高橋揆一郎『少年給仕』は、戦争に翻弄された少年たちの青春を描いた物語である。

この記事では、本作『少年給仕』のあらすじを簡単に整理するとともに、戦争中の札幌にあった夜間中学について考察していきたい。

3行でわかる高橋揆一郎『少年給仕』

働きながら学ぶ少年給仕
国民学校高等科を卒業した真柴仙吉は、札幌にある「昭和中学」という夜間中学に入学し、昼は北海道庁給仕として働くことになる。

戦争によって揺らぐ青春
仙吉は芸術活動を愛する少年だったが、悪化する戦況の中、戦争以外のことを考える自分に、否定的な考えを持ち始める。

自分自身の生きる道を選ぶ
陸飛の試験に落ちた仙吉は、道庁給仕を辞職し、友人の勤めているスキー工場で働き始める。

高橋揆一郎『少年給仕』簡単なあらすじ

昭和18年4月1日、15歳の真柴仙吉は「北海道給仕を命ずる」という辞令を受け取った。

仙吉たちは、札幌第一中学(現在の札幌南高校)の校舎を利用する夜間中学「昭和中学」の生徒であり、三年生になると「給仕」から「雇」へと昇任することになっている。

文学や絵画を愛する仙吉は、初めての仕事に意欲を燃やしながら、日々の思いを短歌に込めて綴った。

しかし、日ごとに悪化する戦況は、次第に彼らの青春に暗い雲を落としていく。

山本五十六元帥の戦死と、アッツ島玉砕の悲報が届くころ、「少年給仕」という制度そのものが見直しの対象となり、昭和中学の閉鎖も決まった。

仙吉は、芸術の道をあきらめ、軍人として生きる道を選ぶが、陸軍少年飛行兵(陸飛)の採用試験に不合格となる。

道庁では、優秀な少年給仕の囲い込みが始まっていたが、仙吉は自分らしく生きるために少年給仕を退職し、友人の働くスキー工場で働き始める。

【考察】戦争の時代を生きる文化系少年たちの青春

本作『少年給仕』は、戦争の時代を生きる文化系少年の物語である。

文学や絵画などの芸術を愛する少年給仕・真柴仙吉は、アッツ島玉砕の悲報を聞いて、自分の生きる道に疑問を持ち始める。

仙吉はこれで自分はめちゃめちゃになったと思った。「我らアッツの英霊に続かん! 勝利を信じて疑わず!」(高橋揆一郎『少年給仕』)

愛国心と芸術活動との葛藤の中で、仙吉は軍人として生きることを決意するが、彼の心が再び燃え上がることはなかった。

なぜなら、空知地方の炭鉱町から、向学心を抱いて夜間中学に入学し、労働と芸術に燃えた彼らの青春は、戦争によって混迷を深めていたからだ。

誇り高い昭和中学の生徒たちは、学校閉鎖の噂に動揺し、次第に中学校は荒廃していく。

それは、当時を生きる十代の少年少女たちの象徴的な光景ではなかっただろうか。

結局、昭和中学の生徒として(つまり、少年給仕として)生きる道を棄てた仙吉は、自ら北海道庁を退職し、友人の勤める「富士スキー工場」で働き始める。

戦争は、少年たちの青春を、確かに大きく変えていたのだ。

【解説】少年給仕と夜間中学「昭和中学」

本作『少年給仕』は、札幌第一中学(現在の札幌南高校)に併設されていた夜間中学「昭和中学」の歴史についての物語でもある。

昭和中学は昭和十三年の創立で、教師陣は校舎を借りている第一中学校の教師がかけもちでくるし、一部は北大の現役学生がつとめる。卒業すればそのまま道庁本庁ほか関連官庁に採用になるという。(高橋揆一郎『少年給仕』)

昭和中学の生徒は「北海道給仕」として採用される勤労少年だった。

北海道庁の「給仕」とは、机周りの清掃やお茶汲み、郵便物の発送など、庁内の雑務や事務補助などを担当する職員のことで、少年たちにとっては、働きながら学ぶことのできる就職先でもあった。

『新札幌市史』によると、昭和9年の北海道庁給仕採用試験では、169人の志願者に対して採用者は20人、競争率8.5倍という人気の職種だったという。

当時は、進学希望者数に対して中学校数が圧倒的に少ない時代で、戦前から中学校の設置が進められていた。

1911年,事態を解消するべく中学校の増設を目的に「中等学校設立期成会」が設立された。以後,大正期に庁立札幌第二中学校(1912)、私立夜間中学校(1923)、昭和に入ってからは私立昭和中学校(1939)、札幌市立中学校(1941)と増設されていった。(札幌市『札幌市史』)

夜間中学校は、大正12年、札幌第二中学校(現在の札幌西高校)に「札幌中等夜学校」が設立されていたが、本作の主人公・仙吉が通った「昭和中学」も、「札幌中等夜学校」と同様の夜間中学校だった。

しかし、太平洋戦争の戦況悪化に伴い、昭和18年「男子給仕就業禁止令」が制定されたことで、道庁給仕として働くことを前提とする昭和中学は、七期生をもって廃校とされた。

本作『少年給仕』の主人公・真柴仙吉は、こうした戦争中の歴史の、貴重な証人だったのだ。

高橋揆一郎自身も通った昭和中学

高橋揆一郎自身も、北海道庁の給仕として働きながら、札幌の昭和中学に通った経験を持っている。

その意味で『少年給仕』は、作者自身の青春時代を背景とする、自伝的な性格を持った小説でもある。

作品に描かれた少年たちの向学心や芸術への憧れ、戦争によって揺らぐ将来への希望には、作者自身が生きた時代の記憶が反映されている。

まとめ│戦争に翻弄された青春

本作『少年給仕』は、大志を抱いた文化系少年の、夢と挫折の物語である。

大人たちの戦争に巻きこまれ、彼らは将来を夢をあきらめなければならない。

同時に、日本を愛する彼らは、強い愛国心の中で、誰かを責めることもできなかった。

少年の眼から綴られた戦争文学として、忘れてはいけない作品ではないだろうか。

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文学ブログ『時空標本』では、札幌が舞台となっている小説の紹介に力を入れています。

また、昭和文学については、次の記事で詳しく解説しています。

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モグラのジェン
文芸コラム担当。感想以上、批評未満。深読み癖あり。感想はX(@jiku_hyohon)にてお待ちしています。