読書体験

『あぶさん』アル中が主人公の野球漫画で昭和・平成の野球史を楽しむ

ハードボイルドな野球漫画を読みたい!

アル中が主人公の漫画を読みたい!

そんな方には、水島新司の『あぶさん』がおすすめです。

『あぶさん』とは?

『あぶさん』は、水島新司の野球漫画です。

連載開始は、1973年(昭和48年)で、2014年(平成26年)まで続く長寿漫画となりました。

コミックスは全107巻(他に未収録作品集1巻あり)。

40年続いた人気の野球漫画ですが、連載期間が長かったため、漫画のコンセプトも随分変わってしまいました。

僕にとっての『あぶさん』は、連載開始当初の、まさしく初期の『あぶさん』です。

今回は、ビッグコミックス『あぶさん』第1巻で、『あぶさん』が『あぶさん』らしかった時代を振り返ってみたいと思います。

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『あぶさん』第1巻「のんべ鷹」

『あぶさん』第1巻「のんべ鷹」は、1974年(昭和49年)6月の発行。

ちなみに、『あぶさん』の連載が開始された1973年(昭和48年)は、読売ジャイアンツがV9を達成した年です。

少年たちの夢は「プロ野球選手になること」で、日本中全ての子どもたちが「野球帽」を愛用していました。

小説では、小松左京の『日本沈没』がベストセラーとなり、若者たちの間では、かぐや姫の「神田川」や、井上陽水の「傘がない」、ガロの「君の誕生日」がヒットしていた時代。

そんな時代に『あぶさん』は誕生したんですね。

第1章 のんべ鷹

『あぶさん』の主人公<景浦安武(かげうら・やすたけ)>初登場の第1話です。

甲子園行きを賭けた新潟県大会決勝で、155メートルのホームランを打つも、酔っぱらっていたことから記録取り消しとなった長距離バッター景浦安武(通称あぶ)。

ちなみに、日本のプロ野球界では、読売ジャイアンツの松井秀喜が、1998年のオールスターゲームで160メートル弾を記録しています。つまり、現実的には、ほぼあり得ない飛距離っていうことですよね。

高卒でノンプロの北大阪電機に入り、野球を続けていたあぶさんですが、なんと会社を懲戒免職に。

会社をクビとなり、ほとけ横丁の<大衆酒場 大虎>で飲んだくれているあぶさんのもとに現われたのが南海ホークスの<岩田さん>。

岩田さんは、会社をクビになったばかりのあぶさんを、南海ホークスへとスカウトします。

契約金50万円、年俸100万円。

めっちゃアルコール中毒のプロ野球選手が誕生した瞬間です。

ちなみに、初登場のあぶさんが飲んでいたお酒は「アブサン」で、カウンターの常連席ではなく、テーブル席で酔い潰れていました。

なんにしても、日本社会が、まだ酔っぱらいに優しかった時代の連載開始でした(日本は「酔っぱらい天国」とさえ呼ばれていた)。

第2章 いぶし銀

交通事故に遭った女子プロボウラー<山中奈保美(22)>を助ける話です。

ちなみに、当時は<さわやか律子さん>こと<中山律子>が大人気で、ボウリングは国民的スポーツとまで呼ばれた時代でした。

1972年(昭和47年)には、全国に3,697施設ものボウリング場があったそうです。

2019年(令和元年)では380施設なので、現在の10倍ものボウリング場が、日本中にあったんですね。

第3章 酒仙打者

「大衆酒場 大虎」で、野球好きの若社長とトラブルになった話です。

「おとうちゃん、七時からUHFで南海と日拓のナイターがはいっとる」というサチ子さんの会話が謎めいていますね。

ちなみに、「南海」(南海ホークス)は現在の「ソフトバンクホークス」で、「日拓」(日拓ホームフライヤーズ)は、現在の「北海道日本ハムファイターズ」です。

徹夜明けの朝野球で、あぶさんは200メートルのホームランを打ちました(笑)

第4章 ラブ・サイン

あぶさんのプロ初打席はポテンヒット。

その夜、<BAR 麻>で間違えたサインをしたあぶさんは、その後もゲンを担いで、<BAR 麻>へと通い続けます。

プロ野球選手には、ジンクスが大切だってことですね。

第5章 代走子守唄

あぶさんが捨て子を拾ってしまう話です。

当時の日本では「捨て子」が社会現象となっていたんですね。

ちなみに、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』は、当時の捨て子事件を題材とした長編小説です。

第6章 物干し

あぶさんは、サッちゃんを連れて、酒蔵へと向かいます。

旅先で出会ったセールスマンは、元・阪神タイガースの藤村富美男さんでした。

ちなみに、藤村選手は、初代「ミスタータイガース」で、戦後の「ダイナマイト打線」の中核として活躍した選手なんです。

第7章 くたばれホークス

アンチ南海ホークスのお爺さんが登場。

あぶさんのアパート<なにわ荘>や、ご近所さんの<カコちゃん>が初登場しています。

第8章 鷹一は七歳

親子心中を覚悟している老舗の主人を救った話。

南海ホークスが前期優勝を果たしています。

ちなみに、パ・リーグの2シーズン制は、1973年(昭和48年)から1982年(昭和57年)までの10年間続きました。

『あぶさん』の連載が始まったのは、そんなプロ野球全盛の時代だったんですね。

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まとめ

いかがでしたか?

僕は、健康的でスーパースターのあぶさんよりも、アル中で持続力がなかった頃のあぶさんが好きです。

頭のおかしい未亡人と付き合ったりとか、女子高生と付き合ったりとか、女性関係もなんか普通じゃない。

現代だったら炎上しそうなネタが多かったことも、あぶさんの人間らしい魅力の一つだったような気がします。

高度経済成長の時代、日本人は、こういう男らしい男を求めていたんですよね。

日本のハードボイルドの名作を選ぶとしたら、僕は、やっぱり『あぶさん』を選ぶのではないでしょうか。

もっとも、長い連載の中で、あぶさんのキャラクターも大きく変化していくので、晩年の『あぶさん』しか知らない人が、初期の『あぶさん』を読んだら、「えっ!」ってなるかもしれませんね。

長期連載あるあるですが、『あぶさん』を読みながら、昭和から平成にかけての野球史を楽しんでみるのもありだと思います。

ABOUT ME
みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。