文学鑑賞

ヒュー・ロフティング「ドリトル先生航海記」インディアンの漂流島で王様になる

ヒュー・ロフティング「ドリトル先生航海記」あらすじと感想と考察

ヒュー・ロフティング「ドリトル先生航海記」読了。

動物と会話ができるドリトル先生の元へ、10歳の少年トミー・スタビンズが弟子入りにやってきた。

スタビンズは、ドリトル先生のような素晴らしい博物学者になりたいと考えていたのだ。

物語は、新しくドリトル先生の助手となったスタビンズの視点によって綴られていく。

まるで、名探偵シャーロック・ホームズとワトソン博士のような構図だが、ドリトル先生の活躍が、スタビンズの驚きと尊敬の眼差しをベースとする一人称によって生き生きと描かれていくところが楽しい。

その頃、ドリトル先生は、世界でいちばんえらいと評判の博物学者「ロング・アゴー」を探すため、長い航海に出ることを計画していたので、船の乗組員として「世捨て人ルカ」をスカウトに行くが、なんと世捨て人ルカが殺人の罪で逮捕されてしまった。

世捨て人ルカの愛犬「ボッブ」から事件の真相を聞き出したドリトル先生は、裁判で大活躍をするのだが、世捨て人ルカは航海へ行くことができない。

困ったところに現われたのが、かつてアフリカ旅行をした時に知り合ったジョリギンキの王子「カアブウブウ・バンポ」だった。

心も通い合っている力強い仲間バンポを加えて、ドリトル先生の航海がようやく始まるが、平穏だった船旅は密航者とトラブルを起こしたり、スペインで闘牛に参加したり、大嵐に巻き込まれたりと、波乱万丈の末にようやく目的の漂流島「クモサル島」に到着する。

2種族のインディアンが対立するクモサル島で、ドリトル先生は行方不明になっていた伝説の博物学者「ロング・アゴー」と再会するが、インディアン同士の戦争に巻き込まれて、とうとうクモサル島の王様にまでなってしまう。

博学のオウム「ポリネシア」、忠犬「ジップ」、家政婦のアヒル「ダブダブ」、アフリカから帰国したサルの「チーチー」など、レギュラーメンバーは、今回も大活躍。

そして、紫ゴクラクチョウの「ミランダ」、カブトムシの「ジャビズリー」、水族館から逃げ出した「フィジット」と「クリッパ」、世界でただ一匹の「大ガラス海カタツムリ」といった個性豊かな動物たちが次から次へと登場して、物語を盛り上げてくれる。

ほのぼのと温かくて、優しいユーモアに満ち溢れていて、未知の世界の扉を開くワクワクがあって、何が起こるか分からないドキドキがある。

これはまさしく「感動と冒険のファンタジー小説」だ。

児童文学の古典らしい井伏鱒二の翻訳

『ドリトル先生航海記』は、全13作あるドリトル先生シリーズの第2作目の作品で、最初に発表されたのは1922年(大正11年)。

日本では、戦後の1952年(昭和27年)に、井伏鱒二の役によって講談社から刊行されている。

1作目である『ドリトル先生アフリカ行き』との最大の違いは、スタビンズ少年の一人称によって描かれていることだろう。

ドリトル先生の活躍が、10歳の少年の冒険物語となっているから、読者が一層感情移入しやすいようになっている。

戦後の出版とは言え、井伏鱒二の訳はさすがに古臭くて、そこに児童文学の古典らしいアジがある。

ナイチンゲールを「夜ウグイス」と訳していたりするし、たびたび登場する「もうせん」という言葉は「以前は」という意味を持つものらしい。

印象的なのは、南の島から帰国した一行が、冷たい秋雨がしとしと降るイギリスへ到着したときにドリトル先生が仲間たちに語りかける言葉。

「故郷のこんないやな天気でも、なんとなくよいものだよ。台所で火が待ってくれていると思えばね」

こんなところにもイギリス文学らしさがあるのだと思った。

書名:ドリトル先生航海記
著者:ヒュー・ロフティング
訳者:井伏鱒二
発行:1960/9/20
出版社:岩波少年文庫

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。