週末の朝は喫茶店にいることが多い。
空間を変えることで、いつもの文庫本も新しい気持ちで読むことができるような気がするから。
「アトリエ・モリヒコ」も、そんな読書カフェのひとつだった。
電車通りのカフェ「アトリエ・モリヒコ」
「アトリエ・モリヒコ」は、電車通りにある。
窓際のテーブル席に座ると、札幌の市電がゴトゴト通り過ぎていく様子を、静かに見送ることができる。
最近は観光客が多くなって、窓際のテーブル席はグループ専用になってしまった。
いつからだろう?
日常生活の中に、観光客が多く入りこむようになったのは。
札幌は、すっかりと観光客の街だ。
そして「アトリエ・モリヒコ」も、今は観光客のためのカフェとなりつつある。
「アトリエ・モリヒコ」のモーニング
中央の大きなテーブル席に座って、モーニング・コーヒーとバタートーストを注文する。
かつて人気だったフルーツサンドも、今はもうない。
モーニングの観光客が食べているのは、バタートーストかタコスのホットサンドか、だ。
朝イチだというのに、店は観光客で賑わっている。
ゆっくりと流れる時間。
ここでは、時間の流れを気にする客はいない。
「一日の始まりをのんびり過ごしたい」と考えている客だけが、この店には集まっているのだ。
スタッフがオーダーを取りに来るまでの時間、僕は文庫本を開いて、続きのページを読み始める。
「アトリエ・モリヒコ」とメルヴィル『白鯨』
朝カフェには一人客が多いものだ。
しかるに「アトリエ・モリヒコ」では、朝から気心の知れた仲間たちが集まっている。
窓際テーブル席の男女混合グループ、外国人の観光ファミリー、中央テーブルに座った夫婦。
カップルがいて、男性同士の客がいて、女性同士の客がいる。
楽しい笑い声、驚きの喚声、励まし合う響き。
賑やかな会話に包まれて、僕は買ったばかりの岩波文庫を読んでいる。
メルヴィルの『白鯨』。
やがて、コーヒーとトーストが運ばれてきて、僕は本を閉じた。
「アトリエ・モリヒコ」のバタートースト
普段の朝にはパンを食べない。
(普段の朝に食べるのは、季節のフルーツとヨーグルトだけだ)
週末のパンは、僕にとってひとつの切り替えスイッチなのかもしれない。
オンとオフを切り替える、ライフスタイルのスイッチ。
「さあ、これから休みが始まるんだぜ」と、自分に言い聞かせるようにして、僕はトーストを食べる。
「アトリエ・モリヒコ」のバタートーストは、上品な都会みたいな味がした。
カフェ森彦|季節のコーヒー「彦星2026」
モーニング・コーヒーは「彦星2026」。
森彦らしい苦みのある深煎りコーヒーではない、すっきりと爽やかなコーヒー。
そういえば、森彦は果実味のコーヒーが得意だった。
今年で30周年を迎えたという老舗カフェ「MORIHICO.」。
ほんのりピーチの香りを感じながら、僕はメルヴィルの『白鯨』を読み続ける。
ゆっくりと通り過ぎていく時間。
「アトリエ・モリヒコ」とコラリー・クレモン
そのとき、BGMの音楽がコラリー・クレモンに変わった。
2000年代に流行した、懐かしのフレンチ・ポップス。
僕が初めてコラリー・クレモンを聴いたのも、やはり「森彦」だった(円山にある古民家カフェ)。
モーニングのメニューが変わり、訪れる客の雰囲気も変わったけれど、どうやら「森彦」はやはり「森彦」のままだったらしい。
コラリー・クレモンの「A l’occasion tu souris」を聴きながら、僕はかつて「アトリエ・モリヒコ」で過ごした時間のことを考えている。
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「アトリエ・モリヒコ」から始まる朝
気がつくと、店の入り口には、空席を待つ観光客が並び始めていた。
追われるようにして、僕は席を立つ。
メルヴィルの『白鯨』を読み終えるだけの時間は、ここにはない。
札幌の空は、どんよりと曇り空だった。
雨の三連休が始まろうとしている。
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