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『華麗なるギャツビー』サントラで読み解くジャズ・エイジ(1920年代)と音楽的世界観

『華麗なるギャツビー』サントラで読み解くジャズ・エイジ(1920年代)と音楽的世界観

『ミュージック・フロム・バズ・ラーマンズ・フィルム 華麗なるギャツビー』は、2013年(平成25年)に公開された映画『華麗なるギャツビー』の、オリジナル・サウンドトラックCDである。

原題は『Music from Baz Luhrmann’s Film The Great Gatsby』。

バズ・ラーマンとジェイ・Zのコラボ

バズ・ラーマン監督『華麗なるギャツビー(2013)』は、原作者フィッツジェラルドによって「ジャズ・エイジ」と呼ばれた時代を、現代的な音楽で表現した映画だ。

なにしろ、エグゼクティブ・プロデューサーが、ラッパーのジェイ・Zである(ビルボード「史上最も偉大なラッパー」第1位)。

ジェイ・ギャツビーが生きた1920年代のジャズが、ヒップホップによって転換された音楽的世界観は、衣装担当のブルックス・ブラザーズとともに、この映画の眼目の一つだった(とにかく話題の多い映画だったのだ)。

「バズ、レオナルドと話して、すぐに、これこそがやるべきプロジェクトだと確信した。『華麗なるギャツビー』は、過度の贅沢、頽廃、幻想を目の当たりにする1人の男を描いたアメリカの古典だからね」(ジェイ・Z『ミュージック・フロム・バズ・ラーマンズ・フィルム 華麗なるギャツビー』)

ジェイ・Zの音楽には、バズ・ラーマン監督だけではなく、主演のレオナルド・ディカプリオも大きな関心を持っていたらしい。

監督とディカプリオは、ジェイ・Zとカニエ・ウェストがコラボレーション・アルバム『Watch The Throne』のために「No Church In The Wild」をレコーディングした際には、スタジオにも同席したのだそうだ。この曲は、映画の最初の予告編に使われている。(山下紫陽『ミュージック・フロム・バズ・ラーマンズ・フィルム 華麗なるギャツビー』解説)

さらに、The Bullitts(ザ・ブリッツ)のジェイムス・サミュエルも、ジェイ・Zとともに、映画音楽の制作総指揮を務めた。

バズ・ラーマン監督とジェイ・Z、そして、ジェイムス・サミュエルが作りだした1920年代は、間違いなく、映画『華麗なるギャツビー(2013)』における世界観の根幹となっている。

本作『ミュージック・フロム・バズ・ラーマンズ・フィルム 華麗なるギャツビー』は、華麗なるジャズ・エイジを音楽で追体験することのできる、貴重なオリジナル・サウンドトラックなのだ。

以下、注目のナンバーを紹介していきたい。

ジャズ・エイジをヒップホップに転換した世界観

1曲目は、エグゼクティブ・プロデューサーを務めたジェイ・Zの『100$Bill』(100ドル札)。

未だに1929年
マーク・トウェインみたいにライムを書き、
ジェイ・ギャツビーみたいに高級車を停める

黄色い車、
スリック・リックみたいなイエローゴールド
今でも1984年製のリムをつけ、車を流してる

(ジェイ・Z「100$Bill」押野素子・訳)

ギャツビーの1920年代を象徴するようなラップ・ナンバーはさすが(「世の中はすべて金だって分かってるくせに」)。

2曲目は、エイミー・ワインハウス『バック・トゥ・ブラック』を、アンドレ3000(アウトキャスト)とビヨンセ(ジェイ・Zの嫁)がカバーしたもの。

彼は後悔する間さえ与えない
アソコを濡らしたまま
いつも通りの安全なやり方で
私は顔を上げたまま
涙も乾ききって
男なしでコトを済ます

(ビヨンセ×アンドレ3000「バック・トゥ・ブラック」)

ギャツビーの過去を振り返る場面にマッチしている(「そして私は暗闇へ戻るのよ」)。

3曲目は、ラナ・デル・レイ『ヤング・アンド・ビューティフル』。

私が若さと美貌を失っても
愛し続けてくれる?
私に残されたものが痛む心だけでも
愛し続けてくれる?

(ラナ・デル・レイ「ヤング・アンド・ビューティフル」)

本映画のキックオフ・シングルとしてリリースされたこの曲は、ギャツビーの元カノ(デイジー)の気持ちを投影したものとなっている(なにしろ「若さと美貌」だ)。

4曲目『ラヴ・イズ・ブラインドネス』は、U2の「Love Is Blindness」を、ジャック・ホワイトがカバーした作品。

恋は盲目 見たくない
僕の周りを夜で包んでくれないか?
僕の心をつかんでおくれ
恋は盲目

(ジャック・ホワイト「ラヴ・イズ・ブラインドネス」)

「恋は盲目」という言葉は、主人公(ジェイ・ギャツビー)にぴったりなんだろうな(「お金を受け取って、ねえ君、盲目なんだ」)。

5曲目『クレイジー・イン・ラブ』(エミリー・サンデー・アンド・ザ・ブライアン・フェリー・オーケストラ)は、1920年代の雰囲気を醸し出した作品。

原曲は、ビヨンセ Feat. ジェイ・Zの大ヒット曲だが(アルバム『Dangerously in Love』収録)、ジャズ・エイジの浮かれた雰囲気を表現する曲へと変換された。

映画では、ギャツビーが(ニックの自宅で)デイジーと再会した場面で流れている。

6曲目『バン・バン』(ウィル・アイ・アム)は、1920年代のダンス・ミュージック(チャールストン)をハウス的に昇華している。

フラッパーな女の子たち(1920年代のモダンガール)が踊りまくるパーティー・シーンで使われていた曲で、『華麗なるギャツビー(2013)』を代表するアップ・ナンバーだ。

8曲目『ア・リトル・パーティー・ネヴァー・キルド・ノーバディ(オール・ウィー・ゴット)』(ファーギー+Qティップ+グーンロック)も、チャールストンをヒップホップに転換した作品。

たくさんのダイアモンドに
世界を巡る旅
私をモノにできなければ
何の意味もないからね

一晩だけ
それが私達に与えられた時間

(ファーギー+Qティップ+グーンロック『アイ・ライク・ラージ・パーティーズ』押野素子・訳)

ギャツビーの豪邸で開催される派手なパーティー・シーンで使われており、映画『華麗なるギャツビー(2013)』の世界観を象徴するナンバーとなっている。

『華麗なるギャツビー』オリジナル・サントラ。不気味な円盤はエックルバーク博士の看板。『華麗なるギャツビー』オリジナル・サントラ。不気味な円盤はエックルバーク博士の看板。

9曲目『ラブ・イズ・ザ・ドラッグ』(ブライアン・フェリー・ウィズ・ザ・ブライアン・フェリー・オーケストラ)は、ブライアン・フェリーの1975年(昭和50年)のヒット曲をカバーしたもの。

ザ・ブライアン・フェリー・オーケストラ『The Jazz Age』(2012)には、この曲のインストゥルメンタル・バージョンが収録されていた。

なにしろ、「ジャズ・エイジ」なので、『ギャツビー』にもぴったり。

11曲目『ハーツ・ア・メス』は、ゴティエのシングル曲で、セカンド・アルバム『Like Drawing Blood』(2006)に収録されている。

12曲目『ホェア・ザ・ウインド・ブロウズ』は、ココ・O・オブ・クアドロンの作品で、本作映画のためのオリジナル曲だった。

14曲目『ノー・チャーチ・イン・ザ・ワイルド』は、カニエ・ウェストとジェイ・Zのコラボ・アルバム『Watch The Throne』に収録された作品で、本作映画の最初の予告編にも使用された。

15曲目『オーヴァー・ザ・ラヴ』は、フローレンス・アンド・ザ・マシーンのバラード・ナンバー。

私の瞳に緑の灯が映り
私の心には愛するあの人が浮かぶ
そして私はピアノから歌い
黄色いドレスを引きちぎると
涙に暮れる、泣きはらすの

(フローレンス・アンド・ザ・マシーン「オーヴァー・ザ・ラヴ」押野素子・訳)

「私の瞳に緑の灯が映り」は、もちろん、ギャツビーの「緑の灯」を投影したものだろう。

16曲目『トゥギャザー』(ザ・エックス・エックス)も、ギャツビーが見つめる「緑の灯」の点滅に、リズム感がマッチしている。

僕は必ず行くよ
時と場所を行ってくれ
そこに行くから

(ザ・エックス・エックス「トゥギャザー」)

デイジーを想うギャツビーの切なさを、この曲から感じることができるのではないだろうか。

17曲目『イントゥ・ザ・パスト』を歌ったネロは、バズ・ラーマン監督のファンであり、フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』のファンでもあったという。

18曲目『キル・アンド・ラン』は、シーア・ファーラの作品で、クリス・ブレイドがプロデュースしている。

全体を通した感想としては、フィッツジェラルドによって「ジャズ・エイジ」と名付けられた時代のドライブ感が、ヒップホップの要素を加えることで、現代的に昇華されているところがいい(なにしろ、1920年代の物語なのにラップが入っている)。

それは、1920年代という浮かれた時代が持っていた(ある意味で日本のバブル時代のような)漲るエネルギーを再現するために、あるいは、必要不可欠な作業だったのかもしれない。

音楽と映像が有機的にリンクしている『華麗なるギャツビー(2013)』は、もはや、音楽映画と呼ぶこともできるのではないだろうか。

映画を離れて、純粋に音楽を楽しむためのCDとしてもおすすめ。

ABOUT ME
みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。