村治佳織『エターナル・ファンタジー』(初回限定版)購入。
本作『エターナル・ファンタジー』は、2025年(令和7年)10月17日に発売された(クラシックギターによる)ゲーム音楽集である。
この年、演奏者は47歳だった。
村治佳織の世界観をブレることなくきっちりと表現
秋の深まりとともに、しっとりとしたサウンドに包まれたいと思う時間が多くなった。
そして、秋にはできるだけシンプルなサウンドが似合う。
そんな季節にぴったりのアルバムが、村治佳織から届いた。
アルバムのタイトルは『エターナル・ファンタジー』。
オリジナル・アルバムとしては、2018年(平成30年)9月に発売された『シネマ』以来、7年ぶりとなる村治佳織のアルバムは、なんとゲーム音楽集だった。
村治佳織が、映画音楽をカバーするのは理解できる。
ビートルズをカバーするのも、まあ、わかる。
しかし、ゲーム音楽となると、果たして、これはいかがなものか?
そんな保守層の不安を裏切るかのように、本作『エターナル・ファンタジー』は、ゲーム音楽集でありながら、「クラシックギター界のミューズ」と呼ばれてきた村治佳織の世界観をブレることなくきっちりと表現する作品集となっていた。
「最近は映画もひとりで観ることが増えましたが、もともとは映画館で多くの人たちと一緒に楽しむものでしたよね。それに対してゲームは対戦型もありますけど、画面と自分が一対一で向かい合うものなので、よりダイレクトに心の深いところまで入ってくる音楽なのかなと私なりに考えるようになりました」(村治佳織 / mikiki.tokyo.jp より)
心の深いところへダイレクトに入ってくる音楽。
それが、本作『エターナル・ファンタジー』である。
ラインナップには、バブル世代には懐かしい『ゼルダの伝説』『ファイナルファンタジー』『ポケットモンスター』から、『マスエフェクト』『スターデューバレー』『サイレントヒル』など、近年の話題作までがずらりと並ぶ。
ポケモンの「プリンのうた」が、クラシックギター・サウンドになるなんて、誰が想像しただろうか?(♪ぷ~ぷるる~ぷ~ぷり~んぷり~ん)
「“プリンのうた” の原曲は30秒もないので、ジャズピアニスト大林武司さんに広げてもらって、それを小関佳宏さんにギターで弾きやすいように手を加えてもらいました」(村治佳織 / mikiki.tokyo.jp より)
選曲には、ゲームに詳しい仲間たちの協力があった。
「ひとつひとつ丁寧に聴いて、15曲に絞っていく作業がとても楽しかったです。自分なりにも調べていくなかで、ゲーム音楽はゲームにとって酸素のようなものとおっしゃっている方がいて、そういう言葉がアルバム制作でも参考になりました」(村治佳織 / mikiki.tokyo.jp より)
繊細なメロディラインを持った名曲が、最後には残されたのだろう。
個性豊かなゲーム音楽が「村治佳織」という統一された世界観を構築しているのは、アレンジャーの存在が大きい。
「テクニカルな効果が必要になると予感した曲はギタリストに、メロディの美しさを淡々と聴かせたい曲は必要な音だけを残してくれそうなアレンジャーにお願いしています」(村治佳織 / mikiki.tokyo.jp より)
メロディとアレンジとギター奏者の共演によって構築された美しいサウンドが、そこにはある。
ゲーム音楽という懐かしくて新しい世界
アルバムのコンセプトとして、ゲーム音楽を強く推したのは、デッカ・レコード(イギリス)側だったという。
クラシックギターとゲーム音楽とのコラボレーションは、ユニークであり、かつ、冒険でもある。
もちろん、レコード会社には、斬新な企画に対する勝算のようなものがあったに違いない。
懐かしくて新しい世界。ギターと私の旅路で出会えた大切な音世界。ジャンルの境界を越えた音世界をいつも感じていたいと願いながら活動を続けています。(村治佳織「エターナル・ファンタジー」)
ポイントになっているのは、新しい世界を自然体で受け容れることのできる、村治佳織の柔軟性である。
リラクシングミュージックを集めたアルバムを作りたいと願い続け、このアルバムでそれを実現できました。(略)クラシックギター奏者の枠にとらわれず、私自身は自由に音楽の海を泳ぎたいといつも願っています。(村治佳織「エターナル・ファンタジー」)
壮大なビデオゲームの世界観が、シンプルなアコースティックギターのサウンドで再構築されたとき、そこに広がっているのは、エモーショナルで甘美なリラクシング・ミュージックの世界だ。
映画音楽でもバロック音楽でも再現できなかった「癒しの世界」。
ゲーム音楽集の中に、村治佳織のオリジナル曲が、いかにもさりげなく含まれている。
それが、アルバム・タイトルともなった「エターナル・ファンタジア」だ。
画家が絵の隅に自分のサインを書き入れるように、アルバムの真ん中あたりに私のオリジナル作品を入れました。アルバムタイトルもこの曲名からインスパイアされました。1300年以上の歴史がある奈良・薬師寺の印象を曲にしました。(村治佳織「エターナル・ファンタジー」)
初回限定盤の特典DVDには、「ザナルカンドにて(ファイナルファンタジーⅩ)」のミュージック・ビデオが収録されている。
思えば、植松伸夫さんがいかに素晴らしく偉大な作曲家なのかを最初に教えてくれたのが弟でした。それも20年以上も前に。このアレンジには弟の植松伸夫さんに対する深い尊敬の念、ゲームへの深い想いが詰まっていると感じます。(村治佳織「エターナル・ファンタジー」)
村治佳織の弟(村治奏一)は、「ザ・ドラゴンボーン・カムズ(ジ・エルダー・スクロールズ・ファイブ・スカイリム)」「ザ・ラスト・オブ・アス テーマ(ザ・ラスト・オブ・アス)」「ワルツィング・イン・ザ・レイン(Sky 星を紡ぐ子どもたち)」「序曲(スターデューバレー)」の4曲で、演奏にも参加。
村治奏一秘蔵のギターも、姉(村治佳織)の強い要請によって、今回のレコーディングには貸し出されたらしい(笑)
「ワルツィング・イン・ザ・レイン(Sky 星を紡ぐ子どもたち)」には、フルート奏者(Cocomi)も参加していて、美しいトリオ演奏を実現させた。
アルバムの世界観をヴィジュアル化したジャケットのアートワークは、アートディレクター兼グラフィックデザイナー(高田唯)のプロデュースのもと、正体不明のアーティスト(POOL)と共に制作。
タワレコ特典のポストカードも、「性別や年齢、国籍も不確かな匿名の人々」をイメージした、アノニマスなデザインとなっている。
見どころ・聴きどころが盛りだくさんすぎて、当分は、このアルバムを毎日のように聴きこむことになりそうな予感。
これから冬を迎えるという季節に、このアルバムに出会えたことを心から喜びたい。