文学鑑賞

コナン・ドイル「青いガーネット」シャーロック・ホームズ唯一のクリスマス物語

コナン・ドイル「青いガーネット」あらすじと感想と考察

コナン・ドイル「青いガーネット」読了。

本作は、「ストランド・マガジン」1892年(明治25年)1月号に発表された、シャーロック・ホームズ・シリーズの短篇ミステリーである。

作品集としては、第一短篇集『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている。

長篇四作、短篇五十六作あるホームズ・シリーズの中で、唯一のクリスマスものであり、日本国内でも高い人気を誇る作品となっている。

クリスマスの二日後の朝のこと、ワトソンがホームズの部屋に入ると、ホームズは古い帽子を調べているところだった。

ホームズの話によると、この帽子は、クリスマスの朝に傷痍軍人組合員としてメッセンジャーをしているピーターソンが、一羽のガチョウとともに持ってきたものだという。

クリスマスのイブの夜を楽しんだピータースンが、明け方に帰宅しようとしていたところ、酔っぱらいがもめていた現場から持ち帰ってきたのだ。

帽子とガチョウは、ホームズの部屋で保管されていたが、持ち主が現れそうにないので、ガチョウはピータースンの家庭で焼かれることとなり、帽子だけが、今もホームズの部屋に残されている、ということらしい。

ところが、ホームズとワトソンが、そんな話をしているところに、件のピータースンが慌てて駈け込んで来た。

ピータースン夫人がガチョウを調理しようとしたところ、鳥の餌袋の中から小さな宝石が出てきたというのだ。

それは、五日前から盗難騒ぎで街中の噂となっている「青いガーネット」だった。

行方不明となった青いガーネットが、なぜ、ガチョウの食道の中から出てきたのか。

ホームズとワトソンは、事件の解決に乗り出していく、、、

シャーロック・ホームズ唯一のクリスマス物語

「青いガーネット」は、シャーロック・ホームズでは唯一のクリスマスものとして、ホリデーシーズンには必ず読み返したくなる名作のひとつである。

もっとも、ホームズ・シリーズでは定番となっているホームズによる推理はほとんどなくて、序盤で古い帽子の持ち主を推理する場面のほか、事件を解決する過程でホームズの推理が登場する場面はほとんどない。

ガチョウの入手先を辿ってゆく中で、仲買人を賭けに乗せて、ガチョウの入手経路を喋らせるところが、なんとかホームズらしい巧妙な手口というくらいで、事件そのものは、関係者の供述によってすんなりと解明されてしまう。

ホームズの名推理を楽しみにしていると肩透かしを喰らう可能性が高いが、それでも、この作品は、ホームズものの中でも高い人気を誇る作品となっている。

「青いガーネット」の人気の秘密は、この作品が、殊に名作として名高い第一作品集『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されているということと、クリスマスに関連した物語であるということが考えられるだろう。

とりわけ、クリスマスのロンドンを舞台として活躍する名探偵シャーロック・ホームズの姿は、季節感がたっぷりと溢れていて、クリスマスが好きな読者(例えば、このブログの管理人もその一人)には、それだけで満足できてしまうところがある。

そして、「青いガーネット」という謎の宝石が、このクリスマス物語を一層プレミアムな雰囲気に仕立ててくれているところもいい。

客はよろよろと立ち上がると、右手で暖炉棚につかまった。ホームズは金庫を開けると、青いガーネットを取り出した。宝石は冷たい光を放ち、たくさんの面で光を放散して、まるで星のように光り輝いていた。(コナン・ドイル「青いガーネット」)

古くからの読者には「青い紅玉」という名訳の方が親しみ深いだろうが、「青いガーネット」という訳もクリスマスらしくて好ましいと思う。

物語のラストシーンでは、ホームズが「それに、今はクリスマスで、ゆるしの季節だ」と語る場面があるが、多くのことで寛容になれるクリスマスの季節にぴったりの物語だと言えるだろう。

作品:青いガーネット
著者:コナン・ドイル
訳者:小林司・東山あかね
初出:ストランド・マガジン(1892年1月号)

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。