生活体験

創刊75年記念『夏の岩波少年文庫フェア2025』特製アクリルキーホルダーが届いた

創刊75年記念『夏の岩波少年文庫フェア2025』特製アクリルキーホルダーが届いた

創刊75年記念『夏の岩波少年文庫フェア2025』応募者全員プレゼントの「特製アクリルキーホルダー」が届いた。

昨年のケストナーに続き、今年は、アストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』とマリー・ハムズン『小さい牛追い』の表紙イラストがモチーフとなっている。

ノルウェーの牛飼い・ハムズン夫人

マリー・ハムズン『小さい牛追い』は、1950年(昭和25年)12月25日に最初の岩波少年文庫が出版されたときの創刊リストに加わっている。

翻訳は、石井桃子だった。

当時のことは、岩波少年文庫70年を記念して刊行された『岩波少年文庫のあゆみ』(2021)に詳しい。

入社した石井は、すでに翻訳されていた『宝島』『クリスマス・キャロル』『あしながおじさん』に、日本初訳となるケストナーの戦後の新作『ふたりのロッテ』と、農作業の合間に自身で訳していた『小さい牛追い』を加えた創刊の5冊を、12月25日のクリスマスに世に送り出した。(若菜晃子「岩波少年文庫のあゆみ」)

訳者である石井桃子には、牛飼いに対する強い思い入れがあったらしい。

創刊当初の少年文庫の編集を担った石井桃子は、当時宮城県の鶯沢で農業を営んでおり、東京と宮城を行き来しながら働いていた。(略)乳牛エルシーをかわいがり、『ノンちゃん雲に乗る』で得た印税をノンちゃん牧場の経営につぎこみ、乳業組合まで立ち上げた石井は、少年文庫の創刊5冊に『小さい牛追い』を自ら訳して入れ、牛が主人公の絵本『くいしんぼうのはなこさん』を書いた。(若菜晃子「岩波少年文庫のあゆみ」)

当時の生活を、石井桃子は振り返っている。

山では乳牛を飼ってまして、牛乳を搾って牛乳屋さんに持っていくんですが、非常に安い値段で買いたたかれるわけなんです。そこで村の人たちと酪農組合をつくろうということになって、そのころ、そのことに夢中になっていました。(石井桃子「『岩波少年文庫』創刊のころ」)

「小さい牛追い」は、あるいは、石井桃子自身だったのかもしれない。

『小さい牛追い』を書いたマリー・ハムズンは、1920年(大正9年)にノーベル文学賞を受賞したノルウェーの作家(クヌート・ハムズン)の夫人である。

ハムズン夫人は、ハムズン家の子どもたちをモデルに書いた物語『村のこどもたち』を1932年(昭和7年)に出版した。

おかあさんが牛小屋でいそがしく働いているあいだ、家のなかでいろんなものを用意する役目をひきうけたのは、オーラでした。オーラは、コーヒーのしたくをし、コーヒーわかしがふつふついってきたら、こぼれないように番をするのでいそがしくしていました。いっぽう、若き牛追い、エイナールもまたいそがしく、あらゆる種類のたべもの、つまりいろいろなパンやバタや、チーズや、そのほか牛乳のびんなどをナップザックにつめこんでいました。(マリー・ハムズン「小さい牛追い」石井桃子・訳)

ノルウェー語の翻訳ができなかった石井桃子は、アメリカで出版された『A Norwegian Farm』の前半を『小さい牛追い』として、後半を『牛追いの冬』として訳したらしい。

『小さい牛追い』は1950年(昭和25年)に、『牛追いの冬』は1951年(昭和26年)に、どちらも岩波少年文庫から刊行されている。

日本人画家のイラストだった『長くつ下のピッピ』

『夏の岩波少年文庫フェア2025』応募者全員プレゼントの「特製アクリルキーホルダー」2種類『夏の岩波少年文庫フェア2025』応募者全員プレゼントの「特製アクリルキーホルダー」2種類

アストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』は、1945年(昭和20年)にスウェーデンで出版された児童文学である。

国際的に著名な作家(リンドグレーン)の最初のヒット作であり、後に代表作ともなる作品が『長くつ下のピッピ』だった。

このピッピの物語を書いたアストリッド・リンドグレーンは、いまスウェーデンきっての人気作家であるだけでなく、世界でもっとも注目される児童文学作家のひとりです。彼女は、一九〇七年十一月、スウェーデンの南西部にある、人口四千数百のヴィンメルビューで生まれました。そののち、小学校の先生や事務員をしたりしながら、文学の道にはいり、みじかい読みものを新聞などに寄稿していましたが、そのうちに、この『長くつ下のピッピ』が生まれたのです。(大塚勇三「長くつ下のピッピ」訳者のことば)

岩波少年文庫に入ったのは、1990年(平成2年)になってからである。

『長くつ下のピッピ』の物語は、1941年の冬、熱を出した7歳の娘に聞かせるために思いついたという。第二次大戦終結後の45年11月に刊行され、岩波書店では64年に「リンドグレーン作品集」の最初の一冊として翻訳出版された後、90年に少年文庫に入った。(若菜晃子「岩波少年文庫のあゆみ」)

特製アクリルキーホルダーのモチーフとなっている表紙デザインは、日本人画家(桜井誠)の作品だった。

明治末生まれの桜井は昭和初期に洋画を学び、作家宇野千代が創刊した日本初のファッション誌『スタイル』に挿絵を描き、挿絵画家の道を歩み始めた。戦後は児童書や教科書などの挿絵を数多く手がけたが、そのひとつが『長くつ下のピッピ』だった。(若菜晃子「岩波少年文庫のあゆみ」)

海外への渡航経験のない桜井誠にとって、北欧の女の子を描く作業は簡単なものではなかった。

桜井自身に海外旅行の経験はなく、「桜井は、海外の物語の絵を描くために、いつも徹底的に資料にあたり、(略)膨大な写真を貼り付けたスクラップ帳を作っていた。翻訳を読みこなした後、状況をつぶさにチェックするために原書にあたる姿も時おり見られた(宮内ちづる他「世界中で愛されるリンドグレーンの絵本」ふくやま美術館)」という。(若菜晃子「岩波少年文庫のあゆみ」)

今、日本の「ピッピ」は、桜井誠デザインの「ピッピ」である。

「世界一つよい女の子」の看板をひっさげて、ピッピは100カ国以上の子どもたちに愛されてきた。初版以来本国で挿絵を描いたイングリッド・ヴァン・ニイマンによる、赤毛で丸顔のピッピが世界中の国々で親しまれ、岩波書店でも2018年に「リンドグレーン・コレクション」で採用されているが、日本のピッピは、幻想的に過ぎることなく、隣に立っている親しい女友だちのように現実味のある、かっこいい存在として、長い間読者の心のなかのごたごた荘に住んでいる。若菜晃子「岩波少年文庫のあゆみ」)

リンドグレーン・コレクション『長くつ下のピッピ』では、新訳とともに、スウェーデン語初版挿絵を楽しむことができる。

書名:岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020
編著:若菜晃子
発行:2021/03/12
出版社:岩波書店(岩波少年文庫)

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懐究堂主人
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。