庄野潤三・小沼丹・井伏鱒二

小沼丹「ゴンゾオ叔父」少年時代の懐かしい思い出と郷愁の切なさ

小沼丹「ゴンゾオ叔父」少年時代の懐かしい思い出と郷愁の切なさ

小沼丹「ゴンゾオ叔父」読了。

本作「ゴンゾオ叔父」は、1956年(昭和31年)10月『群像』に発表された短編小説である。

この年、著者は38歳だった。

作品集としては、2019年(平成31年)1月に幻戯書房から刊行された『ゴンゾオ叔父』に収録されている。

ウイリアム・サローヤン「我が名はアラム」に似た味わい

本作「ゴンゾオ叔父」を読みながら、僕は、ウイリアム・サローヤンの「我が名はアラム」を思い出していた。

ウイリアム・サロイヤン「わが名はアラム」生きることで詩を表現した人々の思い出

幼き日の記憶の中にあるちょっと個性的な叔父さんの物語は、サローヤンの味わいと言ってもいいのではないだろうか。

特に、汽車の中で果物を食べる場面は楽しい。

──林檎畑を見たことがあるかね? と叔父は訊ねた。昔、叔父さんは林檎畑をやろうかと思ったことがある。そこで素晴らしい林檎をつくり出すのだ。他の林檎なんかとても太刀打出来ないほど、立派で美味い奴だ。(小沼丹「ゴンゾオ叔父」)

結局、ゴンゾオ叔父さんは「思っただけでやらなかった」のだが、大きな夢を抱く憎めない叔父さん像は、サローヤンに通じるものがあるように思われる。

アドバルーンのように丸い体型をしている叔父は、ビジュアルからして個性的である。

そして、ゴンゾオ叔父さんは、丸々と太っていることを、極めて肯定的に受け止めていた。

──いや、と叔父が云った。肥った人間は気が長いものだ。矢鱈に怒ったりしないものだ。叔父さんをごらん。ちっとも怒らないだろう? これがいい証拠だ。怒ると、人間はだんだん痩せてくる。痩せてくると、怒りっぽくなるから、また痩せてくる。しまいには針金みたいになる。(小沼丹「ゴンゾオ叔父」)

幼い少年を相手に自説を展開する叔父さんの姿は、いかにも微笑ましい。

短編ではなく、長編小説として読みたいと思える魅力を持った物語だ。

ゴンゾオ叔父という一人の人間を通して描き出した幼き日の郷愁

この小説は、和やかなユーモアと同時に、亡くなった叔父に対する少年の悲しみが描かれている。

僕が最後にゴンゾオ叔父を見たとき、叔父は空気の抜けたアドバルウンよろしく、皮膚がたるんで萎びてしまっていた。それは戦争が終ってまもないころである。最後にと云うのは、それから二年と経たぬ裡にゴンゾオ叔父は死んでしまったから。(小沼丹「ゴンゾオ叔父」)

つまり、この作品は、記憶に残る懐かしいゴンゾオ叔父さんの追憶の物語であり、おかしな叔父さんの思い出の中に、幼き日の郷愁が描かれている。

読者は、個性的な叔父さんの様子に微笑みながら、叔父さんを失くした悲しみを、少年と一緒に共有することになるのだ。

小沼丹が「ヒューモアの作家」と呼ばれる由縁だろう。

叔父が死んだ翌年、伯母は怒ってこんなことを言った。

──ゴンゾオも死んでしまっただ。へえ、みんなに心配ばかりかけて死んでしまっただ。あんな勝手な奴はないだ。人間は誰でも永生きした方がいいけれど、あんな者は早く死んだ方が良かった。それがみんなのために良かっただ。(小沼丹「ゴンゾオ叔父」)

自分を置いて先立ってしまった叔父に対する伯母の怒りは、そのまま伯母の悲しみである。

そして、そのことを幼い日の語り手<僕>は、ちゃんと理解している。

僕は伯母が腹を立てている理由を知っていた。多分、伯母は悲しみとか愛情を立腹と云う形でしか表現できなかったのだろう。(小沼丹「ゴンゾオ叔父」)

読み終わった後に残る寂しさは、やはり、郷愁というものだろう。

人は、誰しも少年の日を持っている。

その少年の日の悲しみや喜びを、ゴンゾオ叔父という一人の人間を通して描き出したものが、すなわち、この「ゴンゾオ叔父」という物語だったのだ。

作品名:ゴンゾオ叔父
著者:小沼丹
書名:ゴンゾオ叔父
発行:2019/01/09
出版社:幻戯書房

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