音楽

ブレッド&バター『君がいた夏 (セイラリエス)』充実していた青春の延長線上で生き続ける大人たちに送るメッセージ

ブレッド&バター『君がいた夏 (セイラリエス)』充実していた青春の延長線上で生き続ける大人たちに送るメッセージ

ブレッド&バターのシングル・コレクションが発売されるらしい(既に予約済みですが)。

デビューから55年記念ということで、ブレバタも、すっかりとベスト盤だけのミュージシャンとなった感がある(それはそれで別に悪いことではないのだけれど)。

なにしろ、最後のシングル曲『ピンク・シャドウ』の発売が1998年(平成10年)。

オリジナル曲ということでは、1994年(平成6年)の『LONDON-PARIS-NEW YORK-湘南』が最後というから、既に30年も昔の話だ。

主人公の誇りと小さな後悔を読み取る

ちなみに、自分のいちばん好きだったシングル曲は、1991年(平成3年)発売の『君がいた夏 (セイラリエス)』。

湘南ブランド「SEILALIES」イメージソングの表記がある。

憶えているかい? 波の具合を
毎朝 眺めた 歩道橋を
嵐の後は バイト抜け出し
ペダル急がせ 海に行ったね

風が歌った あのメロディ
抱えきれない 夢のかけら
うかれ騒いだ 長い夜
そして「君」がいた

時間(とき)がたっても 生き方だけは
変わりはしないと信じてきた

(ブレッド&バター「君がいた夏 (セイラリエス)」)

湘南の青春を簡単にスケッチしただけの曲なのに、大人のノスタルジーを刺激する何かが、この曲にはある。

「バイト抜け出し/ペダル急がせ/海に行ったね」とあるところが、等身大の青春っぽくていい。

地元の少年たちは、自転車で海岸通りを疾走できたのだ。

「抱えきれない/夢のかけら/うかれ騒いだ/長い夜」は、謳歌した青春の日のひとコマを象徴するフレーズ。

「抱えきれない夢のかけら」が、後悔のない青春時代を暗示している。

そして、そこには「君がいた」のだ。

逆に言えば、現在、「君」はもういない。

あの頃の「夢のかけら」の中に、「君」の姿も紛れこんでしまったのだろう(切ないけれど)。

「時間がたっても/生き方だけは/変わりはしないと信じてきた」のようなフレーズが入ると、たちまちブレバタっぽくなる(♪あの頃のままさ~)。

時の流れの中で、いろいろなことが変わったけれど、自分の生き方だけは変えたりしなかった。

そこに、主人公の誇りと、小さな後悔が感じられる。

「君がいた夏」があったから、今を頑張ることができる

本作『君がいた夏 (セイラリエス)』は、作詞:MANNA(マナ)、作曲:岩沢幸矢の、夫婦コラボ作品だ。

忘れはしない あのメロディー
歌いつづける 陽射しのリフレイン
気ままにすごす まぶしさは
君が おしえてくれた

終わらぬ夏の あのメロディー
誰もが今も 待ち続ける
昔話と 笑うかい
けれど「君」はずっと

暑い陽射しの中
僕を見つめていて
暑い陽射しの中
どうか見つめていて

(ブレッド&バター「君がいた夏 (セイラリエス)」)

「終わらぬ夏の/あのメロディー/誰もが今も/待ち続ける」は、青春の日の復活を待ち続ける、大人たちの祈りだ。

「昔話と/笑うかい」と、主人公は「君」に問いかける。

逆説的に、それは、「昔話じゃないんだ」という主人公の熱い思いを示すものとなっている。

なぜなら、その後に「けれど「君」はずっと」というフレーズが続くからだ。

「君」のいない湘南の海で、主人公は、暑い陽射しの中に「君」の存在を感じ続けている。

一緒に青春を過ごした湘南の風景に、「君」は既に溶け込んでしまっているのだろう。

この歌は、単純に昔を振り返るだけの、懐古趣味的な青春ソングではない。

「君」のいた過去を思い出しながら、主人公は先へ進もうとしている。

「君」と過ごした青春の日々が、主人公にとって、大きな励みとなっているのだ。

不器用な主人公は、大人になった今も、あの頃と同じように、生き続けていこうとしている。

そして、今はいない「君」もきっと、どこか遠くの街で、主人公を応援してくれているのではないだろうか。

少なくとも主人公は、「君がいた夏」があったからこそ、今を頑張ることができている。

それは、充実した青春の延長線上で生きる、大人の現状認識だ。

本作『君がいた夏 (セイラリエス)』は、大人に向けて発信された、爽やかな応援ソングである。

「暑い陽射しの中/どうか見つめていて」という最後のフレーズは、主人公の覚悟を象徴したものと読んでいいんだろう。

こういう爽やかな応援ソングが、ブレッド&バターには似合っていた。

アレンジは、フィフス・アベニュー・バンドのマレー・ウェインストックで、ニューヨーク・サウンドのブレッド&バターを楽しみたい。

アルバムでは、ニューヨーク三部作の2作目となる『水の記憶』に収録されている。

カップリングは、ヤマザキ「ダブルソフト」CMイメージ曲の『IF』(英語バージョン)。

そういえば、今回のシングル・コレクションでは、カップリング曲の収録がなかった。

デビュー60周年記念は、カップリング曲のコンプリート・ベスト盤かな?

ABOUT ME
みつの沫
バブル世代の文化系ビジネスマン。源氏パイと庄野潤三がお気に入り。