音楽

サザンオールスターズ「YOU」悲痛な失恋男子に捧げる鎮魂歌

サザンオールスターズ「YOU」悲痛な失恋男子に捧げる鎮魂歌

サザンオールスターズ「YOU」。

本作「YOU」は、1990年(平成2年)発売のアルバム『Southern All Stars』収録曲である。

この年、桑田佳祐は34歳だった。

「柚(ゆう)」が好きだった「YOU」

昔、「柚(ゆう)」という女の子がいた。

彼女は19歳の大学一年生で、親元を離れて学生寮で生活し、サークルの男子先輩と恋をしていた。

そして、もうすぐ2年生になるという、ある春の午後、彼女は死んだ。

恋人の運転する自動車が、対向車線をはみ出してトラックと正面衝突したのだ。

助手席に座っていた彼女は、ほぼ即死の状態だったらしい。

自動車のカーステレオからは、サザンオールスターズのアルバム『Southern All Stars』が流れていたという。

彼女がサザンオールスターズの音楽を聴くようになったのは、サザン好きだった恋人の影響かもしれない。

アルバムの中の「YOU」という曲を、彼女は特に好きだった。

恋人が彼女を呼ぶ「柚(ゆう)」という言葉と、それはとても似ていたからだろうか。

もしかすると、彼女は、「YOU」を自分の曲だと思っていたのかもしれない。

謎の日本語で独特の世界観を生み出す桑田マジック

『Southern All Stars』は、1990年(平成2年)1月に発売された、サザンオールスターズ9作目のオリジナル・アルバムである。

原由子の出産(1985年6月)で活動を休止していたサザンの、これが復活後最初のアルバムだった。

シングル「フリフリ’65」や稲村ジェーン挿入歌「忘れられたBIG WAVE」などの人気曲と並んで、「YOU」は収録されている。

「YOU」は、失った夏の恋を思い出して嘆く男性の心情が綴られた失恋ソングだ。

相変わらずの桑田節で解読不明のフレーズが並ぶが、謎の言葉に紛れ込ませるように、男の切ない気持ちがしっかりと織り込まれている。

未練たらたら。

それは、まるで祈りにも似た男の叫びである。

もう一度だけ superstition 廻れ
悲しいことも 愛に変わるように
忘れ得ぬ君 そして大事な BABY LOVE
今でも胸の奥には 虹が駆けてゆく

(サザンオールスターズ「YOU」)

「ただの歌詞じゃねえか、こんなもん」とか言いながら、桑田佳祐の作る歌詞は深い。

テーマ設定がしっかりしていて、脳内ストーリーが確立しているから、どれだけ謎の言葉を並べても、歌の中の世界はちゃんと伝わってくる。

いわゆる「桑田マジック」だ。

サザンの歌だからといって、歌詞を甘く見てはいけない。

失恋した経験のある男性だったら共有できる切なさ

意味はよく分からないけれど、「YOU」はサビで繰り返される英語のフレーズもいい。

Baby,stay by me!!
I remember you and wonder where you’ve gone
なぜにつれぬそぶり
Ev’ry nite’s so blue. No matter what goes on
いつかどこかで

(サザンオールスターズ「YOU」)

失恋した経験のある男性だったら、この切なさは伝わるはずだろう。

とにかく、離れていってしまった女性に「戻ってきてくれ!」と叫ぶ、その気持ちだけはちゃんと伝わってくる。

「Baby,stay by me!!」と「I remember you」がいいんだよね、しみじみと。

あれから30年以上が経つけれど、今に至るまで僕は、この曲こそサザン屈指の名作だと思っている。

夏が来るたびにドライブで聴きながら、一人口ずさんでいることは言うまでもない(笑)

悲痛な男の鎮魂歌

ところで、恋人を亡くした男の子は、立ち直るまでに、かなりの時間を要した。

いつか「YOU」を歌っていた彼。

あの時、彼は、どんな気持ちで「柚(ゆう)」の歌「YOU」を歌っていたのだろうか。

「ゆう」が忘れられないと繰り返される、悲痛な男の鎮魂歌を。

曲名:YOU
歌手:サザンオールスターズ
作詞:桑田佳祐
作曲:桑田佳祐
編曲:サザンオールスターズ
アルバム:Southern All Stars
発売:1990年1月13日

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。源氏パイと庄野潤三がお気に入り。