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庄野潤三 おすすめ「家族小説」の名作5選

庄野潤三 おすすめ「家族小説」の名作5選

庄野潤三の小説は、忙しい毎日の中で「癒し」となってくれる。

今回は、特に人気の高い「家族小説シリーズ」の中から、これだけは絶対に読んでいただきたいと思う「鉄板の作品」を厳選してご紹介したい。

庄野潤三の家族小説の流れ

もともと庄野潤三は、夫婦の不安や疑心暗鬼を描く「夫婦小説」で高い評価を得た作家だが、やがて「夫婦の小説」は「家族の小説」へと発展していった。

その最初の作品が、大阪から東京石神井公園へ移住してきたばかりの5人家族を主人公にした『ザボンの花』である(ここが第1期)。

両親と3人の子どもたちで構成される5人家族の物語は、その後の作品の定型となり、神奈川県生田の山の上にある一軒家に引っ越した後の一連の作品群では「長女の和子」「長男の明夫」「次男の良二」というキャラクターが固定化されていく(ここが充実の第2期)。

3人の子どもたちがそれぞれ結婚して独立した後、しばらくの間、家族小説から遠ざかるが、孫娘が生まれた頃から再び小説のテーマは家族へと戻り、「夫婦の晩年」をテーマとした連作的な小説を書き続ける(ここが晩年の第3期)。

要約すると、庄野潤三の家族小説はざっくりと、次のように分類することができる。

・石神井公園時代(第1期、昭和30年代)
・生田の山で子どもたちと同居していた時代(第2期、昭和40年代から50年代)
・生田の山で夫婦二人で暮らしていた時代(第3期、昭和60年代から平成まで)

第1期には名作『ザボンの花』があり、第2期には非常に充実した作品群が残されているし、晩年の第3期の作品群は近年も「静かなブーム」と言われるほど人気を集めている。

今回、ご紹介する作品は、いずれ劣らぬ名作ばかり。

実際に手に取っていただけたら幸いである。

庄野潤三のおすすめ家族小説

庄野潤三の家族小説はどの作品もおすすめだが、「どこから読んでいいのか分からない」という方のために、特におすすめの作品を厳選してみた。

庄野文学の入り口としてご利用いただきたい。

「ザボンの花」1956年(昭和31年)

『ザボンの花』は、大阪から東京の石神井公園そばへ引っ越してきた庄野一家の暮らしをモデルに描かれた、初期の名作長篇小説。

第1章の「ひばりの子」が中学校の教科書に掲載されるなど、高い評価を得た。

主人公である矢牧家の子どもたちの構成が「正三(小学4年生)」「なつめ(小学2年生)」「四郎(あと二年で幼稚園)」となっていて、後の「長女・長男・次男」とは異なるが、実際の庄野家の子どもたちをモデルに描かれている。

東京都内に麦畑があった時代の牧歌的でほのぼのとした暮らしぶりの中に、生きることの切なさやおかしさなどが綴られている。

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「夕べの雲」1965年(昭和40年)

『夕べの雲』は石神井公園の麦畑から生田の山の上へと引っ越してきた庄野家の暮らしをモデルに描かれた5人家族の物語である。

作者自ら「『夕べの雲』が自分の代表作だと思う」と語っているとおり、その後の庄野文学の流れを決定づけたエポックメイキングな作品と言えるだろう。

主人公となる大浦家の3人の子どもたちは、「晴子(高校2年生)」「安雄(中学1年生)」「正次郎(小学3年生)」として描かれている。

何気ない日常のスケッチを通して、季節の移り変わりの中で戻らない時間を生きる家族の暮らしを綴った作品。

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「絵合せ」1971年(昭和46年)

『絵合せ』は、庄野潤三の家族小説が、非常に充実していた時期に書かれた中編小説である。

3人の子どもたちは、「和子(会社員)」「明夫(高校3年生)」「良二(中学3年生)」で固定化されていて、長女の和子が結婚して家を出て行く直前の日々の様子が描かれている。

『絵合せ』の前段の物語としては『丘の明り』などいくつもの短篇があり、和子が結婚して家を出て行く時の様子は『明夫と良二』という作品の中で綴られており、一連の「家族日誌」とも呼べる作品群となっている。

作家として充実期に入っていた庄野さんの仕事ぶりを楽しむなら、この時期の作品ではないだろうか。

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「さくらんぼジャム」1994年(平成6年)

子どもたちが独立して家を出た後、作者は家族小説から遠ざかるが、次男のところに初めての孫娘(庄野文子、愛称フーちゃん)が生まれた頃から、新たな家族小説を書き始めまる。

『エイヴォン記』『鉛筆印のトレーナー』「さくらんぼジャム』と続いた「フーちゃん3部作」がそれで、特に3部作完結編となる『さくらんぼジャム』はおすすめ。

第1作の『エイヴォン記』は、作者自身の読書体験を軸にした長篇随筆で、読書と並ぶ柱としてフーちゃんが登場しているが、まだ家族小説と呼べるような体裁にはなっていない。

家族小説のスタイルとなるのは『鉛筆印のトレーナー』からで、この『鉛筆印のトレーナー』が晩年の家族小説の始まりと言っていいかもしれない。

『さくらんぼジャム』では、近所で暮らしているフーちゃんが隣町へと引っ越して、小学校に入学するまでのことを描いていて、祖父母の元から離れていくフーちゃんの成長は感動的な物語となっている。

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「せきれい」1998年(平成10年)

「フーちゃん3部作」の完結後、作者は本格的に「夫婦の晩年」をテーマとした小説を書き始める。

その第1作が『貝がらと海の音』(1996年)で、小学校に入学したフーちゃんをはじめ、多くの家族や近所の人々との交流の様子、庭の草花や野鳥、妻のピアノの練習や自身のハーモニカ演奏など、老後の暮らしを非常に立体的な構成で描かれている。

一連の作品は第11作の『星に願いを』(2006年)まで、毎年単行本を刊行するが、一連の作品群とは言っても、同じテーマの小説を10年間も書き続けていけばスタイルや表現が変化していくことは当然で、「夫婦の晩年シリーズ」は初期の頃ほど書き込まれていて、後半に向かうほど表現が簡潔になっている。

シリーズ3作目となる『せきれい』は、病気で死んだ小沼丹に捧げる名作で、「夫婦の晩年シリーズ」の中でも最高傑作と言える作品としておすすめ。

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まとめ

以上、庄野潤三の家族小説おすすめ5選をご紹介した。

あくまでも個人的な好みで作品を選定しているが、この中の作品のどれかを入口にして、庄野文学の奥深い世界へと進んでいただければと思う。

庄野潤三の作品は家族小説以外にもお薦めしたいものがたくさんあるので、いずれ、別の観点からも紹介していきたい。

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ジェン
文学考察ブログ『時空標本』管理人。物語の中に流れる時間を切り取り、言葉の標本として保存する。村上春樹、近代文学、そして古物を愛す。