昭和レトロな食器が流行したのは、2000年代前半のことだったろうか。
コロナ・ブックス「昭和モダンの器たち」(2006、平凡社)に、こんな一節がある。
昭和三〇年代の家庭用食器や道具は、ちょっと前まで、あまり気に留められていませんでした。それゆえ、リサイクルショップで「おっ」と思う器が「えっ」という値で並んでいることも多く、嬉しい反面、用無しになって消えていくのが残念でした。
最近では、若い世代を中心に、昭和三〇年代から四〇年代にかけての器を愛するファンが増え、専門に扱うお店も増えてきたようで、ひと安心。
(佐藤由紀子「ノスタルジーの発掘」)
上記の文章を読んで分かるように、2000年前後には、若い世代の間で、戦後のレトロ食器が人気を集めていたようである。
もっとも「専門に扱うお店が増えてきた」と言っても、一部のマニアックなショップの話であって、一般の骨董店で戦後の食器は、ほとんど商品としては扱われていなかった。
むしろ、リサイクルショップこそが、こうした昭和食器の主な流通の場だったし、フリーマーケットを探した方が、安価で面白いアイテムが、いくらでも見つかったものである。
あの頃、週末のフリマへ出かけては、年配の方が出しているお店を覗き、家庭で普通に使われてきたと思われる古い食器を、ひとつ50円とか三つ100円とかで買い集めていた。
そんなものがビンテージ・アイテムになるだなんて、フリマのおばさんたちはまったくもって想像さえもしていなかったのだ。
そんなフリマでは、随分といろいろな出会いがあったような気がする。
写真のお皿は、岐阜県にある山加商店のものだ。
1913年(大正2年)に陶磁器卸商として創業した山加商店は、1961年(昭和36年)に製陶工場を建設、陶磁器食器の製造業にも参入している。
なので、「YAMAKA CHINA」の裏印があるものは、1961年以降に製造されたものということになる。
写真の皿には、黒い女の子(黒人少女?)と仔犬(テリア?)がデザインされている。
黒人モチーフの雑貨は、昭和30年代、国内で大いに流行したものらしい。
まだ、海外旅行が難しかった時代、庶民の南国に対する憧れが反映されていたと、何かで読んだような気がする。
黒人モチーフの雑貨を飾ったり使ったりすることが、新しい時代の到来を告げているようで、要するに新しいような感じがしていたのだろう。
この黒い女の子と仔犬をデザインした食器は、ティーポットやカップ&ソーサなども作られていて、マニアの間でも人気の高いアイテムである。
僕の知り合いの骨董屋さんは、ヤフオクで10万円出して美品の揃いを入手したと言っていた。
嘘か本当かは知らないけれど、いかにもコレクター心をくすぐりそうな、モダンで美しいデザインである。
ものすごくレアというわけではないけれど、それほど簡単に見つかるというものでもない。
それなりのお金を出して買ってきて、部屋に飾っておくだけの価値があるかどうかということは、まさしくコレクターの判断である。
考えてみると、僕が戦後の食器を買い始めたのは、値段が安いということも理由のひとつだった。
蒐集のライバルが少ないということは、商品を気軽に入手できるということでもある。
人気が沸騰して相場が上がってしまっては、コレクションを続けることはできない。
それよりも、まだ誰も目を付けていない、他のアイテムを探して集めた方がいい。
そんなふうに考えると、ヤマカの黒人少女のフルセットを買い集めようという気持ちには、なかなかなれなかった。
だけど、人気が出るほど欲しくなるというのも、やっぱり、コレクター魂なんだよね。