音楽

フジファブリック「若者のすべて」前向きに生きる若者への悲痛な応援歌

フジファブリック「若者のすべて」感想と考察

フジファブリック「若者のすべて」。

本作「若者のすべて」は、2007年(平成19年)11月に発売されたシングル曲である。

この年、志村正彦は27歳だった(2年後の2009年に29歳で死亡)。

アルバムとしては、2008年(平成20年)1月に発売されたサード・アルバム『TEENAGER』に収録されている。

最大の鍵は「僕らは変わるかな」

夏の終わりが来るたびに、フジファブリックの「若者のすべて」を聴く。

そんな夏が、あれからもう何回通り過ぎただろうか。

初めて「若者のすべて」を聴いたのは2007年(平成19年)の秋。

実に16年前のことだ。

あれから長い時間が経って、何度も何度も繰り返しこの曲を聴いているうちに、「若者のすべて」が伝えたかっただろうメッセージに対する解釈も、自分の中で変わっていった。

この曲は、とても人気のある一方で、「その良さが分からない」という意見も多い。

「若者のすべて」の歌詞は、かなりデフォルメされていて、歌に込められたメッセージがかなり読み取りにくいことは確か。

つまり、文学的に過ぎる歌詞なのだ。

でも、はぐらかすような表現だからこそ伝えられるものも、世の中にはあると思う。

はじめに注目すべきポイントは、実は最後のフレーズにある。

最後の最後の花火が終わったら
僕らは変わるかな
同じ空を見上げているよ

(フジファブリック「若者のすべて」)

最大の鍵は、もちろん「僕らは変わるかな」だ。

一年という時間の長さを、僕らは知っている。

そして、一年くらいでは、人間そんな簡単に成長できないものだということも、僕らは経験的によく分かっている。

その繰り返しが、僕らの人生。

悲しいけれど。

何かの節目を迎えて、「ああ、また一年経ってしまったんだなあ」と思うたびに、僕らはあまり成長していない自分と向き合う。

そして、「来年こそは変わっている自分でありたい」と、気持ちを新たにするのだ。

新しい自分に生まれ変わっているだろう、将来を夢見て。

そんな若者の祈りが、この歌からは感じられる。

「最後の花火に今年もなったな」と何度も繰り返されるのは、季節が何度も何度も巡っていくことへの、主人公の焦りだ。

そして、いつか、夏の花火の前で誓っただろう、将来の夢。

もしかすると、そこには、約束を誓い合った誰かがいたのかもしれない。

夏の花火が終わるたび、主人公は、あの夏の約束を思い出す。

今年もまた変わることができなかった自分と向き合いながら。

だけど、若者に時間切れということはない。

なぜなら「次の年というチャンス」が、若い人たちにはあるからだ。

「真夏のピーク」が去って、「最後の花火」になってしまったなら、また「次の夏」に向かって進んでいけばいい。

その繰り返しが、つまり「青春」というやつなんだろう。

「若者のすべて」というタイトルの意味

「若者のすべて」というタイトルには、主人公の強い決意が込められている。

「僕らが変わること」こそ、つまり「若者にとってのすべて」だと、主人公は考えているからだ。

全体に感傷的で熱さの感じられない歌詞なのに、なぜ、人はこの曲に惹かれてしまうのか。

それは、この曲が、ひたむきで懸命な若者に向けた応援歌になっているからだと、僕は思う。

この歌のメッセージは、二番目の歌詞で、より顕著に示されている。

世界の約束を知って それなりになって また戻って
街灯の明かりが また一つ点いて 帰りを急ぐよ
途切れた夢の続きを とり戻したくなって

(フジファブリック「若者のすべて」)

「世界の約束を知って それなりになって また戻って」は、夢破れた若者の姿なのかもしれない。

「世界の約束」っていうのは、「世の中、そんなに甘くねーんだよ」という現実社会。

でも、彼は「途切れた夢の続きをとり戻したくなって」帰り道を急ぐ。

そして「すりむいたまま僕はそっと歩き出して」いく。

ここだ。

思わず鳥肌が立ってしまうような前向き感。

なんて凄いフレーズなんだろう。

途切れた夢を引きずりながら、その夢の続きが欲しくて、すりむいたままの傷口で、そっと歩き出していく――なんて。

ボロボロで傷だらけの若者が、夢を諦めずに前へ前へと歩き続けていく姿が、まるで見えるかのようだ。

そう、この歌は、痛々しいまでの前向き感に支えられている。

言い方を換えると悲壮感。

繰り返して言うけど、この「若者のすべて」は、ひたむきで懸命な若者に対するメッセージソングだ。

だけど、もしかすると、それは、自分自身に向けられた応援歌でもあったのかもしれない。

「いつか変わりたい」という痛切な願いを込めた、自分自身への応援歌。

そして、どこか遠い場所から、同じ空を見上げているだろう誰かに、この歌が届くよう、主人公は祈っていたのかもしれないな。

曲名:若者のすべて
歌手:フジファブリック
作詞:志村正彦
作曲:志村正彦
編曲:フジファブリック
発売:2007年11月7日

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。源氏パイと庄野潤三がお気に入り。