昭和の時代、秋の旅行といえば温泉地が定番だった。
北海道では「観楓会(かんぷうかい)」と称して、温泉旅館で宴会を楽しむ社員旅行も珍しくなかったという。
歓迎会や送別会でさえ、出席をためらう社員が少なくないと言われる現在、さすがに、会社の仲間たちと一緒に旅行する習慣は少なくなったらしいが。
中年男性に人気があった「混浴こけし」
この「観楓会」、秋に温泉と紅葉をセットで楽しむというコンセプト自体は悪くない。
会社の強制的なイベントというところに課題があるのであって、家族や、気の置けない仲間たちと遊びに出かける分には、秋の温泉旅行というのは、十分に魅力的な企画だと思う。
温泉土産の定番と言えば、温泉まんじゅうと温泉こけし。
いわゆる「お風呂こけし」は、昭和中期の温泉地では、かなりメジャーなお土産だった。
お風呂のこけしは意外と多いもの。お色気を感じさせる混浴系のものがほとんどで、温泉宿に来る中年男性をターゲットに、こうした人形が多くつくられました。当時の男性の憧れが詰まってるのかも?(『ビーンズ VOL.8』)
中年男性をターゲットにした「混浴こけし」は、ほぼアダルト系と言っていいが、こけし人形だけに、どうあっても、セクシーというよりは、ほのぼのといった趣きに仕上がっている。
「少しエロティックなものが一般的」「タオルがひざに置いてあるものが多い」ともあるように、イメージ的にはヌード人形に近い。
コレクターの間では「フロこけし」と呼ばれる、このジャンル。温泉宿らしいベタさが魅力です。体の表現もこけし人形としてどう作るかという工夫がされていて面白い。女性は特に艶っぽく作られています。(斉藤亜弓「KO・KE・SHI人形」)
筆者は「お妾さんと旅行といえば昔は温泉宿。そんな発想から、こんなこけし人形も。世のオヤジさんも憧れがいっぱい詰まってますね」とさりげなくスルーしているが、「お妾さん」との不倫旅行は、現在ではコンプラ的に、かなりヤバい。
多くの若者が戦争で亡くなった戦後日本では、独身女性が多く、中年男性が「二号さん(妾)」を持つことが珍しくなかった。
対等の不倫関係というよりは、生活保障のための経済的援助が、主目的となっていたらしい。
戦後生まれが社会の担い手となり、女性の社会的地位が向上した昭和後期以降、「お妾さん」のような言葉は、ほとんど聞かれなくなった。
まして、令和の現代は、結婚しない男性の割合が増えているくらいだから、二号さんどころではないというのが実情だろう(対等な不倫関係は増えているかもしれないが)。
昭和の「お風呂こけし」には、戦争が尾を引いていた戦後の日本社会の影がある。
写真の中にある「温根湯(おんねゆ)」は、北海道オホーツク管内の北見市にある温泉観光地。
定山渓温泉(札幌)や登別温泉、湯の川温泉(函館)のように大規模な観光地ではないが、北海道の鄙びた温泉風情を味わえることで、地元道民にも人気があった。
後ろで、風呂桶を高く掲げている女性のスタイルが良すぎ(ちゃんとウエストがくびれている)。
おじいちゃん・おばあちゃんが住んでいる実家には、もしかすると、まだこんな温泉こけしが飾られているのではないだろうか。