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サリンジャーの小説はどの順番で読むべき?おすすめ作品と翻訳の違いを徹底解説

サリンジャーの小説はどの順番で読むべき?おすすめ作品と翻訳の違いを徹底解説

読んだことがありそうで、意外とない作家。そんな作家にサリンジャーが入りませんか?

『ライ麦畑でつかまえて』という絶対的な代表作を持ちながら、意外と「サリンジャーを詠んだことがない」という人は少なくありません(僕の周りにもたくさんいます)。

僕は高校生の頃からサリンジャーが大好きで、野崎孝・訳の『ライ麦畑でつかまえて』はもちろん、日本で発売されたほぼすべてのサリンジャー作品(の翻訳)を読んできました。

今回は「これからサリンジャーを読みたい」という方のために、サリンジャー作品の読む順番とおすすめの小説をご紹介したいと思います。

サリンジャーってどんな作家?

はじめに、サリンジャーの基本情報を確認しておきましょう。

サリンジャーの生涯を知っておくと、サリンジャーの小説を読む際の役にも立つからです。

作家デビューするまで

J.D.サリンジャー(ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー)は、1919年1月、アメリカ・ニューヨークのマンハッタンで生まれました。

通常「J.D.サリンジャー」と、ファーストネームとミドルネームをイニシャルで表記することが多いのは、自身がユダヤ系であることを隠すためだったと言われています。

リトアニア系ユダヤ人の父親と、スコットランド=アイルランド系カトリック教徒の母親との間に生まれたサリンジャーは、生まれながらにして民族的・宗教的な葛藤を抱えていました。

学校生活に馴染むことができず、転学を繰り返しますが、コロンビア大学で文芸誌『ストーリー』の編集長ホイット・バーネットと出会ったサリンジャーは、創作の世界に目覚めます。

ホイット・バーネットは、過去にトルーマン・カポーティやノーマン・メイラーなどを発掘したことで知られる、腕利きの編集者でした。

第二次世界大戦と『ライ麦畑でつかまえて』

大学在籍中の21歳のとき、ホイット・バーネットに認められて、短編小説「若者たち」で『ストーリー』にデビュー。

新人作家として短編小説が文芸誌に掲載されるようになりますが、1942年、徴兵によりアメリカ合衆国陸軍へ入隊したサリンジャーは、第二次世界大戦(ヨーロッパ戦線)で過酷な戦いを強いられます。

ナチス・ドイツ軍と戦かった、このときの体験は、サリンジャーの一生を運命づけるものでした。

1950年、帰国後に発表した初めての長編小説『ライ麦畑でつかまえて』が爆発的なベストセラーとなり、サリンジャーは戦後文学界のスターとなります。

現在、終戦直後に執筆された『ライ麦畑でつかまえて』には、サリンジャーの戦争体験が色濃く反映されていると考えられています。

謎の隠遁生活

『ライ麦畑でつかまえて』で一躍スターとなったサリンジャーは、注目を浴び続ける人気作家の生活に耐えることができず、ニューハンプシャー州南西部コーニッシュの小さな村で隠遁生活に入ります。

それでもサリンジャーの小説は、特に若者たちから支持を受け続け、短編集『ナイン・ストーリーズ』、中編小説『フラニーとズーイ』などの名作を残しました。

やがて、一般社会とのコミュニケーションを拒否し続ける中、サリンジャーの小説も難解度を増していき、1965年6月に『ニューヨーカー』に掲載した『ハプワース16、一九二四』を最後に、サリンジャーは二度と作品を発表することはありませんでした。

ジョン・レノン暗殺事件と『ライ麦畑でつかまえて』

マスメディアから姿を消した後も、サリンジャーは「伝説の作家」であり続けました。

1980年には『ライ麦畑でつかまえて』を持った若者(マーク・デイヴィッド・チャップマン)が、元ビートルズのジョン・レノンを射殺。

1981年にも『ライ麦畑でつかまえて』の愛読者だった若者(ジョン・ヒンクリー)が、ロナルド・レーガン大統領を銃撃する事件が発生しています(暗殺未遂事件)。

彼らは、いずれも『ライ麦畑でつかまえて』の主人公(ホールデン・コールフィールド)に大きな影響を受けており、『ライ麦畑でつかまえて』が危険な小説であるという認識は、その後も続きました。

2010年1月、サリンジャーは、コーニッシュの自宅にて、老衰のため他界。

『ライ麦畑でつかまえて』で人気作家となって以降、徹底的に社会との断絶を貫いた、91年間の孤独な人生でした。

サリンジャーの全著作リスト

本国アメリカで、サリンジャーはたった4冊の本しか出版していません。

①The Catcher in the Rye(1951)
②Nine Stories(1953)
③Franny and Zooey(1961)
④Raise High the Roof Beam, Carpenters, and Seymour:An Introduction Stories(1963)

なので、サリンジャーの小説を読むということは、上記4冊の本を読むということが基本になります。

いずれも、複数の日本語訳が出版されているので、自分の好きな翻訳を選ぶことができますが、各作品の翻訳については、後ほどご紹介したいと思います。

加えて、本国アメリカで雑誌や新聞に発表されながら書籍化されることのなかった作品が、日本では「日本オリジナルの作品集」という形で何度か出版されました。

最近では、金原瑞人さんによる翻訳が2冊出版されているので、これからサリンジャーを読むという人には、こちらも選択肢に入ってくるでしょう。

・『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』
・『彼女の思い出/逆さまの森』

なお、2026年7月には、柴田元幸さんによる『サリンジャー初期短篇全集』(河出書房新社)の発売も予定されています。

サリンジャーファンには、こちらも楽しみな情報ですね。

サリンジャーの小説の読む順番

サリンジャーは、基本的に出版順に読むことがおすすめです。

なぜなら、サリンジャーの小説は、時代を追うごとにどんどん難解になっていくという特徴があるからです。

仮に、初めてサリンジャーを読む人が、一番最後に発表された小説「ハプワース16、1924年」からデビューした場合、ほとんどの人は「意味不明」「何を言いたいのか分からない」と言って途中で投げ出してしまうことでしょう。

しかし、サリンジャーの小説を順番に読んでいった読者にとって、「ハプワース16、1924年」は決して退屈な小説ではありません(少なくとも僕はそう考えています)。

要は、サリンジャーの小説は「読む順番」が大切ということです。

ここからは、サリンジャーの小説の読む順番をご紹介していきたいと思います。

①『ライ麦畑でつかまえて』

「これからサリンジャーを読む」という方に、まずおすすめしたいのは、サリンジャーの代表作『ライ麦畑でつかまえて』です。

なぜなら、サリンジャー唯一の長編小説であるこの作品には、サリンジャーのすべてが詰まっていると考えることができるからです。

あらすじとしては、学校を退学となった高校生男子が、クリスマス直前のニューヨークの街を徘徊するという家出少年物語ですが、この物語には安易な再生や社会との和解などという甘っちょろい結末は書かれていません。

社会とのズレを抱えて生きていかなくてはならない主人公(ホールデン・コールフィールド)の「生きづらさ」に、時代や国境や年齢を超えた多くの読者が共感を寄せてきました。

生きづらさ満載の令和日本において、なお、この作品は現代性を保ち続けています。

翻訳は、次の2種類があります。

訳 者 日本語の書名 特 徴
野崎 孝 ライ麦畑でつかまえて 日本の定番、古い若者言葉
村上春樹 キャッチャー・イン・ザ・ライ 人気作家の新訳、読みやすい

僕は時代がかった野崎孝・訳の『ライ麦畑でつかまえて』が好きですが、現在の若い方々には、素直に村上春樹・訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』をおすすめしています。

別記事に「深読み考察記事(ネタバレ)」もあるので、興味のある方はこちらも参考にしてください。

野崎孝・訳『ライ麦畑でつかまえて』あらすじと詳細考察を読む

村上春樹・訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』あらすじと詳細考察を読む

②『ナイン・ストーリーズ』

サリンジャー唯一の短篇小説集です。

『ライ麦畑でつかまえて』を別にして、サリンジャーの小説の世界観は、以後、この作品集をベースにして進められていきます。

なぜなら、この後のサリンジャーの作品は、すべて同一の家族(グラース家)を中心にして描かれていくからです(「グラース・サーガ」と呼ばれています)。

本作品中で最も有名な作品が「バナナフィッシュにうってつけの日」で、ラストシーンの謎解きは、現在まで多くの専門家たちの研究対象となってきました。

本ブログでも「深読み考察記事」を掲載しているので、興味のある方はご覧ください。

サリンジャー「バナナフィッシュにうってつけの日」なぜ青年は自殺したのか?

あまり有名ではありませんが、本作品集に収録されている「エズミに捧ぐ─愛と汚辱のうちに─」は、サリンジャーの戦争文学として非常に名作です。

第二次世界大戦のヨーロッパ戦線で過酷な戦闘を経験したサリンジャーでなければ書けなかっただろう兵士の孤独が、この小説にはあります。

戦争から帰還して精神的に病み、やがて宗教(東洋思想)へと逃避していく若者の姿が、この作品集からは見えてくるのではないでしょうか。

サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』戦争と現代社会への挑戦

本作『ナイン・ストーリーズ』には多くの翻訳がありますが、現在、定番と言えるのは、次の2冊になります。

訳 者 日本語の書名 特 徴
野崎 孝 ナイン・ストーリーズ 日本の定番、古い若者言葉
中川 敏 九つの物語 ちょっと個性的
柴田元幸 ナイン・ストーリーズ 人気翻訳家の新訳、読みやすい

ここでも「野崎孝VS現代の人気翻訳家」という構図になりますが、「これからサリンジャーを読む」という方には、柴田元幸さんの新訳がおすすめです。

僕は読み慣れていることもあって、野崎孝さんの訳を愛読していますが。

なお、これ以外の訳も、機会があったら読んでみるといいと思います。

ひとつの翻訳では見えなかった原作の世界が、違う訳を読むことで、見えてくる場合があるからです。

③『フラニーとゾーイー』

中編小説2編「フラニー」と「ゾーイー」を収録した作品集です。

読みやすいサリンジャーは、おそらくこの作品集が最後で、以後のサリンジャーはいよいよ混迷を深めていきます。

あらすじとしては、世の中の偽善に絶望した女子大生(フラニー)が、兄(ゾーイー)の説得によって再生するまでの過程を描いた家族小説です。

ポイントは、彼らの兄が「バナナフィッシュにうってつけの日」で自殺した青年(シーモア)だったということです。

「バナナフィッシュにうってつけの日」以降、サリンジャーは、主人公の青年(シーモア)が自殺した原因を、他の作品の中で書き続けました。

このあたりの詳細は、別記事の「深読み考察記事」をご覧いただきたいと思います。

サリンジャー『フラニーとゾーイー』あらすじと詳細考察を読む

彼らはみなグラース家という一家の一員であったことから、一連の作品は「グラース・サーガ(グラース家の物語)」と呼ばれています。

だから、読む順番としては『ナイン・ストーリーズ』を読んだ後に『フラニーとゾーイー』へ進むという順番がおすすめになるわけです。

サリンジャーの全作品の中でも、イノセントなフラニーは最高にチャーミングな登場人物で、意外と『フラニーとゾーイー』が一番好きだという読者も多いかもしれません(アメリカでも人気があります)。

日本語での翻訳は、こちらも「野崎孝VS村上春樹」という闘いになります(笑)

訳 者 日本語の書名 特 徴
野崎 孝 フラニーとゾーイー 日本の定番、古い若者言葉
村上春樹 フラニーとズーイ 人気作家の新訳、読みやすい

若い方には人気作家である村上春樹さんの訳をおすすめしたいところですが、正直に言って『フラニーとゾーイー』だけは、野崎孝さんの古い訳の方がおすすめです。

『ナイン・ストーリーズ』の続きものという側面も持っているので、『ナイン・ストーリーズ』を野崎孝・訳で読んだ方は『フラニーとゾーイー』も野崎孝・訳で、『ナイン・ストーリーズ』を柴田元幸・訳で読んだ方は『フラニーとズーイ』を村上春樹・訳で、という選択が無難かもしれませんね。

④『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』

ここから先は、ちょっと難しい選択になります。

上記の3冊を読んで「サリンジャーが好きになった!」という方が、進むべき道かもしれません。

そんな方におすすめが、金原瑞人さん翻訳の『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』です。

日本オリジナルであるこの作品集には、サリンジャーが最後に発表した作品「ハプワース16、1924年」のほか、『ライ麦畑でつかまえて』の主人公(ホールデン・コールフィールド)が登場する短篇小説が収録されています。

いわば『ライ麦畑でつかまえて』の原型とも言える作品が、この作品集では読むことができるわけです。

さらに、本作ではサリンジャーの戦争体験が色濃く反映された作品も収録されていて、こうした初期の作品を読むと、『ライ麦畑でつかまえて』や『ナイン・ストーリーズ』でサリンジャーが伝えたかったことが、より深く理解できるのではないでしょうか。

詳細は別記事の「深読み考察記事」にもありますので、興味のある方は併せてご覧ください。

サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』あらすじと詳細考察を読む

⑤『彼女の思い出/逆さまの森』

上記『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』を読んで気に入ったという方は、同じく金原瑞人さん翻訳の作品集『彼女の思い出/逆さまの森』へと進みましょう。

『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』には収録されなかったサリンジャーの初期作品が、この作品集には収録されています。

発表時期も幅広く、様々なテーマの小説が収録されているので、サリンジャーという作家を理解する上で、きっと役に立つ一冊だと思います。

サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』あらすじと詳細考察を読む

戦争体験を下敷きにした作品は、特におすすめで、こうして読んでいくと、サリンジャーというのは、つまり戦争小説を書く作家だったんだなということが理解できます。

ただし、サリンジャーは、戦争を単純な戦争として書くだけではなく、戦争を様々な形に変換して、世の中に問いかけました。

サリンジャーの小説が難しいと言われる背景には、そんなサリンジャーらしい事情もあったわけです。

⑥『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア─序章─』

ここまで読んだ方は、最後の一冊『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア─序章─』にも挑戦してください。

この本は「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」と「シーモア─序章─」という二つの中編小説を収めた作品集で、いずれも主人公はグラース家の長男(シーモア・グラース)となっています(「バナナフィッシュにうってつけの日」で自殺した青年ですね)。

「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」はシーモアの結婚式の様子を描いているので、この直後に新婚旅行へ出かけた若者は、「バナナフィッシュにうってつけの日」で突然自殺してしまう、ということになります。

このあたりの詳細は、ぜひ別記事の「深読み考察記事」をご覧いただきたいと思います。

サリンジャー『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア─序章─』あらすじと詳細考察を読む

一見、脈絡のないシーモアの自殺を説明するため、サリンジャーは次々と「シーモアもの(グラース・サーガ)」を書き続けました。

しかし、シーモアが「輪廻転生を繰り返す天才少年」として描かれるなど、サリンジャーの小説はどんどん難解になっていきます。

サリンジャーのファンとしては、その「難解な」部分も含めて、サリンジャーの小説に惹かれるわけですが、初心者がいきなりここから入るのは、やはり危険です。

サリンジャーの小説は、順番に読み進めることで決して「難しい小説」ではなくなるので、まずは代表作から順番に読み進めていってはいかがでしょうか。

サリンジャーの小説の特徴

最後に、サリンジャーの小説の特徴を、簡単にまとめておきたいと思います。

サリンジャーの小説は、多くの作品で「若者の生きづらさ」をテーマとしています。

これは、ユダヤ系であったサリンジャー自身の生きづらさと、第二次世界大戦で負った心の傷痕(戦争PTSD)が、大きな背景になっていると考えられます。

現代社会と自分自身との「ズレ」を、サリンジャーは書き続けました。

その象徴が『ライ麦畑でつかまえて』の主人公(ホールデン・コールフィールド)であり、「バナナフィッシュにうってつけの日」で自殺した青年(シーモア・グラース)だったわけです。

したがって、ホールデン・コールフィールドとシーモア・グラースは、サリンジャーの小説の世界を象徴する二人の登場人物ということになります。

これからサリンジャーを読むという方は、ぜひ、彼らの声に耳を傾けてみてください。

彼らは、なぜあれほどまでに生きづらく、苦しさを抱えていたのか。

彼らの苦悩は、現代社会を生きる我々自身の苦悩でもあります。

サリンジャーの小説が、今も多くの読者から支持を受け続けているのは、そこに描かれる葛藤が、我々自身の葛藤でもあったからではないでしょうか。

サリンジャーの小説は、決して古くはなりません。

僕たちは、サリンジャーの小説によって、自分自身の「闇」と向き合っていくのです。

まとめ│サリンジャーを読み解くために

サリンジャーの小説は、今なお多くの読者を獲得し続けています。

一方で、サリンジャーの小説は難しいと悩んでいる方が多いことも、また事実です。

文学考察ブログ『時空標本』では、サリンジャーの全作品について、詳細な考察記事を掲載しているので、読み解きに悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。

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もちろん、サリンジャー作品の読み解きに「正解」はありません。

大切なことは、自分なりに納得のできる「答え」を見つけることではないでしょうか。

「読者の数だけ正解がある」と、僕も思います。

それもまた、サリンジャーという作家が持つ大いなる魅力の一つなのかもしれませんね。

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ジェン
文芸コラム担当。感想以上、批評未満。深読み癖あり。感想はX(@jiku_hyohon)にてお待ちしています。