青山南「小説はゴシップが楽しい」読了。
本作「小説はゴシップが楽しい」は、1995年(平成7年)7月に晶文社から刊行されたエッセイ集である。
この年、著者は46歳だった。
著名な作家の意外な一面を知る
本作「小説はゴシップが楽しい」は、現代アメリカ文学について綴られたエッセイ集である。
ゴシップなんて言うと、セックスとかアルコールとかドラッグとか犯罪とか、スキャンダラスな匂いがするが、本書には、ほとんどそんなものは登場しない。
出てくるのは、作品の周辺に渦巻いている作家たちの声や思いや痛みなどばかり。
例えば、「成功の陰に『ボツあり』」は、有名作家にだって採用されない原稿があるんだという内容のエッセイである。
多産を誇るジョン・アップダイクやジョイス・キャロル・オーツなんかは、ハイティーンの頃からせっせと投稿していたから、出版社からもらった断り状は、かなりの数になるらしい。
ベローはノーベル賞をとって八年後、短篇が雑誌『ニューヨーカー』でボツになった。じつはノーベル賞をとる二〇年前にも『ニューヨーカー』で中篇がボツになったことがあるが、ベローに言わせると、「あそこは、葬式で終わる小説は認めない。そういう主義のところなんだよ」だそうである。(青山南「成功の陰に『ボツあり』」)
著名な作家の意外な一面を知るということも、ゴシップという言葉には含まれているのかもしれない。
「『アメリカン・コラム』って何だ?」では、1980年代前半に登場した「アメリカン・コラム」なる謎の新ジャンルの文学について、著者の思いが綴られている。
「アメリカン・コラム」というのは、要はボブ・グリーンの紹介と人気の結果に生まれた新しい言葉であると、著者は考察している。
しかし、というか、だからこそ、というべきか、こういういやらしい命名をした集英社だか河出書房新社の営業のアイデアは好きじゃない。だって、そうでしょ、変に名前をつけて新ジャンルらしきものをつくると、消えるときはジャンルまるごと消えるからである。(青山南「『アメリカン・コラム』って何だ?」)
実際、ボブ・グリーンが消えて、アメリカン・コラムなるジャンルは、見事に消え果てた感がある。
今では、アメリカン・コラムという言葉を聞いただけで、懐かしき1980年代を連想できるようにまでなってしまった。
でも、個人的には、80年代のアメリカン・コラムというやつが嫌いではなくて、本書で引用されている何冊かのコラム集は、本書を読みつつ、ネットでサクッとポチってしまった(笑)
1980年代アメリカ文学の息吹が感じられる
本書で特に目立つのは「ミニマリズム」と呼ばれる短篇小説と、「ミニマリスト」と呼ばれる短篇小説作家たちである。
1980年代、アメリカ文学の大きな潮流が、ミニマリストと呼ばれる短篇小説作家たちの台頭だったのかもしれない。
しかし、この短篇の大興隆に、このところ、批判が殺到している。この短篇大興隆は俗に「ミニマリズム」と呼ばれるが、どの短篇小説も同じじゃないか、金太郎飴みたいにどこを割っても同じ顔じゃないか、という批判である。(青山南「どの短篇も同じじゃないか」)
このミニマリズム批判の紹介は、1980年代アメリカ文学の息吹が感じられるようで、とてもおもしろい。
ちなみに、当時「ミニマリスト」として必ず名前が挙がっていたのは、レイモンド・カーヴァー、フレデリック・パーセミル、アン・ビーティ、メアリン・ロビスンなどだそうである。
批判の内容が、あまり面白かったので、80年代ミニマリストの作品を読み直そうと思って、これもネットでサクッとポチってしまった。
ちなみに、こうしたミニマリストの台頭には、多くの大学に創作科が設置されたことが影響しているらしい。
ところが、どうだ、一九八〇年代になると、活況を呈しているかのごとき様相をみせるアメリカ小説界を担っているのは大学創作科の出身者ばかりなのである。いまや、創作科在学中の作家志望者にとって、目標はフォークナーやヘンリー・ミラーではなく、ジョン・アーヴィングやアン・ビーティといった創作科出身の作家になることになっている。(青山南「作家たちがこんなにもたくさん消えていった」)
アーヴィングやビーティあたりが、「創作科を卒業して創作科に勤務しつつ小説を書いてきた作家」の第一世代にあたるので、大学の創作科に学ぶ作家志望者にとっては、大きな目標となっているらしい。
「現代のアメリカ文学」といっても、なにしろ30年近く昔の本なので、当然に現在では消えてしまった名前も多い。
一時的に有名になって、すぐに消えてしまった小説家のことを知るには、当時のブックガイドを読むのが一番である。
本書を読みながら、なんだかんだ随分たくさんの(古い)小説を(ネットで)買ってしまった。
こういうブックガイドこそ、良きブックガイドと呼ぶべきなんだろうなあ。
書名:小説はゴシップが楽しい
著者:青山南
発行:1995/07/30
出版社:晶文社