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ロバート・シェクリイ「不死販売株式会社」時間旅行と心霊現象がセットになったSF小説

ロバート・シェクリイ「不死販売株式会社」時間旅行と心霊現象がセットになったSF小説

ロバート・シェクリイ「不死販売株式会社」読了。

本作「不死販売株式会社」は、1958年(昭和33年)に発表された、シェクリイ最初の長編小説である。

1992年(平成4年)には、『フリージャック』のタイトルで映画化もされた。

裕福な人々は「来世」をお金を買うことができる時代

1958年のニューヨーク。

32歳の男性ヨット技師が、交通事故で死んだ。

正面衝突だった。

肉体は滅びたが、男の魂は2110年のニューヨークで甦った。

主人公の名前は<トマス・ブレイン>。

交通事故を起こした瞬間、ブレインの魂は時間旅行をして2110年のニューヨークまで運ばれた。

そして、ブレインの魂は、2110年のニューヨークで、別の男性の肉体へと移植される。

長い時間がたって、眼が覚めた。心は落ち着き、肉体の疲れもとれていた。彼は白いベッドと白い部屋を眺めた。記憶がもどってきた。彼は交通事故で一命を落とし、未来に生まれ変わったのだ。デス・トラウマ(死の衝撃)を過大視しすぎると言っていた医者、彼の自然の反応を記録して、これは掘出しものだと言っていた男、おそろしく情緒のとぼしい美人の女—。(ロバート・シェクリイ「不死販売株式会社」福島正実・訳)

「過去からやってきた男」トマス・ブレインは、レックス・コーポレーションなる大企業にとって、ひとつの大きなプロモーションとなるはずであった。

しかし、レックスの行為は、ブレインの魂を過去から誘拐してきたものとして、政府から訴追を受ける可能性を含んでいた。

レックスは、やむなくブレインによるプロモーションを断念するが、過去から来た男・ブレインは、2110年のニューヨークで生きていかなければならない。

裕福な人々は「来世」をお金を買うことができる、2110年のニューヨークで。

「生」と「死」の観念が、現代とは大きくかけ離れていた

2110年、裕福な人々は「来世」をお金で買うことができた。

「来世」とは、死んだ人間が行くことのできる「死後の世界」である。

「来世」への切符を手に入れた人々は、もはや「死」を恐れることはなくなった。

人生に飽きた人間は、気軽に「来世」行きを選択し、簡単に自殺することができた。

裕福でない人間は、自分の肉体を売って、「来世」行きの切符を手に入れた。

健康な肉体は<宿主(ホスト)>として、現世での存命を望む人々に売却された。

裕福な人々は、現世において「再生する(肉体だけを取り替える)」ことも、現世を棄てて来世へ行くことも、どちらでも選択することが可能だったのだ。

「値打ちがあるかどうかは問題じゃない。しかし、これだけは知っておいてもらわなくてはならないぞ! 死後の人生は甲斐性のない貧しい連中のものではない。たとえ彼らにどんな値打ちがあるにしてもだ。なんといっても、ポケットには金をもち、死後も自分の魂が行進しつづけるのを知っている頭のいい人間のものなんだ」(ロバート・シェクリイ「不死販売株式会社」福島正実・訳)

「精霊交換局」では、死んだ人間と会話をすることができた。

魂の抜けた時間の長い肉体に魂が宿ると、ときに「ゾンビイ」が生まれた。

「ポルターガイスト」に襲われ、自殺志願者の「狩り(ハント)」に参加し、「自我移植ゲーム」の案内人に甘い話を持ちかけられる。

2110年、「生」と「死」の観念は、1958年と大きくかけ離れていたのだ。

時間旅行と心霊現象がセットになったSF小説

シェクリイの「不死販売株式会社」は、1958年から2110年へとタイム・スリップしたトマス・ブレインを主人公としたSF小説である。

この小説の特徴は、タイム・スリップするのは、主人公の「心」だけであり、主人公の肉体は、1958年において死んでしまうという点だろう。

2110年の世界では、死後の世界である「来世」が科学的に証明されており、裕福な人々は「来世保険」に加入することで、来世行きの切符を手に入れることができる。

「来世」とは「第二の人生」のことだから、「来世」が約束された人々は、もはや「死」を恐れることはなくなった。

また、裕福な人々は、健康な肉体を買い求めて、心だけ入れ替える「再生」を選択することも可能だった。

「来世」を選んでも「再生」を選んでも、自分の「心」は永遠に生き続けることができる。

つまり、人々は「不死」を手に入れることが「科学的に」可能とされていたのである。

ブレインはなによりも憐みを覚えた。科学的来世はその理想どおりには人間を死の恐怖から解放してはいない。それどころか、ますます疑惑を深め、競争心をあおる結果になっている。人間は、来世の保証が得られると、つぎにはだれよりも来世の生活を楽しむために、その改善を望むのだ。(ロバート・シェクリイ「不死販売株式会社」福島正実・訳)

「不死」を手にした世の中では、当然「生命」の持つ重さが、過去の時代とは大きく異なっていた。

本作は、単なるタイム・スリップ小説というよりも、「不死」を手に入れた世の中で、人々はどのように生きるか、ということにポイントを置いて構成されている、なかなか深みのある作品と言えるだろう。

時間旅行と心霊現象がセットになったSF小説と言うこともできるかもしれない。

ところで、本作「不死販売株式会社」は、中学生の頃に、あかね書房「少年少女世界SF文学全集」で読んだことがあるのだけれど、子ども向け抄訳の方がおもしろかったような気がするのはどうしてだろう?

書名:不死販売株式会社
著者:ロバート・シェクリイ
訳者:福島正実
発行:1992/4/15
出版社:ハヤカワ文庫

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。