季節に感謝しよう。

書名:羊男のクリスマス
著者:村上春樹、佐々木マキ
発行:1989/11/15
出版社:講談社文庫

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