アメリカ文学の名作『ライ麦畑でつかまえて』で知られるJ.D.サリンジャー。
しかし、作家サリンジャーの実態は謎に包まれています。
・サリンジャーとはどんな作家だったのか?
・サリンジャーの生涯とは?
・サリンジャーはどんな作品を書いたのか?
この記事は、サリンジャーのプロフィールや経歴、著作概要、伝記、関連映画、さらにはアニメや漫画、音楽に与えた影響までを網羅した「サリンジャー完全ガイド」として作成しています。
文学ブログ『時空標本』で公開している各作品の詳しい考察記事への内部リンクも、ここから確認することができます。
「サリンジャーについて詳しく知りたい」という方に、ぜひご活用いただければと思います。
サリンジャーの「おすすめ作品ランキング」や「読む順番」を知りたい方は、別記事「サリンジャーのおすすめ小説ランキング6選|長年のファンが解説する読む順番と翻訳の違い」に詳しい解説があるので、そちらをご覧ください。
【基本情報】サリンジャーとはどんな作家だったのか?
まずは、サリンジャーという作家の特徴について、わかりやすく解説します。
①「伝説の作家」サリンジャーの生涯
サリンジャー(J.D. Salinger, 1919–2010)は、戦後アメリカ文学を代表する作家です。
第二次世界大戦への従軍を経て、1951年に発表した『ライ麦畑でつかまえて』で一躍ベストセラー作家となりました。
その後、短編集『ナイン・ストーリーズ』や『フラニーとゾーイー』を発表し、人気作家としての地位を確立します。
しかし、名声やメディアの狂騒に嫌気がさしたサリンジャーは、人気絶頂の中でニューヨーク郊外の小さな町(コーニッシュ)へ隠遁。
社会との接触を断ち切り、謎に包まれた静寂の中で執筆を続けますが、1965年に発表した『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア─序章─』を最後に、新しい著作が出版されることはありませんでした。
生涯に出版された単行本はわずか4冊。
それでも現代文学に絶大な影響を与え続けている「伝説の作家」、それがサリンジャーです。
② 日本で読めるサリンジャー全作品
サリンジャーは、本国アメリカで計4冊の著作を出版しています。
①『ライ麦畑でつかまえて』(長編)
②『ナイン・ストーリーズ』(短編集)
③『フラニーとゾーイー』(中編集)
④『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア─序章─』(中編集)
日本では、それに加えて、雑誌などに発表されて単行本には未収録だった作品の翻訳も読むことができます。
⑤『サリンジャー初期短篇全集』(未収録作品集)
⑥『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』(未収録作品集)
そのため、現在、日本でサリンジャーの全作品を網羅するには、以上の6冊を読むことになります。
なお、全作品の詳細な出版データや収録短編一覧は、別記事「J.D.サリンジャー全作品リスト|日本版の刊行順・全収録作データベース」にまとめているので、そちらをご覧ください。
サリンジャーの絶対に読むべき3冊
① サリンジャーの代表作『ライ麦畑でつかまえて』
本作『ライ麦畑でつかまえて』は、サリンジャーの代表作として知られています。
『ライ麦畑でつかまえて』には、村上春樹・訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を含めて、全部で3種類の日本語訳があります。
文学ブログ『時空標本』では、すべての日本語訳を紹介しているので、興味のある方は、別記事「『ライ麦畑でつかまえて』翻訳比較|野崎孝vs村上春樹、あなたが会うべきホールデンはどっち?」をご覧ください。
本作『ライ麦畑でつかまえて』は、非常に奥が深い小説なので、いくらでも深読みできます(まるで底なし沼のように)。
皆さんも、自分だけの解釈を見つけてみてはいかがでしょうか?
文学ブログ『時空標本』の解釈については、下記の記事で詳しく紹介しています。
▶『ライ麦畑でつかまえて』徹底考察│ホールデンの怒りと3つのメタファー、結末の意味を解き明かす
② 唯一の短篇集『ナイン・ストーリーズ』
本作『ナイン・ストーリーズ』は、サリンジャーの生前にアメリカで出版された唯一の短編集です。
洗練された会話劇の中に、戦争の傷痕や東洋思想が潜む傑作群です。
冒頭の「バナナフィッシュにうってつけの日」は、特に謎が深い作品として有名。
とにかく難解な作品だと言われることの多い『ナイン・ストーリーズ』ですが、作者サリンジャーは、小説に正解を求めることを拒絶した作家としても知られています。
読者一人一人の答えが、すべて「正解」ということだったのかもしれませんね。
なお、『ナイン・ストーリーズ』については、別記事「サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』戦争と現代社会への挑戦は論理を超えて」で詳しく考察しているので、そちらも併せてご覧ください。
③ グラース・サーガ『フラニーとゾーイー』
『ナイン・ストーリーズ』以降のサリンジャーは、グラース・サーガ(グラース家の物語)と呼ばれる作品を書き続けました。
本作『フラニーとゾーイー』も、グラース・サーガを支える重要な作品のひとつです。
本作『フラニーとゾーイー』については、別記事「サリンジャー『フラニーとゾーイー』自己嫌悪に悩む女子大生の救い」に、詳しい考察があるので、そちらも併せてご覧ください。
グラース・サーガとは?|グラース家の一覧表
『フラニーとゾーイー』以降も、サリンジャーは「グラース家」という天才兄弟たちの物語を書き続けました。
この一連の作品は「グラース・サーガ(グラース家の物語)」と呼ばれています。
グラース家の人々を理解することは、サリンジャー文学を読み解く上で、重要な鍵となっています。
ここでは、グラース家の子どもたちを一覧表で整理してみました。
主な登場作品も紹介しているので、作品を探すときの参考にもなります。
| 順序 | 名前 | 特徴 | 主な登場作品 |
|---|---|---|---|
| 長男 | シーモア | 一家の精神的支柱。詩人。 | 「バナナフィッシュ」「大工よ」「シーモア─序章─」「ハプワース」 |
| 次男 | バディ | 作家。サリンジャーの分身。 | 「大工よ」「シーモア─序章─」「ハプワース」 |
| 長女 | ブーブー | 最も「普通」で賢明。 | 「小舟のほとりで」 |
| 三男 | ウォルト | 双子の兄。陽気だが戦死。 | 「コネティカットのひょこひょこおじさん」 |
| 四男 | ウォーカー | 双子の弟。修道士。 | |
| 五男 | ゾーイー | 俳優。恐ろしく美形。 | 「フラニーとゾーイー」 |
| 次女 | フラニー | 末っ子。宗教的苦悩に陥る。 | 「フラニーとゾーイー」 |
作品の中では特に「長男シーモア」「次男バディ」「五男ゾーイー」「次女フラニー」の名前が、頻繁に登場してくることになります。
伝記・評伝・報道|謎の作家の素顔に迫る
「謎の作家」サリンジャーですが、多くの評伝からその人となりを理解することができます。
「謎」が多くなるほど、人々はサリンジャーという作家を知りたいと感じていたのかもしれませんね。
① サリンジャーの伝記・評伝読み比べ
サリンジャーには多くの伝記や評伝があり、それぞれ日本語でも翻訳出版されています。
サリンジャー作品を読解する上で大きなヒントにもなるので、興味のある方は伝記や評伝を読んでみるのもおすすめです。
別記事「サリンジャーの伝記・評伝読み比べ~作家の人生と文学作品の考察」では、サリンジャー関連の伝記や評伝を詳しく紹介しています。
② 写真週刊誌『フォーカス』(1988年)
写真週刊誌『フォーカス』に、パパラッチに盗撮されて激昂するサリンジャー(69歳)の写真が掲載されています。
作家の人格が、いかに軽く扱われていたかということが実感できますね。
詳しくは別記事「【バックナンバー】『フォーカス』(1988年)パパラッチに盗撮されて激昂するサリンジャー(69歳)の写真」をご覧ください。
② 総合雑誌『中央公論』(1980)
総合雑誌『中央公論』には、隠遁生活中のサリンジャーに強引な取材を行った外国人記者によるルポルタージュの翻訳が掲載されました。
詳細は、別記事「「『ライ麦畑でつかまえて』をつかまえた」伝説の作家サリンジャーが残したメッセージ」をご覧ください。
サリンジャーが日本のポップカルチャーに与えた影響
サリンジャーの作品は、純文学の世界を超えて、日本の漫画、アニメ、音楽、現代文学に巨大な影響を与え続けています。
①『BANANA FISH』と「バナナフィッシュにうってつけの日」
吉田秋生による名作漫画『BANANA FISH』のタイトルは、サリンジャーの短編「バナナフィッシュにうってつけの日」から引用されています。
主人公アッシュ・リンクスの孤独や過酷な運命は、サリンジャー作品の主人公たちが抱える繊細な魂と深く響き合っています。
②『攻殻機動隊 S.A.C.』と「笑い男」・『ライ麦畑でつかまえて』
神山健治監督によるアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の「笑い男事件」では、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』へのオマージュが随所に盛り込まれています。
主人公ホールデン・コールフィールドのセリフは「笑い男」のマークにも引用されており、「笑い男」という名称自体もサリンジャーの短編『笑い男』を想起させるものとなっています。
③ Blankey Jet City「サリンジャー」とロックミュージック
日本のロックバンド Blankey Jet City(ブランキー・ジェット・シティ)に「サリンジャー」という作品があります。
そのほか日本のロックミュージシャンには、サリンジャーへのオマージュ作品が少なくなく、サリンジャーの持つアウトロー的でピュアな精神性が楽曲のモチーフに採用されています。
④「サリンジャー」と80年代J.POP(アイドル)
1980年代、フジテレビ『オールナイトフジ』に出演していたオールナイターズの山崎美貴は、1985年に「借りたままのサリンジャー」でソロデビューしています。
また、河合奈保子のアルバム『Members Only』(1988)には「メリルストリープ & サリンジャー」が収録されています。
吉田真里子のシングル「嘆きの天使」(1989)のB面にも「黄昏のサリンジャー」が収録されるなど、80年代は「サリンジャー」が知的でオシャレなアイテムだったことが分かります。
関連映画|映画で観るサリンジャー
①『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』
サリンジャーの伝記映画です。
戦争とサリンジャー文学との関係が、分かりやすく描かれています。
▶【映画考察】『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』戦争PTSDが変えた作家の人生
②『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』
出版エージェンシーでサリンジャーと出会った若い女性の物語。
ジョアンナ・ラコフ『サリンジャーと過ごした日々』を映画化したものです。
▶【映画考察】『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』サリンジャーが教えてくれた「本当の自分」
③『ライ麦畑で出会ったら』
いじめられっこの高校生が、サリンジャーとの出会いを通して成長していく姿を描いています。
▶【映画考察】『ライ麦畑で出会ったら』サリンジャー探しの旅は自分探しの旅だった
まとめ│サリンジャー体験へのご案内
サリンジャーは特別の作家です。他の流行作家とは比べることのできない神秘的な力が、サリンジャーの作品にはあります。
サリンジャーの作品を読んだときに感じる深い感動。それが「サリンジャー体験」です。
壮絶な戦争体験、アメリカ社会への絶望、人間社会への不信。時代を超えて訴えかけてくるサリンジャーの心の叫びに、ぜひ、耳を澄ませてみてください。
なお、日本で出版されたサリンジャーの書籍については、次の記事で発売年順にリスト化しています。
▶ 「【完全網羅】J.D.サリンジャー全作品リスト|日本版の刊行順・全収録作データベース」を読む
サリンジャー作品を読むときの参考資料として、ご活用ください。
